カルチャー
[官能小説レビュー]

官能小説のトレンド「ヤクザモノ」、おぞましい陵辱プレイと愛情深いセックスを対照的に描写

2019/05/20 21:30
いしいのりえ
『地獄のセックスギャング』(実業之日本社)

 ファッションやメイクなどと同じように、官能小説にもスタンダードやトレンドが存在する。長年変わらずに愛されているのはSMや人妻モノで、これらはあらゆるシチュエーションで幅広く表現され続けている。

 加えて、姉妹モノなども広く親しまれているジャンルだ。姉妹モノにSMの要素を掛け合わせた作品は多く存在し、姉と妹という「百合」の要素も加わることから、官能小説のファンにとっては安心して手に取ることのできるシチュエーションだ。

 さて、最近の官能小説のトレンドといえば「ヤクザモノ」である。昨今では「若者のセックス離れ」とも言われるように、性に対してあまり興味を持たない男性が多いことから、その反動か、オラオラ系の強い男たちが登場する作品が多く見られる。一般的な男女とは違い、えげつないセックスも描写することができるので、ハードプレイが読みたい読者から支持を得ているジャンルだ。

 新たに確立されつつあるヤクザモノの第一人者といえば、草凪優の名が挙がる。さまざまなヤクザモノを手がける草凪氏の作品の中で、特に推薦したいのが『地獄のセックスギャング』(実業之日本社)だ。

 主人公のコージは、六本木の裏通りにある勤め先のバーでマリアと知り合った。ひとりで物静かに酒を飲み、本を読むマリアに興味を持ったコージは、ある日マリアが働くキャバクラを訪れる。

 ひょんなことから恋人同士になった2人は、住宅街にアパートを借りて、静かに愛を育む。コージの脳裏に「結婚」の二文字がチラつくようになった時、2人を切り裂く事態が襲った。「堂本」と名乗る男が現れ、「マリアは俺の女だ」と言い放ち、彼女を連れ去ったのである。

 マリアを奪われてから2年たち、コージは振り込め詐欺グループのアジトに身を置いていた。憂さ晴らしをしようと入った闇マンヘル(違法マンションヘルス)の個室で、偶然にもコージはマリアと再会する。彼女を奪った堂本が仕切るその店では、当然本番は禁止だ。監視カメラが設置されている部屋で、コージは狂ったようにマリアを抱き、互いの愛を確かめ合う。コージは堂本が仕切る店を襲撃し、マリアを奪い返して逃げるのだが——。

 逃げる彼らを追う悪党たちによって、目を覆うほどの激しい陵辱の数々が繰り広げられる。その手はマリアの妹であるカンナにも及び、マリア自身も恥部に屈辱的な言葉のタトゥーを入れられてしまう。

 ヤクザモノの見どころは、おぞましい陵辱プレイの見せ場と対極をなす、男女の愛情深いセックスシーンにある。改めて2人きりになり、2年間の空白を埋めようとマリアの下着を下ろした時のコージが深い愛情でマリアを包むシーンは必読だ。

 本作は、非日常を感じる作品を体験したい方には、ぜひオススメしたい新ジャンルである。
(いしいのりえ)

最終更新:2019/05/20 21:30
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