[連載]マンガ・日本メイ作劇場第38回

覚せい剤で錯乱、監禁&抗議の絶食!! 『ベルばら』池田理代子の容赦ない学園ドラマとは?

2014/12/13 19:00
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『おにいさまへ… 1』(中央公論文庫)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史にさんぜんと輝く「迷」作を、ひもといていきます。

 突然だが私が通っていた高校は、偏差値が特に高くもなく、かといって九九がわからないほど低くもなく、特筆するような面白いことのない、平凡な女子校だった。

 そんな女子校では、クラスの女子につくあだ名も「黒毛ガニ」とか「ルパン三世」といったように、平凡である。「黒毛ガニ」は、その女子の肌が黒くて毛深かったから。人の身体的特徴を揶揄した容赦ないあだ名だ。その後美白と脱毛にいそしむ彼女の姿が容易に想像できる。「ルパン三世」は、その子の手足が細くて長かったから。本来、美しいであろう形状をした肢体にも、そんな見たままのあだ名がつけられていた。まあ平凡な子どもの知識なんて、そんなもん。知ってる人物なんかアニメや漫画のキャラ止まりである。

 という自分の体験から考えると、『おにいさまへ…』(集英社)の主人公・奈々子が入学した女子校のレベルは想像を絶するほど高級だ。

 まず、あこがれの先輩のあだ名は「サン・ジュスト様」。少女マンガでは人気のキャラなので知っている人も多いと思うが、ルイ・アントワーヌ・レオン・ド・サン=ジュスト様は、フランス革命時に死の大天使と恐れられた美青年だ。

 もう1人の、やはりかっこいい女子は「薫の君」というあだ名がついている。薫の君と聞くや否や、奈々子は「右大将 薫の君……!」と叫んでいて、彼女の知性の高さを伺わせる。薫の君は、『源氏物語』に登場する光源氏の息子だが、自分が高校1年生の頃にそんなキャラ名、知らなかったよ。ましてや右大将かどうかなんて判別できるはずもない。

 あだ名の付け方だけを見ても、この高校の知的レベルが知れるというもの。まずこの高校には、学校の精鋭部隊である「ソロリティ」という社交サークルがあり、入学するとまず先輩たちから、眉目秀麗、お血筋良好、勉学優秀な新入生がメンバーに選ばれる。このソロリティがこの物語の基幹を担っているのだが、『おにいさまへ…』がどんなお話なのか一言でいうと、「主人公が入学した女子校はメンヘラがいっぱいで大変でした」というものである。

 一体どんなメンヘラが揃っているのか。まずソロリティのメンバーのサン・ジュスト様は、精神安定剤、興奮剤、睡眠薬、増血剤に鎮痛剤を常備していて、タバコを吸い、覚醒剤をいっぱい飲んで錯乱して奈々子に襲いかかったりする。

『おにいさまへ…1(中公文庫 コミック版 い 1‐43)』
学園ドラマのお約束を破るのが理代子イズム
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