『セゾン文化は何を夢みた』刊行記念インタビュー(前編)

「セゾン文化」の証人・永江朗が語る、2010年代、文化と風俗のありか

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『セゾン文化はなにを夢みた』(朝日
新聞出版)

 西武百貨店、パルコから美術館まで……「セゾングループ」の名のもとに、流通を中心としたブランドイメージ戦略を仕掛けた企業グループが、かつて存在した。広告戦略やバブル消費の時代の象徴であったと同時に、西武百貨店の 文化事業部によって実現した数々の取り組みは、企業メセナの先駆けとなり、経営者・堤清二を中心に花開いた大がかりなカルチャー・ムーブメントでもあった。そして、自身もセゾン系の書店「アール・ヴィヴァン」などに勤めたのち、現在はフリーライターとして多くの著書も執筆している永江朗氏によって、『セゾン文化はなに何を夢みた』(朝日新聞出版)が刊行された。

 収録されたインタビューの対象者はすべて「セゾン系」、つまり、かつてセゾンの現場に何らかのかたちで関わった人々である。彼らとその同時代に、同じセゾンの傘のもとで時代を感じた人々が、クリエイターとして、経営者として、作家として……セゾングループなき今も文化の一部を担っていることは驚きだ。1970年代から「セゾングループ」が演出したカルチャーを体感してきた永江氏は、現在のカルチャーをどのように感じているのか。セゾン文化が生み出したメンタリティーや風俗は受け継がれているのか――。永江氏に伺った。

――いまのアラサー女子は、文化に飢えているというか、おもしろいと思えるムーブメントが身の回りにほとんどない。永江さんの『セゾン文化は何を夢みた』を読んで、80年代にはこんなカルチャーがあって、楽しい場所があって、こんな人たちがいたんだ!……と、驚きました。

永江朗(以下、永江) まぁ、いまの若い人は、セゾンのことすらも知らない人がたくさんいるからね。もう戦時中の話みたいなものでしょ(笑)。僕らの話を聞いていると、楽しいことだけしていて喰っていけた時代があったんだって感じるのかもね。あこがれの対象になり始めているのかもしれない。

――現在は、堤清二さんのように壮大な規模で文化事業を展開しようという経営者はいないように思えます。

永江 当時はまだ、60年代・70年代の左翼運動の残り火があって。堤さんも左翼運動との折り合いの付け方を引きずりながら経営していたし、僕たちだって、学生運動に挫折して、生活のために働き始めたあとも、ずっとどこか後ろめたさを感じていたんですよ。「西武という資本に取り込まれてしまった」という表現もしていたくらいで。文化事業って、結局、虚業でしょう。文化自体、そんなに素晴らしいものではなくて、あってもなくてもいいものじゃないですか。主食にならないスパイスみたいなものなんですよね。正しいものというより、むしろ良くない部分やムダもあるから面白いし、わくわくどきどきできる。でも、効き過ぎると感覚は鈍麻するし。そこでバブルに踊らされて、バランスが崩れてしまったのがセゾングループなんだなとは思います。

――いま元気なのは、ギャル文化くらいでしょうか。彼女たちの生命力には、目がくらみそうです……。

永江 あの過剰な、ムダしかない感じ(笑)。だって彼女たちは、主食というかスナック菓子だけで生きているように見えるでしょう。文化というか風俗なのかもしれないけれど、地方のヤンキーに生態としては近いかもしれない。シブヤのチーマーとヤンキーの一番の違いは、世代の継承性があるかどうかということと。あと、ヤンキー文化ってローカルな文化なんですよ。未だに彼らの発想は中学校の学区に起因していて、その先輩後輩の関係が絶対。ギャル文化ってそれに近いですよね。非常にローカルで、先輩後輩みたいなことも非常に気にするし。都心のクラブカルチャーと全然違うモノだと思います。
 ギャルやヤンキーはもはや「伝統芸能」なので、それはお祭りと同じで、少しずつ形は変えつつも、継承されていくんじゃないですかね。映画『下妻物語』で、尼崎の若者たちはジャージにくるまれて生まれてきて、ジャージを着たままで死んでいく……っていうのがありましたけれども。ジャスコさえあればいいわけで、外には出て行かずに生きていく。彼女たちは、あきらめているのがすごい。世界を広げようとは思っていない。たとえば、高い教育を受けて、高い地位に就いて、社会的に影響を及ぼすとかっていう可能性は、最初っから排除していますよね。ヤンキーやギャルは、若い人たちが現実社会で折り合いを付けて生きていく一つの方法になりつつあるのだと思います。

――2000年代に入ってから、永江さんがおもしろそうだなと思って注目しているカルチャーは?

