カルチャー
ミリヤと「着うた」ブームを紐解く

加藤ミリヤが結婚&出産――いま振り返る“泣き歌”アーティストに見る平成の恋愛観

2019/08/12 17:14
白原ケンイチ

 2019年4月、公式サイトを通じて一般男性との結婚と妊娠をダブルで発表した加藤ミリヤ。去る6月上旬には第一子となる男児の出産を発表し、まさしく幸せの真っ只中のアーティストと言っていいだろう。一方で、ファン界隈やネットニュースでは「もう以前のように不幸な曲を歌わないんじゃ?」と、ミリヤの方向性の変化を心配する意見も散見された。幸せな状況にあっても“不幸”が付いて回る——それがミリヤ最大の特徴であり、揺るがぬ持ち味でもある。

 着うた全盛期であった2000年代後期、俗に“泣き歌”と呼ばれる失恋ソングを主体とするアーティストが続々と登場したのは記憶に新しい。ミリヤはその中心的存在として猛威を振るい、一時は“病みソングの女王”の肩書を欲しいままにもしていたほどだ。04年にデビューし、翌年にリリースしたシングル「ディア ロンリーガール」ではささくれ立った10代女子の孤独を赤裸々にぶちまけ、瞬く間に同年代のカリスマに。その痛々しいほどストレートな心情描写はやがて、恋愛においての抑制できない不安や苛立ち、寂しさまで鮮明に浮き立たせるようになり、「SAYONARAベイベー」(08年)や「WHY」(09年)といった激情派な名曲も数多く生み出した。

 ひたすら相手に執着し、ヒステリックなまでにヒートアップするも、根底にはいつも大きな愛が渦巻く。誤解を承知で言えば、“重めなオンナ”なのだが、世の女子たちはそんな病める楽曲に共感し、自らを思い思いに投影した。ミリヤに慰めてもらいたくて、気持ちを受け止めてほしくて、ケータイで楽曲に浸る女子が当時どれだけいたことか。ちなみに、感動的なバラードに仕上がっている最新シングルの「愛が降る」でも、〈愛は愛は愛は あなただけに捧げる〉という強烈な一節を落とし込むなど、デビュー15年目の今なおミリヤの愛・至上体質は衰えを見せていない。

着うたと共にブームとなった「泣き歌」

 さて。平成の時代、ミリヤのほかにはどんなアーティストが女子の感傷に寄り添ったのか、せっかくなので振り返ってみたい。まず挙げたいのが、バラエティ番組でも活躍中の青山テルマ。遠距離恋愛中の男女の強い絆を綴った「そばにいるね feat. Soulja」(08年)が、着うたフル史上初のダウンロード数200万件を突破。その年の『NHK紅白歌合戦』にも出場を果たすなど、文字通りの大ヒットを記録した。その影響力たるや絶大で、以降はやるせない恋愛模様を歌い上げた楽曲や、シンガーとラッパーによるコラボレーションが急増。切ない時代の本格的な幕開けである。

 ミリヤと同じく今年結婚を発表した西野カナも、泣き歌ブームの一翼を担った歌い手のひとり。「会いたくて 会いたくて 震える」という揶揄されながらも、しっかりと西野の代名詞となり、名フレーズともなった「会いたくて 会いたくて」(10年)を筆頭に、耳なじみの良いメロディとやりきれないシチュエーションの合わせ技が大の得意。しかしながら、西野カナの本当にすごいところは、「私たち」のような“ズッ友”モノ、さらには「GO FOR IT!!」(共に12年)に代表される恋の応援物語など、全方位から同世代のニーズに応えられる器量の大きさにある。「トリセツ」(15年)あたりからは結婚や仕事といった社会人特有のテーマも頭をもたげ始め、実年齢に沿ったレディらしい嗜みを自然体で届けるように。

 09年にソロデビューしたYU-Aは、ミリヤの楽曲が纏う病的な雰囲気の正当後継者として期待を持たれていた女性アーティスト。なにせデビューシングルの「逢いたい・・・」(09年)からして、とてつもなくナーバスな失恋ソング。この徹底した辛気臭さは、一周回って高い中毒性を誇る。また、「そばにいて、すぐ消えて。」(10年)に至っては、この手のアーティストがこぞって追求した“矛盾する気持ち”を極限まで高めた上で暴発させた超名(迷?)曲。それはまるで、ケータイでの軽薄なコミュニケーションに疲れ、途方に暮れた女子たちの怨念が取り憑いているかのよう。

 容赦なく噛み付くという点では、JASMINEという猛者の存在も忘れてはならない。「クソくらえ」「ちくしょう」など、“女子力”というかわいらしさからかけ離れた、ぶっきらぼうな言い回しを用いながらやり場のない喪失感を嘆いた「sad to say」(09年)で一躍注目の的に。泣き叫ぶような歌唱によって発せられる切れ味鋭いメッセージは、まさしくティーン時代のミリヤのそれそのもの。無論、着うた世代の大好物として受け入れられ、多くの女子の枕を濡らしたのだった。

 平成から令和、ガラケーからスマホ。この10年だけでもさまざまな事象が移り変わり、かつて若者に親しまれた泣き歌系アーティストたちも今や、アラサーと呼ばれる年齢になった。ミリヤをはじめ、それぞれがそれぞれの道で幸せを手にしているだろうが、また近い将来、カムバックした彼女たちはどんな歌を聴かせてくれるのか。人生の深みを増した泣きソングで我々リスナーの心をとことんかき乱してほしいものだ。

加藤ミリヤ(かとう・みりや)
1988年、愛知県生まれ。2004年に「Never let go/夜空」でデビュー。BUDDHA BRANDやUAなどの名作をサンプリングした楽曲で注目を集める。自身のアパレルブランド「KAWI JAMELE」のデザイナー、小説家としても活躍。

「愛が降る」(通常盤)1300円 :発売中
「ほんとの僕を知って」(初回限定盤)1700円:9月4日発売

最終更新:2019/08/14 12:02
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