[連載]マンガ・日本メイ作劇場第39回

種明かしナシのマジックで事件解決!? ツッコミどころしかない推理少女マンガ『マジシャン』

2015/03/29 19:00
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『マジシャン(1)』(秋田書店)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史にさんぜんと輝く「迷」作を、ひもといていきます。

 今はあまり見かけないけど、昔は少女マンガ界にはホラーものが結構あった。「呪いのシリーズ」の曽祢まさことか、「りぼん」(集英社)でギャグマンガを描いてたのに、いつしかホラー作家になっちゃった坂東江利子とか、楳図かずおが「少女フレンド」(講談社)で連載していたこともある。

 中でも、恐らくアラフォー以上に最も人気があったのは、江戸川乱歩や横溝正史を原作とした『黒とかげ』『ドクターGの島』『血まみれ観音』(いずれも講談社)などを描いた高階良子でしょう。乱歩のあの湿った空気を見事に再現していて、東京タワーの蝋人形館や小人のじいさんといった薄気味悪いムードを漂よわせつつも、でもびっくりするような怖さ(美内すずえの『楊貴妃伝』みたいなさ)ではないから何度も読めるし、子どもの脳みそにがっちりいろんなものを植え込んでいった。乱歩を読むと、高階映像で再現されるよ。

 その高階先生が手がけた大長編が『マジシャン』(秋田書店)である。どんな話かというと、売れないマジックショップを経営している若い女が、外出するたびに殺人事件に巻き込まれて、たまに薬飲まされて気絶して危なくなるんだけど結局無事に帰ってくる話である。

 なぜその話のタイトルが『マジシャン』なのかというと、この若い女・由貴と同居している男・昌吾がマジシャンだからだ。そしてこのマジシャン・、昌吾がすごい。ラスベガスで活躍した天才マジシャンなんだけど、すっかり隠居して毎日家でお茶飲んでる。そして由貴が事件に巻き込まれると現場にやって来て、お得意のマジックで事件を解決し、またおうちに帰ってお茶をするのだ。というと老人みたいだけど、多分この人まだ20代。

 希代の天才マジシャンと謳われた昌吾だけに、持ってる技術がすごい。証拠の品を手品で入れ替えて犯人を陥れたり、マジックで荒野にヘリコプターを呼んだりする。それだけすごい技をたくさん見せてくれるのに、まったく種明かしがないのである。なのに「俺は魔法使いじゃないから、なんにもないところからものを出すなんてできない」と言っている。えー、でも事件現場では、結構魔法使いのようなイリュージョンを見せてますよね……。

 例えば、豪邸から子どもが誘拐される話がある。警察が大挙して見張っている中、子どもが忽然といなくなるのだ。乱歩や横溝に脳みそを犯されていると、「買ったばかりのソファの中に入れて家具屋が運んでいったんでしょ?」とか「じゅうたんにクルクル巻かれて持ち出されたんでしょ?」といったトリックが頭に浮かんでしょうがない。もちろんこの話のトリックはまた別物で、それが「なんとお屋敷に誰も知らない部屋が……!」っていう、綾辻行人もびっくりな展開なのだ。そして昌吾は、そのトリックを解説しながら、誰の協力も得てないっぽいのに、行方不明になってた子どもを、カーテンをバサッとやるだけでジャジャンと出すというマジックを見せる。当然、種明かしはされないのでモヤモヤしてしまう。

『マジシャン(1)(秋田文庫)』
一番の爆笑ポイントはMr.マリックが解説書いてるところ
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