インタビュー

Snow Man、キンプリ……音楽チャートアナライザーが語る、SMAP解散以降の「ジャニーズ音楽」

2023/12/14 16:00
サイゾーウーマン編集部
東山紀之ほか旧ジャニーズアイドルの集合写真
ジャニーズ音楽の“レガシー”とは?(写真:サイゾーウーマン)

 2023年10月16日をもって、設立以来61年間続いた屋号を下し、「SMILE-UP.」に社名変更した旧ジャニーズ事務所。12月8日には、所属タレントのマネジメント業務、および育成業務を引き継ぐ新会社「STARTO ENTERTAINMENT」の始動も発表された。

 創業者・ジャニー喜多川氏(19年に死去)の性加害は決して許されるべきではなく、彼の名前を冠した「ジャニーズ」が消えるのは致し方ないことではある一方、ジャニーズという巨大なシーンが存在し、数多くの所属アイドルたちが日本の芸能界を席巻、圧倒的多数のファンの支持を受け続けてきた事実は、“なかったこと”にはできないだろう。

 そこでサイゾーウーマンは、ジャニー氏の起こした事件とは切り離した形で、ジャニーズの文化的な価値をあらためて認識し、そのレガシー(遺産)を受け継ぐため、さまざまな分野の専門家にインタビューを実施。

 今回、ブログ「イマオト」の執筆者である音楽チャートアナライザー・Kei氏に、主に近年の「ジャニーズ音楽」に焦点を当て、その独自性や今後アイドルたちに受け継いでいってもらいたいものは何か、話をお聞きした。

※「ジャニーズ事務所」は「SMILE-UP.」「STARTO ENTERTAINMENT」に社名を変更しましたが、記事内容に鑑みたうえで、便宜上「ジャニーズ」を使用します。

目次

・ビルボードジャパン「年間チャート」100位以内のランクインは2曲のみ――ジャニーズ音楽の現状
・King&Prince「シンデレラガール」、なにわ男子「初心LOVE」ヒットに見る独自性
・Snow Man「ブラザービート」はカッコよさと親しみやすさが共存
・椎名林檎に常田大希……ジャニーズへの楽曲提供は根底にその“イズム”がある
・今後ジャニーズの音楽が鍛えられていくために必要なこと

ビルボードジャパン「年間チャート」100位以内のランクインは2曲のみ――ジャニーズ音楽の現状

SixTONESの画像
YouTube限定で「PARTY PEOPLE」を公開するという新たな試みを行ったSixTONES(写真:サイゾーウーマン)

――Keiさんは、ビルボードジャパンをはじめとする最新音楽チャートをさまざまな視点から分析するブログを長年執筆していますが、今回は、主に近年の「ジャニーズ音楽」についてお聞きしたいと思っています。

Keiさん(以下、Kei) まず本題に入る前に、近年の音楽シーンにおいて、ジャニーズが置かれている状況についてお話したいです。そこで「近年」というのがいつを指すのかについて考えたのですが、私は2016年、17年以降を「近年」と定義しました。というのも、ビルボードジャパンのチャートを中心に分析している者として、そのチャートが変化した時期と、ジャニーズに大きな動きがみられた時期、そしてほかのボーイズグループが台頭してきた時期が重なっており、それが16~17年だったのです。

――2010年代後半からジャニーズは確かに激動続きです。

Kei 16年末にSMAPが解散、18年にはTOKIOが音楽活動を休止し、20年末には嵐が活動休止、そして21年にはV6も解散。このように、ジャニーズの中で先輩と呼ばれるアイドルたちがどんどん音楽面から離れていく一方、18年にKing&Princeがデビューして以降、20年にSnow ManとSixTONES、21年になにわ男子、そして22年にTravis Japanと、若手グループが相次いで登場。同時にK-POPグループも含め、ほかのボーイズグループの人気も出始めました。

 そんな中、12月20日に初めてCDをリリースするTravis Japanを除いたジャニーズの若手グループは、CDセールスが基本的に1週間で30万枚を超えています。実物のCD、DVDといった音楽や映像ソフトを指す「フィジカル」の売り上げはどんどん高い水準で安定をするようになったと捉えることができると思います。

