[連載]ドルショック竹下の「ヤリきれない話」

「機械のように正確に動く」セックスは40男の悲哀が満ち満ちていた!

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(C) ドルショック竹下

「上司から『お前、機械みたいによく働くな』って言われたんだ」

 自嘲気味に男は言った。2年前の秋、mixiで出会った彼は、30代後半の外資系金融マン。趣味はスポーツサイクル。彼の日記には通常私が足を踏み入れることのない恵比寿、白金、目黒あたりの店のシャレオツな料理の写真がこれでもかと並んでいた。いわゆる「独身貴族」というやつである。長めの髪に、身体にフィットしたピンストライプのスーツ。シャツの襟は若干開き気味という、港区周辺によくいるタイプだ。

 当時の私は2度目にして3年の結婚生活に終止符を打ち、自由恋愛を謳歌すべく男漁りに精を出していた。ところが出会う男出会う男、痛い発言が目立ったり精神を病んでいたりで、交際には至らず。いろんな男とセックスするのは大いに構わないが、できれば互いに認め合い、成長し合えるパートナーが欲しい……などと女性誌のインタビューで行き遅れタレントが語っているような夢を、その時の私は抱いていた。

 そこに彼が現れた。彼ははじめから「いい女だね」「一度食事でもどう?」などと積極的だった。これまで下衆な暮らしをしてきた私。縁のなかった類の男から突然褒められたことで「むしろ私の恋愛の可能性はコッチ方面にこそ拓けているのではなかろうか……!」などと一気にテンションが上がり、ほどなくして彼とデートの約束を取り付けたわけである。

 場所は恵比寿。隠れ家風の個室バーは、私にとっては完全にアウェー感漂うものだが、「たまにはこんなデートもいいわね、フフン」と余裕をかましていた。なにせ彼から見れば私は「いい女」である。ちょっと洒落た店に入ったくらいで挙動不審に陥っては、私の中の「いい女」像に反する。

 暗闇にブルーの照明が差し込む個室、座り心地のよいソファ……いかにもカップル様ご用達のシャレオツ空間で、私は普段通りの下品な話を披露していた。彼は静かに微笑みながら、ただ頷いて耳を傾けている。悪くない。仕事に熱中するアラサーバツ2女と、精神的にも経済的にも余裕のあるアラフォー独身貴族の、結婚に縛られない自由恋愛。これは、まさに私の求めていた関係ではないか。あとはもう、身体の相性を確かめるだけ――。そう確信しながら店内のモニターに映し出されるクジラの潮噴き映像を見つめていると、突然彼が口を開いた。

「でも、子どもは欲しいなって最近思うんだよねー……」

 ホワット? どうしたの突然?

「これまで仕事最優先で生きてきたけど、限界が見えてきたっていうか。かといって、おれの周りに結婚したいと思える女性はいなくて……」

 私の胸にずっしりと重いものがのしかかる。結婚という呪縛にも似た制度からようやく解き放たれたばかりだというのに、コイツは何を言い出すんだ……。いや、きっとこれは彼の気まぐれで、明日にはやっぱり独身が一番と思い直すに違いない。私だって何度も漫画家を辞めたいと思いながら、結局いまだに続けているではないか。自分に言い聞かせ、ここは一旦聞き流すことにした。

 店を出る頃には終電もなくなっていた。どちらからともなく、手をつなぎ大通りまで出ると、彼は手際よくタクシーを停め、新宿のラブホ街へと走らせた。わざわざ恵比寿から新宿? とお思いの方もいるだろうが、おそらく翌朝、私が帰宅しやすいようにとの配慮だったと思う。

 ホテルの部屋に着くと、どことなくバツが悪いのか早々にシャワーを浴びに行く彼。私としては部屋に足を踏み入れた瞬間のせわしないキスや前戯、そして即ハメでも一向に問題ないのだが……。初回だから仕方ないかと私もシャワーを浴びてベッドルームに戻ると、何故かすでに消灯済み。目を凝らして部屋を見渡すと、新婚初夜の新妻のごとく布団をすっぽり被って待機している彼が。

 布団をめくっても、隣に横たわっても、ピクリとも動かない。不思議に思いながら抱きついてみると、突然スイッチが入ったかのように抱きすくめられ、キスをされた。私はふと、数時間前の彼の言葉を思い出した。

「機械のようによく働く」

 なるほど彼はセックスにおいても高性能のマシーンだった。こちらが指令を出さなければアクションを起こすことはないが、ひとたびサインを感知すれば、最適な行動を取ることができるのだ。乳首を差し出せばほどよい強さで吸い、手を下へ導けば適切なリズムで刺激する。ただし、決して彼が欲望を露わにすることはないし、私が感じていることに興奮する様子もない。男の欲情するさまが一番のオカズである私にとっては正直物足りないが、ここまできたら最大限に彼を活用するのみである。私は彼を仰向けにし、すでに最適化されてビンビンになったペ○スへと腰を沈めた。
 
 結論から言うと、その夜私は10回以上イッた。イキまくった。それもそのはず、セックスマシーンが相手なら気遣うことも恥らうこともなく、自らの欲望のみを貪ることができるのだから。だがその後、二度と彼に会おうとは思わなかった。

 20~30代をキャリア一辺倒で生きてきた男が、40歳を目前にして虚しさをおぼえ、甘えられる家庭を求める……「中年クライシス」の一般的な症状だ。婚活中の女性にはおあつらえ向きの人材だが、そういう男ほど、妙なプライドが邪魔をして「特殊な女」を選ぼうとする。他人にとっての「最適」は察しても、自分の「最適」は分からない――。成果主義により機械となり果てた人間の悲哀を、覗き込んだ夜だった。

ドルショック竹下(どるしょっく・たけした)
体験漫画家。『エロス番外地』(「漫画実話ナックルズ」/ミリオン出版)、『おとなり裁判ショー!!』(「ご近所スキャンダル」/竹書房)好評連載中。近著に「セックス・ダイエット」(ミリオン出版)。

『中年童貞』

婚活市場にはバブル男か中年童貞しかいないと思う。

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