『裁縫女子』刊行記念インタビュー

Mサイズ信仰、リバティ族……裁縫したいオンナたちの虚栄とプライド

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『裁縫女子』(リトル・モア)

 良妻賢母のアイコンとして、女性の数少ない生業として発展を遂げてきた「裁縫」。女性の社会進出と時を同じくして既製服が一般化し、「裁縫」がジェンダーの意味合いを失いつつある現代、女は何を求めミシンの前に座るのか。「裁縫したいオンナたち」の本音がふんだんに詰め込まれている『裁縫女子』(リトルモア)を上梓した、イラストレーターでソーイング教室を主宰するワタナベ・コウ氏に、裁縫と女性の微妙な距離感について伺った。

――家庭科の授業で心をへし折られて以来、裁縫から距離を置いている女性も多いと思うのですが、そもそもワタナベさんが裁縫教室を開催しようと思ったきっかけは何だったのでしょう?

ワタナベ・コウ(以下、ワタナベ) 私は1963年生まれですが、私の学生時代は「裁縫をやる女は勉強の出来ないコ」という風潮があったように思います。母からも「これからは女も四大に行かないと」と常に言われていましたし。一方、明治生まれの祖母は「女が生きるために裁縫は必要不可欠」という人で、振れ幅の大きい価値観の間で、結構悩みましたね。私は純粋に裁縫が好きだったから。

――「裁縫」を選ぶことに意味を持つ時代ですね。

ワタナベ ジェンダーで言うところの「引き裂かれた状態」というヤツですよね。でも「女が社会に出るために捨てろ」と言われたものを、私は自分で選んだ。主体的に選んだことで、自分の中での「裁縫」に決着をつけ、解放されたんですね。『おしゃれ工房』(NHK)に出演したのがきっかけとなって、裁縫教室を開くようになるんですけど、私は専門家ではなくあくまで自分流。それが「こんなに簡単に洋服が作れるなんて」と好評を頂き、本当は裁縫に興味があるのに「できない」と思い込んでいる人の多さに驚きました。「やりたい」と「できない」の間には何か抑圧された感情があるような気がしたんです。自分のやってきたことが彼女たちを解放する手助けになるような気がして、教室を始めました。

――確かに「下手くそは近づくべからず」という空気が、裁縫にはあるような気がします。著作に出てくる「ミシンマニアの女性」のような人ですね。

ワタナベ 権威づけのために「裁縫=難解」とする人たちが実際に存在するのは否めないですよね。自分たちのパラダイスを守りたい彼女たちにとって、私流の「簡単な裁縫」は、正直受け入れ難いものなのでしょう。でも彼女たちの存在は、純粋に裁縫をやりたいと思う人々にとって障害でしかないんですよ。もっと言えば裁縫をやるのにジェンダーとか何とか関係ない。単にやりたいかどうかで選んでいいものなんです。

――自発的な問題といえば、「手作りの幼稚園バッグ」に代表されるような、「裁縫=母性の象徴」という風潮も根強くあります。

ワタナベ ミシンの売り上げも、入園準備の1~2月にバーンと跳ね上がると言われています。でもその後も使い続ける人はごくわずか。好きでやるというより、「手作りの物を子どもに与える母親像」に自分を当てはめたいのかな。そうすることによって、心のすき間を埋めたいのだろうなという気がしますね。

――料理や掃除は効果が見えにくいのに対して、裁縫は形として残るっていうのも大きいのでしょうか。

ワタナベ そうそう。ボロボロの巾着を”お母さんが、昔アンタのために作ったのよ”って見せられたっていう人多いでしょ(笑)。母性をまとった自己満足というか、母性は女性特有の本能だと思い込みたい心理というか……。

――本に出てくる「Mサイズ信仰(自分はMサイズだと信じて疑わない女たち)」も興味深いですよね。自分のサイズぴったりに作れるのが「裁縫」なのに。

ワタナベ あくまでも自分は標準、外れることはおかしいという日本人特有の考え方が根深いですね。驚くのは「バストは何センチですか?」と聞くと、「●カップです」って答える人がわりと多い。それで私が採寸して、例えばトップバストが90センチを越えてると「そんなに太ってないです! 測り直して!」と血相変えて詰め寄られる。目の前で計ってるのに(笑)。ウエストを測れば、「今日は厚着をしているので、3センチ減らして下さい」とか。誰にも申告しないですから、と言いたい(笑)。外見にこだわってるわりに、自分のバストが何センチかも知らないわけです。