 一方、複数の指標で構成されるビルボードジャパンのソングチャート「Hot 100」は、時代に合わせて変わっています。特に大きいのがフィジカルセールスとストリーミング。フィジカルセールスは一定の売り上げ枚数を超えた分に係数処理を施すことによって数値の反映を是正、売り上げ枚数と実際にフィジカルを買った人数との乖離を考慮した一方、サブスク再生回数等に基づくストリーミングはウェイトを大きくしていって、「ストリーミングでのヒットが社会的なヒットである」という形にどんどんなってきています。実際、ストリーミングで「億超え」を達成した曲が年間チャートでも上位となり、チャートの納得度も高くなっていますね。

――ジャニーズは基本的に、サブスクは解禁していないですよね。

Kei そうなんです。なので、22年のビルボードジャパン年間ソングチャートを見ても、実はジャニーズの楽曲は2曲(なにわ男子「初心LOVE」、Snow Man「ブラザービート」)しか入っていません。

 ジャニーズのファンの方が「お金を落とす」という表現を使っていることを耳にすることがあります。要はアイドル側にいかに利益をもたらすかを重視し、「サブスクは利益になりにくい」「楽曲をタダで聞くのはよくない」と思われているのでしょう。

 しかし、「それは違う」というのは言わなければいけません。ビルボードジャパンのチャートは、例えば、集計の対象にSpotifyやAmazon Music Primeの再生数も入っているのですが、有料会員と無料会員の再生では、チャートに反映されるポイントのウェイトが異なります。つまりサービス側にお金を払った人が聴けば獲得ポイントは高くなりビルボードのチャートが上がる、そして長期的なヒットになれば歌手側にもたらされる利益は増えることになります。

  さらにデジタルを解禁していれば、いつ何時でもフックアップされる可能性が高まります。例えば、今年大ヒットした新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」は20年リリースの作品であり、オリジナル版はCDとしてリリースされていないのです。

――ジャニーズもファンも、時代に乗り遅れている感は否めませんね。

Kei それに最近は、CDにグッズを併せたり、CDとデジタルのトータルで楽曲を浸透させていくというのが主流になってきています。いまそれで成功しているのがBE:FIRST。彼らはこれまでフィジカルのシングルを4枚出しており、表題曲においては3rdシングル「Smile Again」がYOASOBIの「アイドル」に及ばなかったものの、他3曲はすべてビルボードジャパンのチャートで1位を獲得しています。

 彼らは、フィジカルがリリースされる直前にデジタルを解禁し、その両方で楽曲を売るスタイル。運営はチャートのこと、そしてその影響力もわかっていると感じます。一方でジャニーズのグループがフィジカルを売ってきた経験は、ビルボードジャパンソングチャートが主流となった今の時代にも生かせると思うのです。

――ジャニーズもファンもビルボードジャパンよりオリコンチャートのほうを重視している傾向はあると思います。

Kei チャートを追う者としては、「社会的なヒットを示すのはビルボードジャパンのほう」という認識が世間にきちんと広まってほしいと思うのですが、一方ここ何年かでジャニーズ側のデジタルに対する意識は確実に変わってきていると感じています。例えばSixTONESは、サブスクが解禁されない現況にもどかしさを感じているのではないでしょうか。彼らは昨年「PARTY PEOPLE」という楽曲をYouTube限定で公開しましたが、それももどかしさゆえの試みなのかなと。

 ビルボードジャパンのソングチャートには「動画再生」という指標があるのですが、21年の半ば以降、ジャニーズ勢がトップ20の上位に多く進出するようになりました。YouTubeの活用が巧くなっているのみならず、サブスクを解禁すればもっと大きいヒットになる可能性も十分あるのではと、この指標の動向から感じています。

King&Prince「シンデレラガール」、なにわ男子「初心LOVE」ヒットに見る独自性

デビュー曲「初心LOVE」が、道枝駿佑とSnow Man・目黒蓮のダブル主演ドラマ『消えた初恋』の主題歌に採用されたなにわ男子(写真:サイゾーウーマン)

――今の音楽シーンに遅れを取りながらも、新たな施策を打ち出し始めたジャニーズですが、近年の音楽面における“独自性”についてお聞きしたいです。

Kei 大きく3つあるのかなと思っています。まず1つ目ですが、King&Princeの「シンデレラガール」やなにわ男子の「初心LOVE」、Kis-My-Ft2の「Luv Bias」、Hey!Say!JUMPの「DEAR MY LOVER」など、王道のポップなラブソングがメンバー出演の恋愛ドラマの主題歌に採用されることでヒットするという事象は、ジャニーズの独自性に該当すると感じますね。

