カルチャー
『虫めづる姫君 堤中納言物語』平安人の息遣い、物語文学の魅力

「恋愛観や人間関係は変わらないから面白い」平安と現代女性をつなぐ『虫めづる姫君』の世界

2015/11/15 19:00

◎恋愛観や人間関係は現代も変わらないから面白い

『虫めづる姫君 堤中納言物語』(光文社)

 本書を訳す以前は、『堤中納言物語』の中では代表作である「虫めづる姫君」の印象が強かったが、「作者だけでなく文化や宗教観、風習や時代背景がわからなくても『なるほど』と思えることがこんなにもあるのか」と、ほかの物語からも感じたそうだ。日本語の古典の新訳は作家による創作の色が入ることが多いが、本書は訳者が原文の息遣いを現代に生かそうとしたもの。しかし、わかりやすいように用語の解説や別の解釈も注釈として入っており、またそれぞれの物語の後に蜂飼氏なりの着眼点や読み方がエッセイとして付されているのも楽しい。

 最後に、蜂飼氏は「国や地域によっては過去の言語が完全に失われてしまったところもある。古典を読み直すことができる日本の素晴らしさをあらためて感じる」と、古典を読める環境の貴重さを語った。古典には、現代にも通じる恋愛観や人間関係が凝縮されている。「『源氏物語』のような壮大な恋愛物語はどこから読んだらいいのか迷ってしまうが、とっつきやすい短編集である本書をまず手に取ってみて、古典が時を超えてこちらに語りかけてくる言葉や古人の息遣いを感じてほしい」と締めくくった。

 本書を読んでみると、これらは本当に約1000年前に書かれた物語なのかと疑いたくなる。新しい女ができたから、一緒に暮らしてきた妻との関係を絶とうとする男や、そんなだらしない男との結婚に気を揉む女の親。イケメンで仕事もできる男なのに、好きな姫からは手紙の返信が来ない様子は、現代のメールのそれと構図はたいして変わらない。

 学校の授業で学んだ古典と大きく違うと筆者が思ったのは、我々が社会人になり、ある程度恋をして複雑な人間関係を知った今だからこそ、「昔の人もこうだったんだ」と想いを巡らせられることだ。古典における身分の差は、現代で言えば仕事の役職や年収の差にも通じるところがある。自分と生活の質に差がある人と恋をすることには、さまざまな困難やハードルがつきまとう。蜂飼氏もイベントで語ったように、そんなふうにして自分の経験や現代の空気と照らし合わせて共感できる面白さが古典にはあるのだと再確認させられた。
(石狩ジュンコ)

最終更新:2015/11/16 12:47
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