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男とか女とかじゃない「属性」で人を好きになるのかもしれない/小谷野敦×枡野浩一

2017/03/05 20:00

「枡野さんは女が好きなんじゃなくて、“物を書く女”が好きなんですね」と指摘する小谷野さん。前回に続いて“自分の中の男子性のなさ”を語る枡野さん。さらに、改めて正面から「枡野さんはなぜ離婚されたと思ってるんですか?」とたずねる小谷野さんに対し、真正面から答えつつ、逆に「僕の離婚原因はなんだと思われました?」と問い返す、枡野さん。そして小谷野さんが返した、あまりにも直球な回答とは……。

◎好きになっても、その人と合体したいとか思わない(枡野)

小谷野 枡野さんが「愛が信じられなくなった」っていうのは、もともと、なんか普通じゃないんじゃないのかな。

枡野 そうですね。もともと恋愛に興味なかったかといえば、そうです、実は。

小谷野 それを小説に書けばいい。

枡野 ああ、そうかぁ。でもわかんなかったんですよ。自分の興味とみんなの興味がどこまで違うかは、ほんとわかんないじゃないですか。

小谷野 いやだけど、人の文章とか読めばわかるじゃない。

枡野 みんな正直じゃないんですもん。

小谷野 いやいや(笑)正直な人もいますよ。

枡野 たとえば『君の名は。』を観ても、主人公の男の子はオナニーとかしないんですけど。

小谷野 なんでそこで『君の名は。』が出てくるの?

枡野 『君の名は。』っていう、小谷野さんがご覧になるときっと怒るアニメがあるんですよ。“たったひとりの運命の人”っていうのを描くために多くの人を殺すっていうアニメなんですけど。なんていえばいいだろう……ネタバレになっちゃうけど……有名なアニメだからいいか……

小谷野 いや、やめたほうがいいです。

枡野 はい。

小谷野 だからそういうのじゃなくてね、『オリンポスの果実』[注]とかね。

枡野 ああ、さすがにそれは読みました。

小谷野 ああいう風にね、好きになるんですね。

枡野 だから僕、女性を好きになっても、その人と合体したいとかにはなんないんですよね。

小谷野 結婚したいとは?

枡野 う~ん、だから結婚相手はそう思ったから結婚したんですよ。でも……

小谷野 それはやったあとですよね?

枡野 やったあと、やったあと。

小谷野 しかも子供もできたあとですよね。それはかなり刹那的ですよね。

枡野 う~~ん。

小谷野 だから、なにもしていないうちから、「いずれはこの人と結婚するんだ!」とは思わなかった?

枡野 思わなかった。

小谷野 それはやっぱり普通じゃないね。

枡野 あと男子がクラスメイトの女の子の名前を全部知ってて、ランキングつけたりするんですよ。AKB48みたいに。そういうのもま~~ったく全ッ然理解できなかったですね。

小谷野 小学生とか中学生のときとか……高校とか、好きな女の子とかいなかったんですか?

枡野 高校も共学でしたけどね、あんまりいなかったですね。高校の文芸部の女の子で、メガネとると美少女の子がいたんですけど、「ああ、美少女だな」ってちょっとドキドキはしましたよ。ふたりで三角形の乳酸菌飲料が3つついてるやつ、“コーラス”とかいう名前の。それを分けあってチューチューって飲んでドキドキしたっていうのは覚えてますけど、それだけですね。

小谷野 さっき詩人の人を好きになったって言ってましたけど、枡野さんが好きになる人ってみんな物書きなの?

枡野 おっしゃるとおりでございます。そのとおりですね。ほんとにそうですね。ほぼひとり残らずそうですね。

小谷野 そうだろうと思いました。枡野さんは女の人を好きになるんじゃなくて、物を書く女の人を好きになる……

枡野 はい。

小谷野 普通は女という属性に対して「好き」が働くんだけど、枡野さんは「物を書く女」ってところで働くんですね。もしかしたら、それは男にも働いてるんじゃ?

枡野 あっ! それは……時々考えますよ。松尾スズキさんがもしゲイで、万が一僕のことがタイプだったらどうしよう、とか考えたことがありますね。そしたら、まぁ、どんなことを要求されるかによりますけど、松尾さんなら「しょうがないな」って受け入れるだろうなって思ってました。

小谷野 そ、そうですか(笑)。

枡野 松尾さんには失礼な話ですけど。

小谷野 それで『猫猫塾』では、どういう小説を読んできたのかということも聞くんですが、枡野さんはどうですか? なんか枡野さんは田中りえ[注]とか、峰原緑子[注]とか、意外とマイナーな最近の女性作家には詳しいんだけど、古典的なものはどうですか?

