[官能小説レビュー]

同性愛はファンタジーではない――レズビアンカップルの老後を描いた「燦雨」

hanagaran
『花伽藍』 (角川文庫)

 バラエティ番組に“オネエタレント”が頻繁に出演するようになり、以前は、もの珍しさを感じる人も少なくなかったが、最近では当たり前の光景になっている。それに、日本でも「LGBT」という言葉が浸透してきて、同性同士の婚姻も少しずつ認識されつつあるようだ。とは言いつつ、女性の間ではBL(ボーイズ・ラブ)と呼ばれるジャンルが安定した人気を誇るように、ノンケにとって同性愛者の恋愛は、一番身近に存在する“ファンタジー”である側面もいまだ根強い。

 十数年前に出会った中山可穂の短編集『花伽藍』(角川文庫)は衝撃的であった。5編の物語の核となるのは、女を愛する女たち。祭りで太鼓を叩くことに生きがいを感じている主人公と、美しい既婚者との刹那的な夏の物語をつづった「鶴」、交際していた女性と別れ話をした直後、妻子持ちの知人と偶然出会い、酒を交わしながら恋人との思い出を語る「七夕」、サラ金に追われた元夫に転がり込まれ、仲良くしていたレズビアンの義理の妹に会いに行く「花伽藍」など、どの作品も繊細で濃密な女性同士の恋愛が語られている。

 中でも筆者が最も強く心を揺さぶられたのが、「燦雨」である。物語の主人公は2人の老女。体の自由がきかなくなってしまったイツコを、ユキノは1人で介護している。

 2人が共に暮らし始めてから25年がたった。ユキノは、息子の芳之が通う学校の美術教師・イツコと出会い、絵のモデルをするために毎週末彼女のもとへ通ううち、次第に恋人関係りに。そしてユキノは夫と離婚して、イツコと事実上の“夫婦”となった。

 夫を捨て、同性の恋人との生活を選んだ母の元へ、芳之はたびたび顔を出す。年老いて、ボケ始めているかつての教師・イツコを見て、母であるユキノに、「いつまでこんな生活を続けるんだ」と苦言を呈するが、ユキノは死ぬまでイツコの元にい続けることを誓う――。

 最期のパートナーに同性を選んだユキノとイツコの終焉には涙を流さずにはいられない。現在はファンタジーの対象として見られる部分もあるLGBTの人々も、老人となり、介護が必要になる。誰しも漠然と抱いている老後の不安は、そうした人々も同じように持っているのである。

 メディアでは常に明るく毒舌を吐いているオネエタレントだが、まだ一般的には同性同士の結婚に対して偏見を持つ人もいるだろうし、同性カップルが手をつないで歩いているところを見れば、好奇の眼差しを向ける人もいるだろう。

 自分の恋愛に対して、勝手に嫌悪感を抱かれてしまう彼・彼女らの恋を貫くには、相当の覚悟が必要だと考える。笑顔の裏では、私が想像している以上につらく儚い恋に身を焦がしてきたのだろうと想像せざるを得ない。そして、この物語を執筆した中山可穂自身もレズビアンを公言している。

 彼女が今、どういった恋をしているのかと想像すると、胸がつまるような切なさを感じる。しかし同時に、彼女が描いたユキノという老女の強さを思い出し、あこがれと敬意を抱いてしまうのだ。
(いしいのりえ)

 

彼女たちはファンタジーの世界の住人じゃない

しぃちゃん



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