コラム
オンナ万引きGメン日誌

萬田久子風の万引き犯に「早く死ね、ばーか」と逃げられて……Gメンの犯した“完全なミス”

2020/02/15 16:00
澄江(保安員)
bluemamaさんによる写真ACからの写真

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ、少し暖かくなったとは言え、まだまだ寒い日が続いていて、毎日がつらいですよね。私たちが派遣される現場の大半を占める食品スーパーの店内は、大きな冷蔵庫のようなものなので、どうしても体が冷えてしまいます。その影響なのか、近頃は、足腰に痛みを感じることが増えてきました。この仕事の基本は、視力と脚力。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、万引き行為の現認は“瞬間”の世界なので、万全の体調で挑まなければ結果を残すことはできないのです。

 先日は、現認の取れた30代前半と思しき女性万引き犯の素早い行動に足がついていかず、まんまとチャリ(一度隠した商品を出されること)され、逃げられてしまいました。今回は、その時のことについて、お話ししたいと思います。

常習犯としか思えない動きを見せる、萬田久子風の女

 当日の現場は、東京の湾岸地域に位置する大型総合スーパーT。1階に食品、2階にドラッグコスメ、3階にはテナントの百円ショップを有する大きなお店で、過去に何度もお世話になったことのある馴染み深い現場です。やけに出入口の多い厄介な造りと、店員の少ない売場が多くの万引き犯に好まれているようで、その被害が減ることはありません。各売場をハシゴする被疑者も多く、どのフロアにいても気の抜けない状況に置かれるため、ひどく疲れる現場の一つと言えるでしょう。

 最近は、夜の被害が多いらしく、終電に合わせたシフトでの出勤です。遅めのランチを済ませてから現場に向かい総合事務所まで挨拶に出向くと、肝臓が悪そうな顔色をした初老の店長さんが、興奮した面持ちで食い入るように防犯カメラのモニターを睨んでいました。

「おお、ちょうどいいところに! 前から目をつけていた女がさ、ちょうどいまやっているから、すぐに入ってくれる?」

 すぐさまモニターを確認すると、大きなつばのついた帽子を被った萬田久子さんを一般人にしたような女性が、2階の売場でカゴの中にある化粧品などを次々とバッグに隠していました。「棚取りは見た」と店長さんが言うので、この店のモノを隠し込んでいることに違いないと思われますが、商売柄、犯行の一部始終を自分の目で見なければ気が済みません。店内に入って行動を見守ると、カゴの中にある商品をバッグに入れ尽くした女は、さらに2本の化粧水をわしづかみにしてみせました。それをバッグの中に直接隠すと、そそくさとエレベーターに乗り込んでいきます。場数を踏んだ常習者としか思えない動きに、自然と身体が緊張してしまい、両脇から変な汗が流れ出ました。

(一緒に乗り込めば、正体がバレる)

 自分の直感に従い、エスカレーターに乗るべく踵を返した瞬間、左膝が抜けたようになってしまいました。うまく力の入らない状態となった左足を引き摺り、ぴょこぴょこと体を跳ねさせながらエスカレーターに乗り込み、痛む左膝を擦りつつ女の居場所を探ります。

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