カルチャー
国立精神・神経医療研究センターの精神科医・松本俊彦氏インタビュー

なぜ逮捕されてもクスリがやめられないのか? 精神科医に聞く、薬物依存症の心理と回復に必要なこと

2016/05/16 15:00

■罪悪感が、また余計にクスリに走らせる

――自分を奮い立たせる栄養剤のような感覚で使用し、だんだんとハマっていくということですね。依存が進行すると、どのような状態になってしまうのでしょうか?

松本 最初のうちはクスリによってパフォーマンスが上がるのですが、摂取をやめると電池が切れたようにぐったりし、なんともいえない気だるさと虚脱感に襲われてしまいます。そのため、摂取し続けることでパフォーマンスを保とうとするのです。しかし、継続してクスリを使用することで耐性ができるので、量を増やさなければいけなくなる。しかし、本人は、「クスリを使って、自分の生活をうまくコントロールしている」と思っているんです。自分のパフォーマンスを調整しているつもりでいるのですが、依存性薬物というのは必ず立場が逆転して、クスリにコントロールされてしまいます。

 そのうち、なんとか自分を保たせるために、「ちょっと仕事を中抜けして摂取しよう」とか、「クスリを入手する金がなくなっちゃったから、親に借りよう」というように、クスリを使っていることを隠しながら、嘘をつくようになるんです。昔はおとなしかったような人でも、口から先に生まれてきたような感じになって、皆を必死で騙すようになる。とにかく、自分にとって大事なもののランキングの順番が変わってくるわけです。

――クスリが優先順位の1位になってしまうと。

松本 その通りです。「自分にとって大事なものは何か、大事な順に挙げてみよ」と問われれば、順番はさておき、多くの人が家族や恋人、友人、あるいは仕事、財産、健康、将来の夢といったものを挙げるでしょう。ところがクスリにハマっていく中で、そうしたものの順番が全て入れ替わり、一番大事なものがクスリになってきます。恋人や友人の選択基準も、クスリを使うことを許容してくれる人に変わったり、仕事もクスリを手に入れるためのお金が瞬時に入る楽な仕事を選んだりするようになります。財産や健康よりも、クスリを優先するようにもなります。当然、付き合う人の顔ぶれも、以前とはがらりと変わります。その結果、かつてを知る人から見れば、ほとんど別人になってしまったように感じられることでしょう。

 もちろん、ときどきは「こんなことでいいのかな」と罪悪感を抱きますが、その罪悪感がまた余計にクスリに走らせてしまうわけです。薬物依存症になってしまうと、「惨めさ」や「情けなさ」という感覚を得た瞬間に、もうしらふではいられなくなってしまうんです。

――それは、物理的な作用によってクスリを使わずにはいられなくなるというより、「自尊心の低さ」が根っこにあることが問題ということなのでしょうか?

松本 そうですね。例えば、幼い頃に暴力や性的虐待を受けると、だんだんと自尊心が低くなってしまい「死にたい」とか「消えたい」という気持ちを常に抱えることになります。そういう感情を持つ人がクスリを使うと、その感情が消えて、普通の人みたいに生きていける瞬間があるんです。これが報酬となります。決して快感ではないですが、これまでずっと抱えていた苦痛を一時的に消してくれるという意味で、十分な報酬効果があります。

 こうした、ある意味特殊な成育歴を持った人だけではなく、「親からの期待に応えなきゃ」と表向きはいい子でやってきたけれど、その中で自分の本当の気持ちを抑えつけてきた人も、クスリを使ってみると気持ちが楽になり、初めて素の自分になった感じがすることもあります。これは、周囲からはうかがい知れないことですね。

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