[連載]まんが難民に捧ぐ、「女子まんが学入門」第18回

リアリティーを捨て感情を獲得した、『ちくたくぼんぼん』のファンタジー性

tikutaku.jpg
『ちくたくぼんぼん』(集英社)

――幼いころに夢中になって読んでいた少女まんが。一時期離れてしまったがゆえに、今さら読むべき作品すら分からないまんが難民たちに、女子まんが研究家・小田真琴が”正しき女子まんが道”を指南します!

<今回紹介する女子まんが>
勝田文『ちくたくぼんぼん』1~2巻
集英社/440円

 わたしたちから「初恋」という言葉が失われて、もうどれだけの時が流れたことでしょう。あの甘美。あの陶酔。恋愛が生活の最優先事項だったあの頃の、ジェットコースターのような多幸感と驚き。その驚きは恋の対象よりも、そこに一喜一憂する自分自身の感情に対してであったはずです。

 そんな初恋の「驚き」を今ですら追体験させてくれるのが、勝田文先生のマンガであります。現在「コーラス」(集英社)誌にて連載中の『ちくたくぼんぼん』は、先生久々の長編作品。昭和初期に生きる少女の目を通じて、新しいモノに溢れた東京と、そしていつの時代も変わらぬ男女の恋模様とを描きます。

 主人公・イワは1人上京して、かつて女優であった叔母のもとで女中奉公の真っ最中。田舎の祖父に「善行に励め!!」と言われ、馬鹿正直にその言いつけを守り続けている、なんともストレートなメンタリティーの持ち主です。おかげで周囲の都会人からは、からかわれっぱなしなのですが。

 星が舞う勝田先生の華やかで好ましい絵は、慣れない都会で暮らすイワの「驚き」を鮮やかに表現しています。道端でコウモリを拾ったときの驚き、近所の小説家の吸血鬼の話を信じこんでしまったときの驚き、後にイワにちょっかいを出すこととなる男子・三五と出会いのシーンでの驚き、満開の桜を見たときの驚き……。その顔にはカラー原稿かと見紛うほどの、彩りある表情が浮かんでいます。

 どだい今日、正統派の少女マンガを描こうとすることが困難であるのです。確かに『君に届け』や『ストロボ・エッジ』はすぐれた少女マンガ作品ではありますが、サイゾーウーマン世代ともなるとさすがにやや恥ずかしい面もありましょう。ならどうすればいいのか。もうわたしたちには少女マンガは読むなってことでしょうか。

 そうした中で勝田先生は仕掛けを施したわけです。それがまず第一に時代を昭和初期としたことと、そして第二に主人公を田舎出身の素朴な少女としたことです。なんということでしょう、当たり前のようにスマートフォンを操り、物心ついた頃から東京的な物欲文化の中で育ってきたわたしたちとは、何もかもが正反対ではありませんか。

 正反対だからこそイワに対して生々しいリアリティーは求められません。おかげで読者は細かいことを気にせずにすみます。そして思う存分、その感情に寄り添うことができる。つまりささやかなファンタジー空間が、本作には創出されているわけです。この読者と作品との関係性は、BLにもやや似ています。女子が男子同士の、自分とはまったく無関係の恋模様を眺め、そして楽しみ、だけど感情は移入し得るという、「いいとこ取り」の距離感であるのです。

 大きな起伏のない勝田先生の物語は、その分だけ慈しむように丁寧な描写と、お得意のダメ男をはじめとした魅力的なキャラクターに満ち満ちています。1巻のカバーでレトロな掛け時計を大事そうに抱き抱えるイワと、手のひらのスマートフォンから想い人へとメールを飛ばすわたしたちとは、決して隔絶した存在ではありません。マンガの力でわたしたちは何度でも、初恋だってすることができるのです。

小田真琴(おだ・まこと)
1977年生まれ。少女マンガ(特に『ガラスの仮面』)をこよなく愛する32歳。自宅の6畳間にはIKEAで購入した本棚14棹が所狭しと並び、その8割が少女マンガで埋め尽くされている(しかも作家名50音順に並べられている)。もっとも敬愛するマンガ家はくらもちふさこ先生。

『ちくたくぼんぼん 1』

ドキュメントよりリアルなもんもあるのよ

amazon_associate_logo.jpg

【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでます】
自己愛、自意識にまみれた独りよがり女を描く『HER』
現代と江戸のシャッフル? ギャップから笑いを生み出す『ちょっと江戸まで』
「笑い」という推進力を持つ”ネオ少女漫画”『海月姫』

今、あなたにオススメ



サイゾーウーマンのSNS

  • 「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

関連リンク

アクセスランキング

  1. SKE48、“未成年飲酒”疑惑のツイート流出?
  2. 上戸彩、激ヤセ&髪バッサリで会見登場
  3. 「嵐はしゃいでた」発言で日テレP炎上
  4. 『A LIFE』初回14.2%にテレビ関係者絶句
  5. 「二度と仕事したくない」勘違い女優
  6. トランプ就任式はしょぼくてもOK!
  7. マギー不倫報道に“非道すぎる圧力”
  8. 葵つかさ「ヌード披露」で売名説激化?
  9. 工藤静香がインスタ開始で夫婦アピール?
  10. 藤原さくら、違和感だらけの起用
  11. マッチの葬式にはしゃぐ井ノ原
  12. 嵐と10年付き合った放送作家が「ヒドイ話」をブログで暴露
  13. 篠原涼子、「演技派女優」計画は失敗? スペシャルドラマ不振で「やっぱり現代劇向き」の声
  14. マギー、M字開脚に「痛い」の声
  15. “もう終わった”イケメン俳優3人
  16. 「GENKINGの二の舞」とウワサの芸能人
  17. キムタクは「がんばっちゃう男」である
  18. 木村拓哉、“かつてのタブー”大解禁?
  19. りゅうちぇる、ビジネス結婚報告の手法
  20. “意外すぎる”不倫常習犯タレント

ジャニーズの人気記事

  1. 「嵐はしゃいでた」発言で日テレP炎上
  2. 『A LIFE』初回14.2%にテレビ関係者絶句
  3. 葵つかさ「ヌード披露」で売名説激化?
  4. マッチの葬式にはしゃぐ井ノ原
  5. 嵐と10年付き合った放送作家が「ヒドイ話」をブログで暴露

カルチャーの人気記事

  1. 「日本が独裁国家に」映画監督が警告
  2. 「婦人公論」で小保方連載スタート
  3. 猫トラブルの原因は人同士のいさかい?
  4. 「捨てられる妻」の典型とは?
  5. こなれを捨てた「CLASSY.」が暴挙へ

海外ゴシップの人気記事

  1. トランプ就任式はしょぼくてもOK!
  2. ケイティ、年末年始に日本を堪能
  3. 発禁レベルのジャケ写の洋楽アルバム
  4. リアーナ、J. Loをアンフォロー
  5. マイケル・ジャクソン再現ドラマに、娘・パリス「ありえないほどの侮辱」! 炎上騒ぎに