カルチャー
[連載]マンガ・日本メイ作劇場第40回

「実は吸血鬼」「実は狼男」「実はペンギン」何度読んでも設定がわからない『純血+彼氏』

2015/09/21 16:00
『純血+彼氏(1)』(講談社)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女漫画史にさんぜんと輝く「迷」作を、ひもといていきます。

 吸血鬼ものは、少女漫画では鉄板である。『ポーの一族』(萩尾望都、小学館)に始まるそれは雨後にたけのこがボコボコいっぱい生えてくるように登場し、しかも適度に人気が出る。吸血鬼はアンニュイで、耽美で、ときどき暴力的で、そして自動的にアンチエイジング。女がみな死にたくないかは別として、できれば老いたくないとは思っているから、あくせくアンチエイジング活動しなくても老いない吸血鬼は魅力的なのだ。漫画家としても、吸血鬼の持つ、憂き世を生き続ける苦しみと孤独はおいしい。ウンウン悩んで主人公のジレンマや孤独な状況を考えなくても、「吸血鬼」っていうだけでOKなんだから、そりゃ絶好のモチーフだ。設定だけで、もう勝ったも同然なのである。

 『純血+彼氏』(講談社)もまた、吸血鬼のお話。主人公の架南は、幅跳びで高校に推薦入学したものの、けがで退部してしまった。今はソフトボール部、料理部、演劇部、園芸部、セパタクロー部を掛け持ちし、ソフトボールの試合中、代打で打ったら塁に出ずに次の部活へ向かい、料理部で試食だけしてまた次の部へ向かうような、せわしない生活を送っている。

 この時点でいろいろ突っ込みたい気持ちは満載だが、一番謎なのは、彼女の怪我の理由である。いざインターハイの選手選考というときに、架南が助走をしているコースの隣の倉庫でぼや騒ぎがあり、驚いた架南は転倒、運悪く靱帯を断裂してしまった。そのぼやを起こしたのは、不知火迅(しらぬいじん)という不良生徒。架南は「わたしの不注意だから気にしなくていいよ」と言って彼の謝罪と「付き合って」という告白、そして「守ってやる」という提案を断っている。

 「ぼや騒ぎ」って言ってるけれど、回想シーンを見てみると、倉庫の扉(?)が吹き飛び、破片が飛び散っている。……ねえねえそれって、ぼやって言うより爆発だよね……? 爆発に驚くのはもっともだが、それで転んで靱帯を切るって、どれだけ運動神経悪いのか準備運動不足なのか。不知火くん、架南の怪我はあなたのせいじゃないと思うよ本当に、と言いたくなる。ところで、爆発した倉庫にいたはずの不知火くんこそ怪我しなかったのだろうか。

 でもそれ以上にこの作品が難解なのは、そもそもの設定。架南には、子どもの頃からの知り合いであるアキという男性がいる。彼こそが、実は吸血鬼なのだ。そしてアキには「スティグマ」という悪魔の力が宿っている。このスティグマはキリスト教の7つの大罪同様、「傲慢」「憤怒」「嫉妬」「怠惰」「強欲」「暴食」「肉欲」の7種類ある。アキはもともと「傲慢」のスティグマを所有しているのだが、7つ全部集めると、世界を統べる力を持つことができ、「黒の救世主(ブラック・メシア)」になる。アキはこの力を手にして、「衿夜」という眠り続けている弟を復活させたいのだという。で、アキがこの7つのスティグマを集めることを「ゲェム」と呼ぶらしく、これがこの漫画の軸である(ところでこの「ゲェム」、途中から普通に「ゲーム」と呼ぶようになるんだけど、ゲェムだとカエルっぽいから変えたのかな)。

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