カルチャー
映画『がむしゃら』トークイベントレポート

自殺未遂の過去を持つ壮絶女子プロレスラー、リングで魅せる「死ぬから生きる」という生き方

2015/05/13 18:45
(C)MAXAM Inc.

 念願のプロレスデビューを果たした安川氏だが、今度は病気という試練が待ち構えている。バセドウ病、椎間板ヘルニア、幼少時代に発症して手術をした白内障は、演劇時代のトラブルで殴られ悪化。その目を覆うような衣装で彼女はリングに立っている。そんな“安川惡斗”は、リング上で一瞬一瞬をかみしめながら、全身全霊をかけてパフォーマンスしているように映る。その姿は、脆さと強さの両極の輝きを放っているのだ。

うかみ氏の「心をむき出しにしている惡斗さんの前で、嘘とかお世辞とかを言うのが恥ずかしくなる」という熱い言葉を受け、安川氏は照れ笑いを浮かべる。そして、「この映画と共に育っている」と語り、スクリーンに映し出される自分を俯瞰で見るたびに、さまざまなことを振り返り、考え、一歩ずつ前に進んでいるのだという。その1つに、親との関係性があるようだ。

 ともすれば、青森時代に安川氏が抱えていた問題は、ご両親の手により晴らすことができたのかもしれないが、当時「親が大変なことを知っていた」安川氏は、その不満をぶつけられず、年を重ねても、ご両親との間にわだかまりを抱えていたそうだ。しかしこの映画を通して、彼女自身が膿を出すことで、家族もまた、一歩前に踏み出すことができたのだという。

「この映画を、親にも見せることができたんです。この映画で救われた部分は強いです。家族の中で『腫れ物に触らないようにしよう』というのがなくなったのはよかった」

 いじめ、レイプ、自殺未遂、ケガ――あまりにも多くの出来事を背負い込み、けれどひたむきにリングに立ち続けている安川氏。その様子を「自分のしていることを信じられる自分でいたい」とうかみ氏が表するように、“安川惡斗”としてリングに立つときは、全ての過去を受け入れている覚悟が垣間見える。

 人の悩みの重さは測ることができないけれど、安川氏のように壮絶な人生を送っている女性は決して多くはないだろう。筆者ならば、と安川氏の人生に寄り添うと、想像しただけで不安と恐怖にのまれて身震いしてしまいそうだ。しかし彼女は、さらりとこう言う。

「自分を否定する、なかったことにするのはやめておこう」
「自分の人生に後悔していないんですよ」
「逆境バンザイ」

 恐らく安川氏は、この映画を鑑賞する人々が想像もつかないほどの生死の狭間を何度も経験しただろう。だからこそ、もうこれからは前を向くしかない、と感じるのかもしれない。「前を向くしかない」というのは、ごくありふれた言葉のように聞こえるが、髙原監督の「死ぬから生きる」という言葉どおり、映画を通して、崖っぷちを幾度もさまよった安川氏の人生を知ると、誰よりも説得力がある。トークイベントで見せた、過去を引き受けた上での安川氏のはにかむような笑顔が、非常に印象的であった。
(いしいのりえ)

映画『がむしゃら』公式サイト
シアター・イメージフォーラムほかで公開中!

最終更新:2015/06/01 21:04
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