コラム
老いてゆく親と、どう向き合う?

「老人ホームに入れるしかない」82歳の“意地悪ばあさん”、ボケるどころか……娘・息子の暗澹たる思い

2019/11/24 19:00
坂口鈴香

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。今回は老いた母親と娘の関係を考える後編をお送りする(前編はこちら)

annaさんによる写真ACからの写真

 稲村幸助さん(仮名・52)の妹・真知子さん(仮名・50)は、30代で夫を亡くし、同居していた舅姑を見送ったあと、遺産ももらえず家も失った。稲村さんは真知子さんに母親(82)が住むマンションで同居することを提案した。母親も老いてきたので、真知子さんが同居してくれるなら一挙両得だと考えたのだ。

 だが、稲村さんはすっかり忘れていた。大学入学とともに実家を離れ、母親と密に付き合うことのなかった稲村さんは気がつかなかったが、「あなたのためだから」「あなたはできないんだから」という母親の呪縛は今も消えてはいなかったのだ。

ドアチェーンをかけて娘を締め出す

 母親と真知子さんが同居を開始するとまもなく、二人の不和は明らかになった。50歳になろうとする娘を縛ろうとする母親との同居が、うまくいくわけがない。

 真知子さんは、引っ越しが済むと何十年かぶりにフルタイムの仕事をはじめた。稲村さんが「自分の生活費くらい自分で稼げ」と言ったのだ。地元の小さな会社にパート社員として入ったのだが、皮肉なことに母親仕込みの辛抱強い性格が社長の目に留まり、しばらくすると正社員に採用された。

「会社での人間関係も良好で、私もすっかり安心していたのですが……」

 母親はまるで高校生の娘にするように真知子さんの生活にいちいち口を出した。帰りが遅い、女が飲みに出かけるなんてとんでもない……。そして、とうとう真知子さんを家から閉め出したのだ。

「妹が職場の友人と旅行に行ったらしいのですが、自宅に帰るとドアチェーンがかけられていて、家に入ることができないというんです」

 真知子さんが何回チャイムを鳴らしても、電話を掛けても、母親は知らん顔。ドアを開けようとしない。困り切った真知子さんが稲村さんに助けを求めたことで、この締め出し事件が発覚した。

「母は、妹が楽しそうにしているのが面白くないんです。亭主がボンクラだったせいで苦労が絶えなかった妹の結婚生活でしたが、そんな状況にも母は満足していたのかもしれません。それが、今は仕事も順調で、母を置いて旅行に行って楽しんでいる。自分のいないところで妹が楽しい思いをしているのが許せないんでしょう。家から閉め出すなんて、50の娘に対して82の親がすることですか。まったく、情けないですよ」

 稲村さんが母親をきつく叱ったことで何とか落ち着いたものの、稲村さんと真知子さんは、母親が年を取って弱くなるどころか、昔よりも偏狭になっていることを認識し、暗澹たる気持ちになった。

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