コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

30代で経験した両親の看取り――「楽しかった」と介護を振り返る娘の“原動力”とは?

2022/11/06 18:00
坂口鈴香(ライター)
Getty Imagesより

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

 母の晃子さん(仮名)の死後、有料老人ホームに入居している高次脳機能障害の父、博之さん(仮名・69)が問題行動を起こすようになった。食事も摂れず、ホームでは手に負えなくなったため、精神科病院に2カ月入院した。このまま寝たきりになってしまうのではないかと危惧していた中村万里江さん(仮名・36)だったが、予想に反して博之さんは驚くほど回復していた。

面会できない父のためテディベアにメッセージを吹き込んだ

 ところが、喜んだのもつかの間。再びホームで生活するようになると、博之さんの状態は入院前より一層悪くなっていった。

「少しは反応がありましたが、食事も全介助になり、ほぼ寝たきりになってしまいました。父がかかりつけの病院に通院するときだけ会えましたが、座っているのもつらそうで、待ち時間もソファで横になっていました。気になったのは、爪が伸びていること。待ち時間に売店で爪切りを買い、切ってあげていましたが、ホームが父のことを見てくれていないんだと悲しくなりました」

 心配ではあったが、コロナ禍のためホームでの面会もままならない。中村さんはテディベアに自分の声を吹き込んで、博之さんに聞かせてもらうことにした。「おはよう! 起きて。ごはんモリモリ食べて!」と。

「いろんな問題が起きては、どんな対処方法があるか考えることは楽しかったです。介護って、クリエイティブだなと思いました」

 30代の中村さんの周りで、親の介護をしている友人はほぼいなかった。つらさを吐き出すこともできない中、こうして前向きに受け止める原動力となったのは、自助グループの存在だった。

 中村さんは、晃子さんの死の悲しみや博之さんの介護のつらさを吐き出す場を探して、いくつかの自助グループに参加していた。グリーフケア(※1)、高次脳機能障害の家族会、若年性認知症の親を持つ子どもの会だ。

「ピアサポート(※2)では、気持ちがずいぶん楽になりました。グリーフケアのグループでは、何年も親の死で苦しんでいる人がいて、母を亡くして数カ月の自分はまだ新米だなと思いましたね。若年性認知症の親を持つ子どもの会には、私くらいの世代の子どもの会がほかになかったので参加したのですが、共感することがたくさんあったんです。高次脳機能障害の家族会は当事者の奥さんが多かった。家族ならではのちょっと毒のある会話が許されていて、笑うことでスッキリできました。おすすめの病院や相談先も教えてもらいましたよ」

(※1)グリーフ=悲嘆、深い悲しみ。身近な人との死別を経験した人の心の状態を理解して、回復をサポートする取り組みのこと。
(※2)同じような立場や境遇、課題に直面する人がお互いに支え合うこと。

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