【特集:安倍政権に狙われる多様性ある社会】

家庭内に押し込まれる子育て・介護、DV、虐待問題――安倍政権と保守派の「24条改憲」の狙いは何か?

2020/01/08 18:30
小島かほり

そもそも国民は、改憲を「強く」求めているのか?

――まず、「改憲」は一般的なものではなく、どういった影響が起きるのかわからない人も多いので、ご説明いただけますでしょうか。

清末愛砂氏(以下、清末) その答えは、改憲の要件と同じ意味ですので、そちらからお話しします。私はよく改憲は最終手段というのですが、国民の人権を保障できないような事態が生じ、今ある法律を改正したり、憲法を積極的に解釈したりしても具体的な施策が難しい状況、なおかつ国民の中から強く要請されるときに、改憲への動きが始まります。「国民の要請が強くある」というのが、非常に重要です。普通の法律は、国会で審議して採択されれば法改正や立法ができますよね。だけど憲法は、両議院で総議員の3分の2以上の賛成を得て、さらに国民投票をしないといけない。このように日本国憲法の場合、改正のハードルは高く、つまり頻繁な改正は当初から予定してないということです。

――憲法が変わることによって、それに沿うように法律も改正されていくということですよね?

清末 憲法に基づいて動く国ですから、当然法律がそれに付随して変わることもあるでしょう。

――裁判所の判断も、当然新しい憲法に基づく判断となりますね?

清末 裁判官がどこまで憲法を意識しているのかわかりませんが、当然憲法に沿った判断じゃないとまずい。だけど実際に日本の裁判所が現実として、今それをしているかと問われると、私は裁判官による政権への忖度も大きいと思っています。ただ、本来そうでなければならないし、実際にそうしている裁判官もいます。

政治利用される、同性婚の法制化

――改憲の影響を確認した上で、女性やマイノリティ、そして多様性ある社会にとっての脅威となる、保守派の24条改憲の動きについておうかがいします。9月の第4次安倍第2次改造内閣発足の際には、安倍首相が改憲への決意を新たにしましたが、24条は18年に自民党憲法改正推進本部がまとめた改憲4項目(自衛隊明記、緊急事態条項、参院選合区解消、教育の充実化)には入ってはいません。それでも憲法学者、ジェンダー学者の多くが危機感を抱いている理由を教えてください。

清末 今は4項目には入っていないのですが、最近富山市で行われた講演会でも、自民党の下村博文氏が「同性婚の法制化のための憲法改正」と24条に関わることを言っていましたし、自民党も「必ずしも4項目にこだわらない」と言い始めています(※1)。そうなると24条が狙われる可能性が非常に高い。とりわけ「同性婚の法制化」の名のもとで、24条1項の「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」を、「両者の~」に変えようと言っているわけですから。今の情勢でなぜ再び24条改正論が出てきたかというと、同性婚法制化のための改憲だったら、野党でも賛同する政党があるから。自民党は7月の参議院選では改憲決議に必要な総議員の3分の2には届かなかったけれど、数席足りないだけです。その数席を改憲側に持ってくればいいわけだから、野党のうち改憲に賛成しそうな党が求めているところで妥協することがひとつの戦略として考えられるということでしょう。だけど、そもそも「国民が改憲を強く求めているか」というと、声すら出ていないと思うんですよ。例えば、「緊急事態条項」と聞いてその内容がわかる人はそれほど多くないですよね?

――「聞いたことがある」という程度の人が多いような気がします。

清末 言葉すら知らない人も多いと感じますし、知らない以上は、声が出るはずはないんですよ。いわゆる立法事実といわれるものがない。それ自体に問題があるんですが、同性婚の法制化と言えば納得する人も出てくるでしょう。ただ24条を改正したからといって、自民党が同性婚の法制化を認めるとは思えない。憲法を変えても、それだけで同性婚が法制化されたということにはならず、実務を動かすためには関連する法律の改正が必要になります。しかし、自民党は党内でも同性婚反対の声がそれなりに強いので、そこはやらないと思う。今は、改憲を進めるために、その正当化の理由として同性婚の法制化を利用してるだけで、実際には法制化を進める気はないだろうとは、弁護士や憲法研究者と話していますね。ちなみに、同性婚法制化のために24条を変える必要はありません。

――そうなんですか?

清末 「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」は、「合意のみ」が重要なのです。そもそも制定の趣旨として(結婚に戸主の許可が必要だった戦前の家制度を否定し)、単に異性婚の成立要件を「合意のみ」と書いているにすぎない。当時は同性婚の議論がなかったから、当然禁止する意図はないのです。24条2項に、家族に関連する立法については、「個人の尊厳と両性の本質的平等」に基づくと書かれています。同性婚が認められていないこと自体、それを望む人々の「尊厳」を奪っています。「個人の尊厳」に着目したら、24条2項のもとで同性婚の立法化が可能です。なので、24条の改正は、同性婚の法制化には関係ありません。

※1 9月21日に富山市で行った講演で、改憲項目について、24条の「両性の合意」を「両者の合意」に書き換える案などを示した。その後、党内からの反発を受け、「野党が望むテーマがあれば議論を検討する」と発言を後退させている

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