枡野 それがですね、そんな読んでないかもしれません。たとえばどんなものが古典的なんでしょうか?

小谷野 シェイクスピアは?

枡野 ああ、読んでないですね。

小谷野 ヴィクトル・ユーゴー?

枡野 読んでないです。僕が古典的なものも読まなきゃと言われて読んだのは、数少なくて……海外のものは読んでないですね。ピンポイントでは読んでるですけど。あの、太宰治とかは全部読んでるんです。たまたま仕事で読む必要があって。

あと、もうちょっと現代の作家だと、北杜夫とか筒井康隆も全部読んだし。(ひとりの作家を)全部読むっていうのが高校生のときは自分の中で流行っていて。ただ、凄く本が好きでもなかったんで、最初は星新一から入って、星新一を全部読むと筒井康隆も全部読みたくなって。でも小松左京は全部読みたくなくって。で、北杜夫があのへんと仲良かったから北杜夫も全部読んで、遠藤周作も全集をけっこう読んでるんですよ。だからそのへんの人はいっぱい読んでいて。

あと、だんだん好きな作家が出てくるから、干刈あがたさん[注]っていう死んじゃった、10年間しか活動しなかった作家とかは熱心に読んでたりとか、増田みず子さん[注]とか、自分の肌にあう人を見つけては網羅的に読んでいくって感じだったんですね。あと中学生か高校生のとき、三田誠広とかも好きで全部読みましたね。だけど古典的なものは人に薦められてどうしてもってときは読みますけど、あんまり読んでないんですよね。それで、たまたま図書館に入ってるマイナーな(文芸誌)「早稲田文学」とか、そういうのに載っている小説をつい読んじゃっていたので……。

◎「小谷野さんがいいと思う名作はなんですか?」(枡野)

小谷野 まぁ、「私小説」を書くといってもやはり、古典的な小説はある程度読まないと……。『猫猫塾』では読まされますよ。

枡野 どういうものを課題として読まされるんですか?

小谷野 まずどの程度読んだかを聞いてから、読んでないとして、さっきのシェイクシピア、スタンダール、バルザック……

枡野 あ、バルザックは読みました。

小谷野 なにを、どれくらい読みました?

枡野 ちょっとだけですね。あの……僕……

小谷野 なにを読みました?

枡野 なんでしたっけ? 一番代表作の……なんだっけ……でも一冊だけですね。(枡野注/「人間喜劇」セレクションというのの一冊でした)

小谷野 バルザックは『従妹ベット』がいい……

枡野 それは私小説なんですか?

小谷野 違います。だから、私小説を書くからといって私小説を読まなくてもいいんです。

枡野 それはそうですね。

小谷野 あとはまぁ、ゾラ……

枡野 ゾラは読まないですね……

小谷野 夏目漱石?

枡野 夏目漱石は読みましたよ。

小谷野 あ、そうですか。じゃあ、志賀直哉?

枡野 志賀直哉はけっこう読みました。

小谷野 近松秋江?

枡野 それは小谷野さんにある本のあとがきで、枡野がいま離婚のことを書いているのは近松秋江みたいだ、って書かれてませんでしたっけ? それで読んでみました。 『青空文庫』で読みました。

小谷野 はい。

枡野 現代の私小説の人はちょっと読んだんですよ。佐伯一麦[注]とか。いっぱい読んだから、同じネタを何度も書いてるなとかわかったんですけど。

小谷野 大江健三郎は?

枡野 大江健三郎は短編をよく読んでました。高校生の頃に。だから小谷野さんの本『江藤淳と大江健三郎 戦後日本の政治と文学』)も読むと凄く面白そうだなと思いました。有名な長編は読んでなかったりしますね。『河馬に噛まれる』とか、あのへんから読み始めて。高校生だったので。

小谷野 『平家物語』、『源氏物語』は?

枡野 どちらも読んでないです。そのあたりも読まなきゃと思い、ほら、最近出た現代語訳のすごくわかりやすいやつを大塚さん(『源氏物語』大塚ひかり全訳)に送ってもらったりもしたんですけど。(枡野注/大塚さんの注釈コラムが面白くて先にそこだけ読みました)

小谷野 大塚さんの猫のタマ、昨日死んじゃったんですよ。

枡野 なんということだ。悲しいですね。

小谷野 悲しいですね。

枡野 大塚さんっていうね、古典エッセイストの方がいて。それを読まなきゃと思って持っているんですけど、まだ読んでない。

小谷野 谷崎潤一郎は?

