カルチャー
[連載]マンガ・日本メイ作劇場第43回

屈指の名作少女漫画『秘密-トップ・シークレット-』、作者が天才すぎたがゆえのある誤算

2016/09/04 19:00

 そうやって作中どんどんクローズアップされるのが、「第九」のイケメン室長・薪と「第九」配属された熱血の新人・青木のカラミである。 薪さんは少年顔のイケメンだが、同僚を殺してしまったという大きなトラウマを持っており、彼の幻覚を見ては泣いたり叫んだりしている。そんな薪さんに寄り添うのが青木であり、薪が額に傷を負うとハンカチで拭いてあげたり、手を握りながら説得したり……と、全巻通して、この2人の“サービスシーン”が山ほど見られる。『秘密』というタイトルには、薪さんの青木に対する秘めた想いの意味も込められているらしく、確かに興味深いのだが、本筋の事件が頭に入ってこなくなる。

 そして、薪さんがよく部下をけなすシーンも、ドラマチックすぎではないか。「帰れ」は当たり前、怒鳴り散らすのも当たり前。言うことを聞かない部下には平手打ちまでしたりする。ねえそれ、フツーにパワハラですから! パーで頬を叩くとか、職場で見たことないですから! と気になりだすと、すっかり気持ちは冷え冷え(職場で見たことないと言えば、同僚にこんなにベタベタ触る職場も見たことない……)。

 そんなわけでこの作品、サスペンスとしてはとてもおもしろいし、作者お得意のドラマチックな設定や展開は、宇宙ファンタジーや異星の物語なら違和感がなかったのだけど……。ただ、「警察官」というリアルな職業でそれをやられると、どうしてもツッコまざるを得ないシーンがいっぱいでてくる。ビジネスの場で登場人物のトラウマやからみがどんどんとクローズアップされたところで、どうにも読者置いてきぼり。「えっ、そんな精神的に不安定な人をそのまま働かせていていいの?」「『この仲間とずっと一緒に仕事したいです!』って、そんなに職場のムードよくなかったじゃない?」など、「第九」の面々の描写が緻密になればなるほど、読者の脳みそは冷えていく。もういいよ君たち、つらいのはわかった、大変なのもわかった。だからもっと淡々と仕事してくれ……。

 この作品は、作者の実力があまりに高いため、登場人物の仕事の仕方がキモチワルクなってしまった“力量が高い故のメイ作”、という珍しい作品なのかもしれない。

■メイ作判定
名作:迷作=5:5

和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女漫画マイスター、文筆家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。

最終更新:2016/09/04 19:00
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