カルチャー
【特集】「慰安婦」問題を考える第3回

戦地であったがゆえの凄惨な性暴力とコミュニティからの孤立――日本軍による中国人性被害者の知られざる実態

2019/08/10 19:00
小島かほり

共産党員だったため拷問にかけられた万愛花さん/(C)2018 Ban Zhongyi

――真理を求める被害者に抗うように、いまの日本では歴史を歪曲するような動きが目立っています。班さんが映画を作ろうと思った背景には、歴史修正主義への危機感があったそうですが、具体的にそれを感じた出来事は?

班監督 95年に、私は中国人被害女性への支援活動を始めました。その募金の呼びかけが朝日新聞に取り上げられたときに、私の連絡先が掲載されたのですが、とある大学の教授から電話がきたんです。彼は、4歳で内モンゴルから山西省に来た愛花さんのことを「彼女は奴隷妻、童養媳(トンヤンシー)だろ?」と聞いてきました。童養媳とは、将来その家の男児の妻にするつもりで、女児を買って育てるという、中国にあった婚姻制度のことです。要は「一度中国人が奴隷とした女性を、なぜ日本人が踏みにじってはいけないのか?」という主張なのです。この考えに、すごくビックリしました。

 この映画を作ろうと思った直接的な原因は、2013年の当時の大阪市長・橋下徹氏のいわゆる「橋下発言」(※)ですね。先ほどの大学教授と同じような考えを持った政治家が出てきた。「ほかの軍隊もやっていたのに、何が悪い」という主張は、歴史修正主義によくみられます。悪を横並びにして、「私だけが悪いんじゃない」という理屈には断固反対です。

――おっしゃる通りですが、それでもいまは歴史修正主義が日本社会に侵食しており、それがあいちトリエンナーレの少女像への政治家・市民からの撤去要請に至ったように思います。日本人が歴史と向き合うには、どうすべきでしょうか?

班監督 近年、留学する日本人が減っていますが、日本以外で歴史を学ぶということはすごく大事です。日本の教育の場では日中戦争のことを全然教えないで、太平洋戦争の被害の部分ばかりを取り上げていると思います。戦争について学ぶ時間が短いし、教科書からは「慰安婦」の文字も消えました。そのため、他国、特にアジア諸国との近現代史の認識・理解のギャップが大きい。一部の日本人は「日本軍」という三文字がついているだけで、アレルギー反応のように感情的になっていると思います。

 まずは日本という枠組みから一歩踏み出し、一つの空間、一つの歴史、一つの利益から解放され、俯瞰的な視点に立つこと。そしてナショナリズムのフィルターを外すこと。そのために、戦争に対する正しい知識を自分から積極的に調べて、身につける。そうすればどんな歴史からも逃げずに受け止められるようになるし、そのことが自分自身の人生を豊かにしてくれるはずです。

※「慰安婦」問題に関して、「戦場において、世界各国の兵士が女性を性の対象として利用してきた」「世界各国もsex slaves、sex slaveryというレッテルを貼って日本だけを非難することで終わってはならない」と、「慰安婦」の存在を認めつつも、日本政府の責任を転嫁するような持論を展開した。

班忠義(はん・ちゅうぎ)
1958年、中国・遼寧省撫順市生まれ。そこで日本人残留婦人と出会い、残留婦人問題についてつづった『曽おばさんの海』(朝日新聞社)を出版し、第7回ノンフィクション朝日ジャーナル大賞を受賞。92年、中国人元「慰安婦」万愛花さんと出会い、中国人・韓国人元「慰安婦」だけでなく、加害を証言した旧日本軍兵士からも聞き取り調査を始める。『チョンおばさんのクニ』『ガイサンシーとその姉妹たち』『亡命』といったドキュメンタリー映画を監督。

『太陽がほしい 劇場版』

「私は慰安婦ではない――」。中国人女性の言葉に耳を傾け、寄り添い、支え、記録を続けた20年。「慰安婦」という言葉からは想像できない過酷な人生がそこにあった。

東京:アップリンク渋谷(終了日未定)、大阪:シネ・ヌーヴォ(〜8月23日)、愛知:シネマスコーレ(〜8月16日)にて公開中! ほか、神奈川、新潟、京都、兵庫、広島など全国順次公開。

(取材・文=小島かほり)

最終更新:2019/08/10 23:54
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