枡野 谷崎は読んだのもあります。でも小谷野さんの谷崎伝(『谷崎潤一郎伝 堂々たる人生』)を読むと、読んだほうが面白いんじゃないかと思うものをみつけましたね。

小谷野 『細雪』がいいですよね。

枡野 『細雪』は全部読んでないなぁ。でも登場人物が紹介されるくらいのところまでは読みました。

小谷野 ああ、そうですか(笑)。

枡野 今、小谷野さんが仰った課題図書を僕は読んでみようと思います。でもどれだけ読んでるかによって課題は違うわけですね。だから、もし小説が書きたいなって人がいれば、やはり『猫猫塾』の門を叩くべきですね。

小谷野 いや、私が書いた、『『こころ』は本当に名作か―正直者の名作案内―』を読めば、どういう本を読めばいいかはだいたい書いてあります。

枡野 その本は読んでます。とても面白かったです。じゃあ、みんなは読めとは言わないけど、小谷野さんが絶対いいと思ってる古典はなんですか?

小谷野 みんなは読めと言わないけど!?

枡野 あの、だから、夏目漱石の『こころ』を逆にあまり名作じゃないと仰ってるように、みんなは名作じゃないと言うけど本当は名作じゃないかというもの。

小谷野 や、私が名作だと思うくらいなら、他の人も名作と思うでしょう……

枡野 そうなんですか。なるほど。

小谷野 まぁ、敢えて言えば、『南総里見八犬伝』ですね。

枡野 ああ~。小谷野さん、そもそも『八犬伝』の本(『新編 八犬伝綺想』)[注]をお書きになってますもんね。でも小谷野さんは、『赤毛のアン』とかをちゃんとお読みになっているのが意外でした。

小谷野 私はああいうの好きなんですよ。児童文学は読んでますからね。それに私が高校2年生のときに高畑勲さんのアニメがあったんでね。

枡野 小谷野さんが、『赤毛のアン』の著者が男性性と女性性の狭間で苦しんでいた、と書かれていたのは非常に興味深かったですね。

小谷野 あれは作者(L.M.モンゴメリ)の夫がうつ病になっちゃったんですね。

枡野 つまり、奥さんが作家として活躍したせいで?

小谷野 そうそうそう。

枡野 その問題はうちの夫婦にもすごくありましたねえ……。

小谷野 でも枡野さん、あの頃、売れてたんじゃないですか?

枡野 ちょっとは。

小谷野 ちょっ、ちょっと待ってください! 枡野さんがなぜ離婚されたのかということは、このあとにじっくり……

枡野 追及してください(笑)。

◎「枡野さんが変すぎるので、奥さんが…」(小谷野)

小谷野 それで、枡野さんはなぜ離婚されたと思ってるんですか?

枡野 う~~ん。答え合わせをしてないから想像ですけど……セックスをしなくなったから。

小谷野 なんでしなくなった?

枡野 それは、子供が産まれたときに立ち合ったんですけど、もう、立ち合うと、性的な感じで彼女を見られなくなってしまってですね……。あと彼女がお酒を飲む人だったので、「お酒を飲んでるときにはしたくない」と僕が言ったら、凄く拒絶されてしまったことがあるんですね。

小谷野 うん。

枡野 だから、いろんな理由があるけれど、ほぼセックスレスが原因じゃないかと……裁判所でも書類を出しました。むこう(元妻)が法的なものばっかりで(離婚を)訴えてきて、嘘ばっかり言うんですよ。なので、本当の(離婚)理由はそう(セックスレス)じゃないかと陳述書には書きました。あとは経済的なものじゃないでしょうか。彼女のほうが何倍も稼いでたので。稼ぎも彼女のほうが多いし、家事も彼女の望むようには僕はしなかったので。僕なりにしてましたけど、僕のやり方と彼女のやり方が違っていつも衝突してたので。そういうのでわずらわしくなったっていうのが、僕なりの(離婚原因)の解釈ですね。小谷野さんは僕の本をお読みになって、僕の離婚原因はなんだと思われました?

