[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

R-18韓国映画『お嬢さん』が“画期的”とされる理由――女性同士のラブシーンが描いた「連帯」と「男性支配」からの脱出

2021/02/05 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

『お嬢さん』「抑圧」と「性意識」にカウンターパンチを食らわせた快作

 
 また、日本と韓国という構図が持ち込まれている点から考えるならば、本作を「ポスト・コロニアリズム」分野における「視線と凝視」の概念から捉えられるかもしれない。ホミ・K・バーバという文化理論家が著書『文化の場所』(法政大学出版局)の中で提唱したこの用語は、帝国の植民地へのステレオタイプ化(視線)と、それに対する植民地の現実(凝視)を分析するために用いられ、支配者の視線が作り出した「良き植民地」のイメージは、必ずしも植民地の現実と一致しないという、ステレオタイプの無意味な虚妄性を暴いた概念である。

 だが帝国/植民地の対立を、同じような支配関係を持ちやすい男女のそれに置き換えることは、十分に可能だろう。支配者である男たちの性的な「視線」によってステレオタイプ化された秀子が、実際の彼女と異なるのは明白であり、スッキと連帯して復讐を遂げるその後の展開は、まさに男たちの身勝手な視線に対する女たちの「凝視」といえるからだ。いずれにせよ本作は、あらゆる抑圧――男性による女性への抑圧と、国家レベルでの性的抑圧――に対して転覆的な問いを投げかけた、儒教的な「性」意識へのカウンターパンチとなった快作だと評価できるものである。 
 
 新型コロナウイルスにより映画界も暗い話題ばかりだが、最近、パク・チャヌクが新作の製作を開始したといううれしいニュースが飛び込んできた。ここのところポン・ジュノの名前ばかりが目立っていたので、早くパク・チャヌクの新作を拝見したいものだ。次は一体、どんなタブーに切り込んでくれるだろうか。 

崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

最終更新:2022/11/04 18:28
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