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『<女流>放談』レビュー:異なる時代を生きた11人の作家の“生の声”によって見えてくる、「女」の変遷

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。

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■『<女流>放談――昭和を生きた女性作家たち』(イルメラ・日地谷=キルシュネライト、岩波書店)

■概要

 1982年当時、駆け出しの日本文学研究者であったドイツ人女性が日本の女性作家に取材したまま非公開となっていたインタビュー集。それが、約36年もの時を経て『<女流>放談――昭和を生きた女性作家たち』として刊行された。生年順に11人の女性作家を「明治生まれの先駆者たち」(佐多稲子、円地文子)、「『戦中派』の戦後」(河野多惠子、石牟礼道子、田辺聖子、三枝和子、大庭みな子、戸川昌子)、「『戦後派』の憂鬱」(津島佑子、金井美恵子、中山千夏)と3つのタームに分けて収録している。金井、中山が改めてメッセージを寄せているほか、特別編として2018年に行われた瀬戸内寂聴へのインタビューも収録。

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 私たちを取り巻く社会情勢、価値観は、ここ100年足らずのうちに急速に変遷し、今も変わり続けている。当たり前ではあるが、当たり前すぎて普段意識することはない、近代の歴史の変遷を実感させられるインタビュー集が同作だ。

 今現在も第一線で活躍する金井、芥川賞をはじめとする数々の文学賞を受賞している人気作家・田辺、政治家としても存在感を見せた中山、女性として初めて芥川賞の選考委員を務めた大庭と河野――。1982年に、日本文学研究者であるドイツ人女性イルメラ・日地谷=キルシュネライトが、近現代の日本文学を語る上でも欠かせない10数名の女性作家に取材したものの、さまざまな事情で邦訳公開されることのないまま30年以上眠っていたインタビューが、イルメラの友人で詩人・伊藤比呂美による働きかけをきっかけに、昨年末に出版された。

 学位を取ったばかりの若いイルメラが、はるばるドイツから来日し、当時活躍していた人気女性作家たちに公衆電話で直接アポイントを入れ、自宅や仕事場に飛び込むようなかたちで敢行されたインタビュー取材(一部は84年・88年取材)。インタビュアーの並々ならぬ熱意に応えるように、作家たちも、小説論のみならずジェンダー観や敗戦した日本で小説が果たす役割について語っている。シビアな質問にも率直に答え、時に取材の域を超えて、友人との会話のように活発に意見を交わしている。

 本書の魅力の1つは、インタビューに答える作家たちの、それぞれの人間味が垣間見える点だ。特に、出版前に故人となってしまった8人のインタビューについては、「原則として音声から起こしたままの記録」となっている。そのためか、取材の導入に当たるなにげないあいさつや、本題からそれた話題、インタビュー中に訪れた隣人との話など、通常のインタビュー記事には掲載されない言葉もつぶさに書き起こされており、今はもう聞くことのできない、作家たちの“生の声”をすぐそばで耳にしているような、貴重な資料となっている。

 そしてもう1つの魅力は、イルメラが全員に共通して「女性の作家としての役目」を主軸に質問を投げかけていることで、当時のジェンダー観のバリエーション、世代による変遷がうかがえることだ。

 イルメラは、さまざまな質問を駆使して、「女流作家」という言葉への違和感、そして単純に女性であることの不公平を炙り出そうとしている。その中で語られる彼女らの境遇を追っていけば、今から100年ほど前には、全く異なる風景だったことに気づかされる。女性は高度教育を受ける資格を得られなかった80年前、貧しければ口減らしに娘だけ家を出された70年前、男性と同様の教育は受けられるものの就職する資格は得られない40年前。そんな中で複数の作家が、上の世代が闘ってくれたから「私たちはかなり楽」と述べ、さらに恵まれるであろう将来を見据えて、後世を生きる女性に期待を懸けている。

 本書を通して読めば、ジェンダー観、人の生き方に対する多様性は、ここ100年足らずの間に急速に更新を重ね続けていて、どのような経緯で今に至っているのか、その潮流の一筋を感じることができる。その時代がまとっていた精神の変遷を、「女性作家へのインタビュー」という1つの軸を通すことで、彼女たちと共に駆け抜けたような爽快感も味わえるのだ。

 また、本書には、イルメラのエッセイとして、当時の日本・欧州の時代背景についての補足、各作家の意見のまとめ、インタビューしたものの収録がかなわなかったという森茉莉、有吉佐和子らの取材時を振り返ったエピソードが収録され、さらに80年代当時は取材時間が取れなかった瀬戸内の2018年版インタビューまで加えられている。

 イルメラは、女性作家たちの発言と現代の状況を照らし合わせながら、「過去を知ることによって、初めて現在をも把握できる」と自身のエッセイを結ぶ。平成も区切りを迎える今だからこそ、本書は特に女性にとって、自分が今立っている場所を知るために有効な、貴重な1冊になるだろう。

(保田夏子)

最終更新:2019/02/17 17:30

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