小谷野 いや、読んでというより、いままでの話を聞いて、枡野さんが変すぎるので、奥さんが嫌になっちゃったんじゃないかと。

枡野 いや、それは……そうかもしれませんね。

小谷野 私はそれが大きいような気がするんですが。

枡野 まぁ僕を見れば、そうなのかなぁ。奥さんだった方もかなり変わった方でしたけどね。

小谷野 変わった人……。その元奥さんがその後に結婚した方とはまだちゃんと続いているんですか?

枡野 今のお相手は、漫画家の安彦麻理絵さんの元旦那さんの編集者の方で、いまのところ別れたという噂は聞かないので、たぶん続いてると思います。

小谷野 それはたぶんうまく、その今の旦那さんが、馬を「どうどう」ってやるみたいに……。

枡野 あとお酒を飲まれる方なので、彼女がちょっと怒ったりすると、「まぁまぁ」ってお酒を注ぐらしいんですよ。それは僕、一切しなかったので。

小谷野 結局、枡野さん、あっという間に別れてません?

枡野 そうですよ!

小谷野 あっという間に別れたというのは、元々合ってなかったんですよ。

枡野 その通りですよ。誤解でつきあったみたいなところ、ありますもん。

小谷野 誤解ですらなくて、いい加減につきあったんじゃないかという気が……。

枡野 や、僕は僕で、物書きとして好きな女性と肉体関係を持ったことは初めてのことだったので……。

小谷野 その前の詩人は?

枡野 詩人だったけど、その人の大ファンだったわけじゃなかったから、詩人として。

小谷野 はいはいはい。

枡野 南さんの場合は大ファンだったわけですよ! なんて素敵な漫画を描く人だと!

小谷野 ほおほお。

枡野 才能に惚れてしまっていて、なおかつ肉体関係を持ったから、これはもう運命の人だと思ってましたよ。

小谷野 そこはね、ちょっと私と似たところがありますよ。

枡野 そうですか。

小谷野 物書く女じゃないと結婚できないみたいな。

枡野 でも小谷野さんは『もてない男』[注]とか言いながら、モテモテじゃないですか。本読むと。いまも素敵な奥さんがいて。

小谷野 ああ、それはね、世の中には本当に「もてない男」というのもいますけど、それをいうと、私はそうじゃないんですけど。あれはまぁ、それこそ「小説的」に作った人物ですから。

枡野 『もてない男』を?

小谷野 そうそう。

枡野 えっ、じゃあ、『もてない男』はフィクションなんですか?

小谷野 や、だから、エッセイで、嘘は書いてないけど……

枡野 キャラクター作りはしている?

小谷野 そう。

枡野 そういう立ち位置で、そういう体(てい)で話しているということなんですか?

小谷野 まぁ、そうですね。

枡野 そうだったんですか……。

小谷野 だってあれ(『もてない男』)書いてるとき、女子学生から「先生、もてなくなくない?」と言われてましたよ。

枡野 ああ、騙されてました、僕。

小谷野 でも、そんなのはとっくに終わった話じゃないですか。

枡野 そうですけど。僕は(小谷野さんの)『ムコシュウト問題―現代の結婚論』[注]という本がとっても面白かったんですけど、それにも小谷野さんが「出会い系」で出会った話が書いてあって。僕は「出会い系」とかでも全然出会えなかったし……。

小谷野 やったことあるんですか?

枡野 「出会い系」はね、まず男女向けのでやってみて全然ダメで。男性同士の「出会い系」では普通に出会えましたよ。あ、僕、男性ともつきあおうとしてた時期があるので。そのへんで小谷野さんはたぶん、僕のことをさらに理解不能になっていくと思いますけど……。

(つづく)

【第3回注釈】

■田中りえ
作家。1956年生まれ、 2013年没。小説家。田中小実昌の娘。著作に『おやすみなさい、と男たちへ』『ぞうさんダンスで、さよならモスクワ―シベリア鉄道で行ってきたよ』『中沢けい・田中りえの部屋』(中沢けいとの共著)『ブレーメンから飛んで、チベットに着陸』がある。遺作となった『ちくわのいいわけ』を掲載した「早稲田文学」誌上で枡野浩一と対談している。

■峰原緑子
作家。1961年生まれ。19歳のときに『風のけはい』で文学界新人賞受賞、芥川賞候補にもなる。単行本は一冊だけ。その後も発表はしたが著書になっていない。

