カルチャー
血のつながらない子どもを育てるという選択【特別養子縁組編1】

「特別養子縁組」が日本で広がらない理由 支援団体代表が語る、アメリカとの子育て意識の違い

2016/02/29 15:10

■アメリカでは、シングルや同性カップルでも養子を迎えることができる

――日本では里親に自治体から手当が支給されますが、養父母には養育費は出ません。また、夫婦でないと養子を迎えられないですし、半年間の試験養育期間中は離婚ができないなどの制約があります。そのあたりはアメリカでは、どのような仕組みなのでしょうか?

篠塚 まず金銭的なことですが、アメリカでは養子を迎えたら、年間支払う税金のうち一部がキャッシュバックされる制度があります。また、夫婦ではなくシングルや同性カップルでも、養子を迎えることができる州もあります。一方で、養父母の審査は、かなり厳しいです。国や州政府レベルのお墨付きをもらったソーシャルワーカーが家庭訪問を何回もして認定したうえで、裁判所の裁判官が認めないと養子縁組ができないので、ハードルは高いと思います。

――より多くの人が養子を迎えられるよう門戸を広げながらも、子どもを不利益な状況から遠ざけることを徹底しているのですね。

篠塚 その通りです。養父母になる前には指紋を10本分取られて、過去に犯罪歴がないか必ず確認されます。スピード違反で有罪判決を受けていたり、麻薬で捕まっていたりすると、確実に審査に引っ掛かります。これは、児童虐待を防ぐ目的でもあります。実際に養父母が養子を虐待するというケースは、全米を見ても、ほぼないに等しいです。ちなみに虐待はかなり重い罪として位置づけられており、通報があればすぐに警察が出動しますし、場合によっては禁錮18年くらいの刑期になります。制度や権限の所在からも、子どもを徹底的に保護しようという姿勢が見て取れますね。

――そのようにハードルが高くても、養子を迎えたいと思うのは、どのような背景があってのことだと思われますか?

篠塚 アメリカは「人種のるつぼ」といわれるように、文化の違う人たちが一緒の地域に住んでいます。そうした中で、日本に比べると多様性を認める文化があるように感じられます。養子縁組で子どもを授かるという選択も、周囲がすんなり受け入れられるくらいの心の余裕があると思います。日本では不妊治療がうまくいかなかった結果、養子縁組を選択することが多いですが、アメリカでは、すでに実子はいるけれど、養子縁組をするという人たちは珍しくありません。

――その心の余裕というのは、何に起因しているのでしょうか?

篠塚 温かい家庭を必要とする子どもがいるなら、自分が与えてあげようという発想が当たり前になっている気がします。また、キリスト教的な思想のもとに、人間みな兄弟というような考え方があるかもしれません。日本では、親を必要としている子どもがいるから養子に迎えるというよりも、子どもに恵まれなかったときの代替手段として養子を考えるということがほとんどなので、意識の違いがあるかもしれないです。子育てについても、「子どもがいると大変で損をする」ではなくて、「子どもに色々なことを教えられて、自分が幸せになる」というような考え方が普通なので、やはり文化的な背景が違うのかもしれないですね。

■子どもを育てることによって、心理的な幸福度が上がる

――よく「他人の子どもは可愛くないけど、自分の子どもだけは可愛い」という声を耳にします。養子は他人の子どもになるわけですが、実際に養子を迎えたときに、どんな子どもでも自然に愛情が生まれるものなのでしょうか?

篠塚 子どもは親がいないと生きていくことはできませんので、自分の命をかけて親に依存しています。そのため、子どもを育てていると自然に「この子が生きていくためには、自分がいないといけない」という気持ちになってきます。それが、愛情につながるのではないでしょうか。これまで支援をした養父母の皆さんは、養子に対してすべからく、そうしたプロセスを経て愛情を感じていらっしゃいます。仮に後々子どもに障害が出たとしても、その子の特性だと捉えて、手放すということはまずありえないようです。子どもを育てるのにはお金もかかりますが、老後を助けてくれるというリターンがあるかもしれません。しかし、そういう経済的なメリットではなくて、子どもを育てることによって、単純に心理的な幸福度が上がると思います。

――愛情を抱くようになるには、子どもと出会ってからのプロセスが大事なんですね。

篠塚 女性は妊娠期間があるので、実子への愛情というものを強く意識すると思いますが、男性は子どもが生まれてから世話をして、時間を重ねることで可愛く感じるようになりますよね。最初は3時間おきにミルクをあげて、泣けばあやしてという暮らしだと思うんですが、だんだん表情が出てきて、笑顔を見せたり自己主張したりするのを愛おしく感じるはずです。他人の子どもが可愛く感じられないというのは、その子どもと過ごした時間が少ないからです。血がつながっていなくても、時間を積み重ねる中で、確実に愛情は深まると思います。

――最後に、これから日本で特別養子縁組が普及するためには、どのようなことが必要だと思われますか?

篠塚 たとえばシングルの男性や女性で、子どもを育てられるだけの経済的なゆとりはあっても、パートナーには恵まれなかったという人はたくさんいらっしゃいます。そうした方たちが子どもを持ちたいと考えたときに、特別養子縁組がひとつの選択肢になるように制度が変わっていくのも可能かなと思っています。また、一組でも多くの特別養子縁組が成立すれば、身近に養父母や養子が増えます。それによって、多くの人が今までに知らなかった「家族」と「幸せのかたち」を知り、特別養子縁組を我がことして考えられるようになるのではないでしょうか。
(末吉陽子)

最終更新:2016/03/08 13:44
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