永江 女性でいうと、その時々に、カルチャー誌がおもしろがるものはありますよね。仏像やお寺めぐりをしたがるとか、鉄子が出てきたりとか。あと、それまでは定説として「女性はオタク化しない」って言われていたのに、新世紀に入ってからBL系の腐女子が市民権を得たのはおもしろいなと思いますね。それから、サイゾーウーマン的な下半身ネタの盛り上がり方も、それまでの女性週刊誌「微笑」のような、背徳感のあるタブーを犯しながらの性の告白とはまた違うじゃないですか。タブーに関しては、どきどきしたり衝撃を受けたりすることがあんまりなくなって、スポーツ化していっていますよね。
 全体で言うと、生活雑貨的なものへの関心が異常に高いのは何なんだろうなと。BBQブームにしても、かつてのアウトドアブームとは明らかに違う。あらゆるものがインドア化している。……無印良品については、堤さんはいまでも非常に肯定的なんですが、現在の家の中に対する関心の高さは、ある意味で、無印良品の成果なのかもしれません。柳宗悦の民芸運動とつながっていて、もともと白樺派のユートピア思想が根っこにありますから。アノニマスなものに目を向けることで生活の質を高めることができるという。とはいえ、インテリアブームのもともとのきっかけは男の子なんだよね。「POPEYE」(マガジンハウス)の「オレ部屋」特集に始まったものでしょう。ただ、目黒通りのインテリアショップにも、男の子同士で仲良く連れ立って行くようになったりというのは、新世紀に入ってからのことなんじゃないかな。

――そういう男の子たちは自然にアイテムも似通ってきて、ペアルックみたいになってきますよね。

永江 草食化のひとつなんだと思いますけどね。日本って、もともとそういう文化があって、新橋で頬をすり寄せるように男同士が酒を飲んでいるとか、体育会とか、ホモソーシャルなものはもともとあったんだとは思います。それがカジュアルなかたちで若い子の日常に降りてきている。ゲイってことじゃなくても、大学で男の子同士がいつも二人並んで座っているような光景が見られるとか。異性ではなく同性と遊ぶことで満足してしまうんでしょう。

――80年代と、何が違うんでしょうか。

永江 80年代は、孤独だったよね。誰かと一緒に買い物に行くなんてあり得なかったし。自分がアール・ヴィヴァンの店頭にいる頃に見ていた人たちって、みんなひとりぼっちでしたね。すごくマイナーなものについて興味があって、たまに話が合う人がいるとものすごく盛り上がる。けれど、友達がいなくて、でも「ビックリハウス」(パルコ出版)は毎号買っていて、投稿もしている。そんな「ハウサー」である自分について、「クラスの他の子とは違う、自分だけはそれを知っている」みたいな選民意識のようなものがあったと思います。情報の送り手だったセゾンの側だけでなく、受容する側にもそういう意識があったと思う。それがセゾン時代のいやらしいところでもあったと思うんですけど。……いまはあまりにもみんな、いろんなことをほどほどに知っている「事情通」になっていて、なんとなく話が通じてしまうでしょう。音楽だって店頭に行かなくても聴くことができたり、情報が本当にフラットになってしまいましたね。

(後編につづく)

※「微笑」:祥伝社が1971年から96年まで発行していた週刊誌。女性向けに性を扱ったことで知られる。
※「ビックリハウス』:パルコ出版から発行されていた雑誌。「ハウサー」と呼ばれた読者の投稿で記事がつくられた。

『セゾン文化は何を夢みた』朝日新聞出版

二十代をセゾングループの一員として過ごしてきた永江朗氏が、堤清二会長以下、当時の関係者へのインタビューを基に「セゾン文化」が与えた影響を改めて問い直す。

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