――「シンデレラガール」は、平野紫耀さん出演の『花のち晴れ~花男 Next Season~』(TBS系、18年4月期)、「初心LOVE」は道枝駿佑さんがSnow Man・目黒蓮さんとともにダブル主演を務めた『消えた初恋』(テレビ朝日系、21年10月期)の主題歌に採用され、その年を代表するヒット曲になった印象です。

Kei 「Luv Bias」は、玉森裕太さんが主演・上白石萌音さんの相手役を務めた『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系、21年1月期)の主題歌。LINE MUSIC限定でサブスクが解禁されたり、グループのYouTubeチャンネルにライブ映像がフルでアップされたり、また「レコチョク」でダウンロードできたりといった影響もあってか、ジャニーズの曲としてはヒットが長く続いていました。一方、「DEAR MY LOVER」は、橋本環奈さんがヒロインで、山田涼介さんとカップル役を演じた『王様に捧ぐ薬指』(同、23年4月期)の主題歌で、こちらは動画再生指標が長くヒットしていました。

――所属タレントがメインで出演するドラマの主題歌に、グループの楽曲を採用するのは、確かにジャニーズの伝統芸ですよね。

Kei これらの4曲が起用されているドラマは、いずれも彼らの単独主演作ではないんですよね。『消えた初恋』はダブル主演という形でしたが、ほかのドラマは男女のラブストーリーで、女性が主人公、ジャニーズのアイドルがその相手役という立ち位置。多くの女性視聴者が彼らの主題歌を聞くと、主人公の目線になれる――つまり感情移入しやすくなるという面があると感じます。

――ドラマと主題歌をセットでヒットさせるやり方ですね。一方で、そもそも近年ジャニーズ以外のグループで、王道のポップなラブソングのヒットが少ない印象もあります。

Kei 坂道系シリーズや48グループ、またK-POPの中でもNewJeans、TWICEといった女性ダンスボーカルグループにおいては、ポップなラブソングがヒットするケースはよくありますが、K-POPを含めた男性ダンスボーカルグループでは確かに少ないかもしれません。BE:FIRSTの2ndシングル「Bye-Good-Bye」はその系譜で、ストリーミングの累計再生回数が1億回を突破するなどヒットしましたが、それ以外のグループだとあまりないかなとは感じますね。

Snow Man「ブラザービート」はカッコよさと親しみやすさが共存

Snow Manの画像
実写映画『おそ松さん』の主題歌「ブラザービート」が代表曲の一つになったSnow Man(写真:サイゾーウーマン)

――2つ目に挙げられるジャニーズの独自性はなんでしょうか。

Kei カッコよさと親しみやすさが共存している楽曲は、近年のジャニーズ音楽の独自性だと思います。具体的なタイトルを挙げると、Snow Manの「ブラザービート」。こちらはメンバー全員が出演する実写映画『おそ松さん』の主題歌で、映画の世界観をはっきり踏襲したコミカルソングではあるのですが、キャラクターをうまく反映させた歌詞やラップ、振り付けも相まってカッコよくもあり、コミカルソングには収まらない楽曲だと思います。

 ちなみに「ブラザービート」は、ビルボードジャパンのチャートがサブスクでの再生回数をどんどん重視するようになり、ジャニーズ勢には不利な状況が続いている中、22年度の年間ソングチャートで84位にランクインしました。順位こそ高くはありませんが、YouTubeにMVをフルで解禁したことも、近年のジャニーズ曲で大きなヒットにつながったのではと考えます。

 また、King&Princeの「ichiban」もカッコよさと親しみやすさが共存しています。楽曲自体はカッコよさが際立つ一方、TikTokで曲を解禁してハッシュタグチャレンジを開催しダンス動画の投稿を呼びかけたことが、「ichiban」に親しみやすさを与えたと感じています。BE:FIRSTのSOTAさんも「踊ってみた」動画を公開していましたが、ジャニーズ以外のアーティストが参加することも大きかったのではないでしょうか。

椎名林檎に常田大希……ジャニーズへの楽曲提供は根底にその“イズム”がある

5人時代のKing&Princeの画像
5人時代のKing&Prince「ツキヨミ」はラテン歌謡曲テイストのジャニーズらしい楽曲(写真:サイゾーウーマン)

――3つ目はいかがでしょうか。

Kei 楽曲提供の多様性です。日本の男性ダンスボーカルグループへの曲提供は現在、コライト(複数人で楽曲を制作する作曲スタイル)によるものが多い中、ジャニーズはそういう曲もありつつ、ベテラン作家さん、そしてシンガーソングライターの方が作詞と作曲の両方を単独、もしくは作詞作曲それぞれ1名ずつで手掛けた曲が目立ちます。例えばJO1やINIのシングル曲におけるK-POP的なJ-POPはコライトによる作品です。一方ジャニーズは、最近では椎名林檎さんがSexy Zoneに「本音と建前」を、またKing Gnuの常田大希さんがSixTONESに「マスカラ」を提供しています。