――その対比として描かれているのが、「裁縫男子(教室に通う男性生徒)」ですよね。

ワタナベ 彼らは「本当に裁縫が好きか?」というとちょっと違う。新しくて珍しいものにチャレンジしたい。男性にありがちな克服欲かもしれませんね。登山と同じ(笑)。でも男性が参加することによって裁縫のイメージが変わって裾野が広がるのはいいことだと思います。

 面白いのは、男性はメモを片手に私の説明を聞く。女性はメモを取らないどころかレジュメさえ見ない(笑)。男性は仕組みに興味があるから、難しいものを何日もかけて作りたがる人が多い。女性は完成品に興味があるから、パっと1日で作れる「簡単な裁縫」に魅力を感じるみたいですね。

――本に登場する”ちょっと困った生徒さん”の中でも、ずば抜けてキャラ立ちしているのが「リネン族・リバティ族」です。麻を”リネン”と呼んじゃう方々。

ワタナベ 「天然生活」(地球丸)とか「クウネル」(マガジンハウス)などナチュラル系の雑誌の愛読者に多いような気がしますね(笑)。「地球環境のために、エコや手作りなどいいことしています」っていうあの感覚。「自己との葛藤」がまるでないところに興味がありますね(笑)。

――「天然生活」「クウネル」を好む女性は、現役の女感=”モテ”の路線から自分をドロップアウトさせていると思っていたので、リバティ族の生態に驚きました。

ワタナベ 私は逆に「女という資源」を最大限に活用しているのがリネン族だと思いますよ。「JJ」(光文社)とか「CanCam」(小学館)は、派手で目立つけど実は少数派。教室でも「私、オシャレやファッションにあまり興味がない。目立つのが嫌です」って声をよく耳にします。観察してみると、そういう地味めのリネン族系の女性が多数派で、女らしいとされている。男性が結婚したいのも「リネン族」の方でしょ。リバティ(英のプリント生地)は結構高いですから、経済的な余裕がないとポンポン買えないんです。エコ、手作り品を与える存在としての子どもとかと同じで、いわゆる「勝ち組」の彼女たちにとって、余裕度を測る尺度として裁縫があるのではないでしょうか。

――リバティで洋服を作り、好きな映画は『かもめ食堂』。本に出てくるリネン族の表現があまりにも的確ですね。

ワタナベ 実際のリネン族の方々から「笑いました」という言葉を頂いて、さすが、余裕のある人たちだ(笑)と思いましたね。高価なリバティの生地は、地元イギリスでは庶民は買わない。イギリス人は「日本人ってリバティ好きだよね」と驚いていると聞きました。イタリアでグッチ買い占める日本人観光客となんら変わらないんですよ。本人たちは全力で否定すると思うけど(笑)。

――しかし、裁縫という切り口でここまで現代女性の生態観察ができるとは。

ワタナベ 裁縫教室では、オンナの虚栄やプライド、ずる賢さ、無垢な好奇心までハッキリと見て取れます(笑)。故・中島梓さんが書かれていたコラム「自作のススメ!」の中の、「服が作れたとき、自由だ!と感じた」っていう一言が私は大好きなんです。着たくない既製服を選んでいるうちは、常に不自由。逆に自分で作れば、Mサイズの思い込みや、流行やカッコよさの幻想からも自由になれる。裁縫って革新的なんです。ジェンダーやらよき母親像とかから解放されて、主体的に裁縫を選ぶ時期になってきたような気がしますね。

ワタナベ・コウ
1963年新潟県生まれ。東京外国語大学中退後、イラストレーターやソーイング教室の講師として活動。92年からNHK『おしゃれ工房』で講師。主な著書に『ワタナベ・コウのクイックソーイング』(全3巻/文化出版局)、『ポチ&コウの野球旅』(共著/光文社知恵の森文庫)など。

『裁縫女子』

自分のサイズを過小申告したり、指示を聞かなかったり、失敗を人のせいにしたり、ネットのせいにしたり……。裁縫教室に集まった、ちょっと大人げない生徒たちのエピソードを小気味よく紹介しながら、女性と裁縫の距離感を考察するコミックエッセー。

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