コラム
介護をめぐる家族・人間模様【第19話】

「家族を守りたかった」脳卒中・認知症の義母の罵声に耐え続けた嫁

2013/11/03 16:00

 夫は支えにはならなかったのだろうか。そう聞くと、深堀さんはかぶりを振った。

「主人はいい人でしたが、主人もどうしようもなかったんだと思う。毎日家に帰ると私から義母の話を聞くし、母親のことも好きだから大切にしたいし。ただ主人はあの町で生まれ育っているから、私の追いつめられた気持ちには気づかなかったんだと思うんです」

■「お前は弱い」夫の言葉が決定打に

 そんなギリギリの生活は、20年で終わりを告げた。20年で、と簡単に言える年月ではない。その渦中にいると、果てしなく長い年月だったに違いない。義母をようやく施設に入れることができ、長女も大学に入り、東京で一人暮らしを始めたことで、張り詰めていた気持ちの糸が切れたのかもしれない。買い物をしていた深堀さんは、突然頭が真っ白になったという。

「その時のことはあまり思い出せないのですが、体がブルブル震えだして、涙が止まらなくなったんです。どうやって帰ったのかわかりません。とにかく病院に行かなくちゃと思って、翌日病院に行ったら心療内科を紹介されました。先生は話をゆっくり聞いてくれて、結婚して初めて自分の気持ちを吐き出すことができた気がしました。薬をもらって帰って、主人に一連の出来事を話したんです。そうしたら、それまで黙って聞くだけだった主人が『お前は弱い』って言ったんですよ。弱い? ここまでやってきて、弱いなんて言うんだ。その一言で、これまでの20年がすべて否定された気がした。守ってきたものがガラガラと崩れるような。もうダメだ。もう頑張れないと思いました。そのまま家を出たんです」

 深堀さんは実家のある東京に戻った。離婚が成立した今は、大学生の娘と暮らしている。

「今もまだ安定剤は離せません。突然胸が苦しくなったり、涙が出たりするので、パート先の同僚には迷惑をかけています。でも結婚していた時のように私を無視する人も、罵声を浴びせる人もいない。少しずつですけど、昔の私が戻ってきている感覚があります。この20年、心から笑ったことがなかったんだなぁと思います。リハビリだと思って、気長にやっていくしかないですね」

 娘は定期的に実家に帰り、父親や義母の様子を見ているという。

「娘が故郷を嫌いにならなくてよかった。一生懸命家族を守ってきたことは間違いじゃなかった。それだけは満足しています。その肝心の家族は、なくなっちゃったんですけどね」

最終更新:2019/05/21 16:08
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