――有名シンガーソングライターによるジャニーズへの楽曲提供は、毎回大きな話題になりますよね。

Kei それから、元SUPERCARのギタリストで、さまざまな楽曲の作詞、プロデュースを手掛けてきたいしわたり淳治さんが、King&Princeの「ツキヨミ」の作詞を担当。こちらは、KinKi Kidsの「硝子の少年」、修二と彰の「青春アミーゴ」、タッキー&翼の「Venus」と同じ系譜のラテン歌謡曲テイストという点で、非常にジャニーズらしさを感じたのですが、「ツキヨミ」もそこが広くウケた理由の一つではないかと思っています。

 作詞・作曲を手掛ける側は当然、誰に提供するのか、またタイアップは何かという点を意識しているわけですが、ジャニーズのグループに楽曲提供をする際、過去のジャニーズヒットソングの系譜を踏まえるというのが制作の根底にある……そう捉えてもいいのかもしれません。コライトではない場合、こうしたジャニーズ楽曲の「イズム」はよりはっきり楽曲に表れますし、それがジャニーズ音楽の独自性になっているのではないでしょうか。

今後ジャニーズの音楽が鍛えられていくために必要なこと

Hey!Say!JUMPの画像
10月24日にファーストデジタルEP「P.U!」をリリースしたHey!Say!JUMP(写真:サイゾーウーマン)

――今後、ジャニーズの音楽面について、アイドルに受け継いでいってもらいたいものはなんでしょうか。

Kei 1つ目に挙げた独自性と重なる話ですが、ジャニーズのアイドルたちはドラマや映画への出演機会が非常に多く、そこに主題歌がリンクするケースが目立ちます。その背景には事務所の圧力的なものがあった可能性、メディアが過度に忖度しただろうことは否定できず、今後は映像作品への出演や、それに伴う主題歌の起用は減っていくかもしれません。とはいえ、演技面を評価されている方が多いのは事実です。

 そんな彼らが、俳優として映像作品に出演するとともに、アーティストとして主題歌を歌い、その双方ができるといういわば「ジェネラリスト」に特化していく――その評価を積み上げていくことで、ジャニーズ独自の音楽性も高めていくというのが望ましいと思います。

―― 一方で、ジャニーズの音楽面で変わってほしい面はありますか。

Kei 社会的なヒットソングを生み出すためにも、楽曲の配信は絶対に必要です。以前、少年隊の錦織一清さんが「SPA!」(扶桑社)のインタビューで、サブスク解禁を事務所の上層部に訴えたところ、「うちのファンの子たちはパソコンなんか持ってない」と一蹴されたと言っていました。いや、スマホを持ってるだろうとツッコミたくなる話なのですが。

 ジャニーズは、事務所のやり方に従ってくれるメディアとばかり関係を築く中で、「勝てるところだけで勝てればいい」という考えの元、ずっと変わらないでいたのだと思います。しかし、変わらなければいけないのは音楽チャートを見ても明らかですし、誰よりもアーティスト自身が焦っているように感じるんですよね。

 ただ一方で、Hey!Say!JUMPが10月24日にファーストデジタルEP「P.U!」をリリースしたこともあり、おそらく今後は他グループも続いていくとは思います。そこで気になるのは、すでに退所者や脱退者が参加する楽曲はどうなるのかという点です。

――退所者がテレビに出やすくなったとはいえ、ジャニーズ在籍時の映像を流すのを差し控える番組は今も多いです。楽曲の配信においても同じような事態になる可能性は大いにあります。

Kei もし配信されない場合、彼らがいた時代のグループの歴史自体がなかったように見えてしまいます。楽曲を配信することはネットを介してジャニーズのアイドルが築いてきた音楽の歴史を伝えていくことにもつながるわけで、そこは本当に、間違いなくやってほしいと思います。

Kei(けい)
音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボード等の最新音楽チャートをさまざまな視点から分析するブログ「イマオト」を執筆。地元ラジオ局でDJも担当。これまでに「Impress Watch」「TOKION」「uDiscovermusic日本版」「NumberWeb」などへ寄稿している。

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最終更新:2023/12/14 16:05
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