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児童扶養手当の自宅訪問調査で母親がうつ病に タンスの中身を確認し元夫に連絡をするのは“適切”なのか?

2019/07/05 20:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

 香川県高松市で、こども家庭課の男性職員が昨年8月の午後7時頃と昨年9月の午後8時頃に、「児童扶養手当」を受給する母子世帯を訪問し、“調査”を行っていたことがわかった。児童扶養手当は同居男性がいると受給資格を失うことから、男性職員はその有無を確認するため、家にあがり、タンスの中の衣類をスマートフォンで撮影したりしたという。

 今月2日の市議会でこの件に言及した岡田まなみ市議は「男性ひとりが夜、女性宅に不利益をほのめかして入室するのは行き過ぎた調査だ」と指摘。また、「調査を断れば手当が止まる可能性がある」と言われ職員を部屋に上げた母親はその後、うつ病と診断されたという。

 一方、大西秀人市長は「受給者が在宅の時間帯に調査をするので、夕方以降になることもある」「調査員の男女の別は関係ない」「国の事務処理マニュアルに従い、適正な調査だった」と答弁。間違ったことはしていないと反論した。
 
 ひとり親家庭等が対象の児童扶養手当には、いくつかの受給条件があり、「児童が父又は母の配偶者(事実上の配偶者を含む)と生計を同じくしているとき」は対象外となる。いわゆる「内縁関係」「事実婚」などのパートナーの存在が認められる場合だ。とはいえ、どういった状況ならば「内縁関係」「事実婚」に該当するのか、はっきりとした規定はない。高松市はなぜ、執拗な調査を行ったのだろうか。高松市役所こども家庭課の担当者から話を聞くことができた。

立ち入り調査は断ることも可能だが…
 高松市役所こども家庭課の担当者によると、今回報道されている事案は、市民から「男性と一緒に住んでいるようなので調査して下さい」との情報提供が入り対応した案件であり、受給者全員に対して行っているわけではないという。

<高松市内の児童扶養手当受給資格者はおよそ4200人。訪問調査が実施されるのは、あくまでも“疑義”があった場合であって、受給者全員に実施しているわけではありません>

 “疑義”とはいわゆる不正受給だ。高松市では、多い時は1日に1~2件、少ない時でも1週間に1件は必ず、児童扶養手当の不正受給に関する情報提供が市民から寄せられるといい、その大半が「男性と同居している」という内容のようだ。

<離婚後などの児童扶養手当の新規申請時に、“調査がつきもの”であること、事前連絡なしの訪問調査が行われることもあると、説明はしています。事実婚に関しても、「児童扶養手当というのは、婚姻している方はもちろんのこと、事実婚も支給資格から外れてしまうので気をつけてくださいね。事実婚というのはこういうものです」とお伝えします。>

 事前連絡なく「抜き打ち」で行われるという訪問調査。職員が家の中の状況を確認するが、市に強制力はなく、あくまでも任意なので断ることも可能だ。ただし、調査を断った場合は“疑義”が残り、一時的に支給がストップするケースもある。

<(訪問調査を断られたら)我々は色々考えます。ただ、時間はかかってしまう。現段階で児童扶養手当は年に3回、4月・8月・12月に4か月分まとめて支給されるが、支給月に間に合わなければ、支給ができなくなります。資格は喪失しないが 調査に時間がかかって支給停止になる方もいる>

 訪問調査を実施するタイミングはさまざまで、申請段階で“男性の影”が見受けられ訪問に至ることもあるという。

<今回は、情報提供に基づいて調査をしていたところ、予想通り、男性物の衣服が出てきました。「この服はどなたのものですか?」と聞いたところ、元夫のだとおっしゃったので、「じゃあ、この服がご主人さんのものだということを証明していただきたい」とお話ししました>

<元ご主人に確認する方法として、調査対象の母親に了解を取った上で、服を撮影させてもらい、ご主人に来てもらうなどした結果、最終的に服は元ご主人のものだと判明しました>

 しかし、もし夫のDVが原因で離婚をした場合、元夫と連絡を取ることは危険だろう。また、元夫が協力しないなどのケースもあり、「元夫のもの」だと証明できない場合もあるのではないか。

 そもそも、母子世帯の家に男性物の衣服があることによって、即ち「現在、事実婚状態にある」と言い切れるものではない。

事実婚かどうかの線引きは曖昧
 恋愛関係にある住居と生計が別々の交際相手が家に訪ねてくる、結婚を視野に入れての交際で子どもも交えて一緒に過ごす時間を持っただけ、という場合でも、事実婚に該当するのか。

<事実婚かどうかは「調査しないとわからない」というのが実情です。事実婚の見極めは非常に難しい。出入りがあるとなると……、事実婚について国は、“原則同居。ただし頻繁に出入りがある場合や定期的な生計の援助がある場合も事実婚とみなしますよ”というスタンスなので、疑義があれば我々は調査せざるを得えません>

 事実婚かどうかの線引きをはっきりと決めないのは、なぜなのだろうか。

<基準を決めると、みなさん“基準”を気にされます。よく、「(交際相手が自宅に来るのは)何回までいいんですか?」と聞かれます。しかしきっちり基準を決めると、ギリギリセーフのところで籍を入れない方も出てくることが懸念され、自治体がケースバイケースで判断しているのです>

<もちろん、男性物の衣服があったというだけで、児童扶養手当打ち切り、資格喪失という話に持っていけるものではないとは思っています。ただ、基本的に、“お付き合いするのは絶対大丈夫”というものではない。もう、そういう制度なんですよね……>

今後も立ち入り調査は継続していく
 調査そのものだけではく、母子家庭宅に夜間に男性職員がひとりで訪ねたことも問題ではないのか。

<常に夜間を狙って行っているわけではなく、日中に調査させていただくこともあります。しかし、日中に訪ねても仕事などで留守にされており、会えないパターンのほうが多いのです。今回も、まず18時半に訪ねたけど不在だったので、夜間に再度訪問しました>

<今後は、できる限り複数の職員で調査することを検討しています。女性職員が訪問した際に男性が出てくることもありますので。また、職員がひとりだけだと「言った・言わない」「説明した・していない」というすれ違いもが生じやすいので、気をつけるべき案件だと認識しております>

 家の中にあがり、タンスの中身を撮影するといった調査内容には「行き過ぎだ」との指摘もあるが、「今後もこの調査は続けるのか」という問いに関しては以下の回答であった。

<公費を使っての不正受給は改善していかなければいけないという国の方針もあり、高松市としては、基本的には疑義のある案件に関しては立ち入り調査をしていく予定です>

<不正受給の情報提供をされる市民の方は「私たちの税金がああいう人に使われるのはどうしても納得がいかない」と訴え、その後、ちゃんと市が調査したかのかどうかも、見ておられます。蔑ろにはできません>

 もちろん、不正受給は取り締まる必要があるだろう。しかし今の調査体制は、不正をしていない受給者にとっても負担が大きく、今回立ち入り調査に入られた女性は精神的負担からうつ病を発症した。また、職員側の負担も過大ではないだろうか。

 そもそも、児童扶養手当は“子ども”のための手当てだ。親がどのような養育状況かも踏まえ、子どものことを第一に考えた方法に改善していく必要があるだろう。

最終更新:2019/07/05 20:00
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