コラム
[連載]悪女の履歴書

「佐世保小6女児同級生殺害事件」で隠された、加害者少女の“もう1つ”の特性とは

2016/04/05 21:00

■隠された「アスペルガー症候群」の病名

 審判要旨にはA子の認知、情報処理の特性について、公汎性発達障害に多く見られるものだとしながらも、「女児の特異性は軽度」であり、障がいと診断される程度には至らなかったことが明記されている。しかしA子は、家裁決定から半年後、公汎性発達障害の「アスペルガー症候群」だと診断されていたという。

 佐世保小六事件を長期にわたり取材したジャーナリスト・草薙厚子氏の『大人たちはなぜ、子どもたちの殺意に気づかなかったのか?』(イーストプレス)には、きぬ川学院に収容されたA子が「アスペルガー症候群」と診断されたこと、だが下された審判ではその診断がつけられなかったことの理由も記されていた。

 それによれば佐世保小6事件の前年、同じく長崎県で12歳の少年が4歳の男児を地上20メートルから突き落とすという事件が起こっている。そして加害少年がアスペルガー症候群と診断されたが、それが公表されたことで公汎性発達障害を持つ子どもたちが周りから偏見を持たれたり、間違った情報が一人歩きするなどして大きな問題となっていたのだ。そのため翌年に起こった佐世保小6事件では配慮がなされて、「アスペルガー症候群」という病名はあえて記さなかったという。

 発達障害とは、家族関係や生育歴は関係なく、心の病気や心因性疾患、精神病とも異なるものだ。生得的に脳の一部が未発達で、相手の感情が理解できないなどの他者への共感性、想像力の欠如がその特性だという。小中学生の6.5%が発達障害の可能性があるという調査結果もあるが、現在でも解明されていない部分が多い。もちろんこの障がいが犯罪と結びつくものではないが、さまざまな無理解や誤解により「アスペルガー症候群の子どもは犯罪者になりやすい」などといった偏見が流布されがちだ。

■現在も氾濫する「心の闇」

 しかし、こうした指摘は審判では明らかにされなかったA子の“もう1つ”の特性であることに間違いはなく、今後の少年犯罪を解明する上でも1つのヒントになるのではないか。というのもここ近年、少年犯罪は減り続けており、2014年には戦後最小となった。そんな中、動機が解明不能といった不可解な少年事件が数多いからだ。

 その代表格である神戸連続児童殺傷事件の元少年Aにしても発達障害が指摘されており、もしそうであるなら、ただ単に「反省していない。性的サディズムも矯正されていない」などと声高に叫んでも問題は解決することはないだろう。実際、こうした事件が起こるたび「心の闇」などといった言葉が氾濫し、さまざまなアプローチでその解明のための働きがなされている。

 遺族にとっても社会にとっても、究明すべき事件の“動機”や“背景”に踏み込むためにも、同様の事件を防止するためにも、さまざまな指摘を排除すべきではないだろう。そして矯正プログラムも、それに対応できるものにしなければ、社会復帰した後の加害者本人も、そして“なぜ子どもが殺されたのか”さえわからない遺族も苦しむことになる。

 貧困や非行などとは無関係と思える未成年による不可解な事件について、今後さらなる深い解明や矯正へのアプローチが求められる。
(取材・文/神林広恵)

最終更新:2019/05/21 18:51
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