■『オリンポスの果実』
田中英光・著。≪主人公の「ぼく」こと坂本が、ロサンゼルス・オリンピックにボートの選手として参加するために搭乗する、太平洋を渡る船の上が主たる舞台である。「秋ちゃん」という呼びかけで始まり、主人公は陸上の選手として同船している熊本秋子に淡い恋心を抱いているが、仲間の男たちの冷やかしを受け、秋子も気づくけれど、遂に恋心を伝えるにはいたらない。田中自身が1932年に経験した事実に基づいた私小説で、2人の間にほとんど何も起こらない純然たる片思い小説である。帰国後、坂本は学生運動をへて結婚するが、「あなたは、いったい、ぼくが好きだったのでしょうか」というつぶやきで終わっている。≫(amazon内容紹介より要約)

■干刈あがた
作家。1943年生まれ。1982年『樹下の家族』で海燕新人文学賞を受賞。1986年『しずかにわたすこがねのゆびわ』で野間文芸新人賞。1992年に病死。商業作家生活は約10年間だった。芥川賞候補にもなった『ウホッホ探検隊』は映画化もされた。

■増田みず子
作家。1948年生まれ。『死後の関係』でデビュー。『自由時間』で野間文芸新人賞受賞。『シングル・ セル』で泉鏡花文学賞受賞。『月夜見』で伊藤整文学賞受賞。

■『谷崎潤一郎伝 堂々たる人生』
小谷野敦・著。≪七十歳をすぎてなお数々の傑作を書き続けた文豪谷崎の生涯は、一方でスキャンダルと逸話にみちた生涯でもあった。本書は伝説や通説に惑わされることなくその実像に肉迫する本格的評伝である。≫(amazon内容紹介より)

■『「こころ」は本当に名作か―正直者の名作案内―』
小谷野敦・著。≪文学に普遍的な基準はありません。面白いと思うかどうかは、読者の年齢や経験、趣味嗜好に左右されます。「もてない男」に恋愛小説が、そのケのない人に同性愛的文学がわからなくても、仕方のないこと。世評高い漱石の『こころ』やドストエフスキーは、本当に面白いのでしょうか? 読むべきは『源氏物語』か『金閣寺』か? 世界の古典を「大体読み終えた」著者が、ダメならダメと判定を下す、世界一正直な名作案内。≫(amazon内容紹介より)

■『もてない男―恋愛論を超えて』
小谷野敦・著。≪歌謡曲やトレンディドラマは、恋愛するのは当たり前のように騒ぎ立て、町には手を絡めた恋人たちが闊歩する。こういう時代に「もてない」ということは恥ずべきことなのだろうか? 本書では「もてない男」の視点から、文学作品や漫画の言説を手がかりに、童貞喪失、嫉妬、強姦、夫婦のあり方に至るまでをみつめなおす。これまでの恋愛論がたどり着けなかった新境地を見事に展開した渾身の一冊。≫(amazon内容紹介より)

■『ムコシュウト問題―現代の結婚論』
小谷野敦・著。≪殺し合いも辞さない歴史上の婿と舅。文学の中に隠蔽された舅。そして現代のマスオさん。伝統的な嫁姑問題の背後から浮上するやっかいな婿-舅姑関係。少子高齢化がすすむ現代の家族をみるとき、従来とは別の視点が必要になっています。娘がひとりで、その親が昔に較べて長生きするようになった、という家庭が増えているからです。「マスオさん」と呼ばれる状態は、よく知られています。そこでは、かわいい娘を奪われたという、舅(岳父)の不快感とか怨念というものは、ないのだろうか。あるだろう、あるに決まっている。――というのが、本書の発想。「ムコシュウト問題」という視点の誕生です。古今東西の具体例を示しながら、可笑しくも、ときに凄惨なムコシュウト問題を論じつつ、ずいぶん複雑になってしまった21世紀日本の「結婚」というものについて、考えます。≫(amazon内容紹介より)

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■小谷野敦さん
1962年生まれ。作家・比較文学者。東京大学文学部英文科卒業、同大学院総合文化研究科比較文学比較文化専攻博士課程修了、学術博士。『聖母のいない国』でサントリー学芸賞を受賞し、『母子寮前』『ヌエのいた家』で芥川賞候補になるなど、これまでに数多くの評論・小説・伝記などを発表している。また、“大人のための人文系教養塾”『猫猫塾』も主宰し、“猫猫先生”とも呼ばれている。

●小谷野敦 公式ウェブサイト「猫を償うに猫をもってせよ」
●『猫猫塾』HP

(構成:藤井良樹)

最終更新:2017/03/05 20:00
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