強姦被害者を黙らせる日本 女性を抑圧する社会ほど、強姦事件の認知件数が少ないことを示すデータ

先週は貧困女子高生叩き、今週は強姦被害者叩きと、どうしようもない状況が続いています。彼女たちの容姿などに言及したプライバシーなどを侵害するような酷いものばかりですが、共通しているのはどちらも被害者・当事者が女性であるということです。これが男性だったら年齢や容姿などで、ここまでバッシングされることもなかったのではないでしょうか?

当事者・被害者をバッシングする風潮が強い中で、彼ら・彼女らが声をあげることは非常に難しいものです。特に、レイプ事件に関しては、警察や医療関係者、第三者によるセカンドレイプも問題となっています(「なぜレイプ被害者が何もかもを失ってまで犯人を追い詰めなくてはならないのか。『涙のあとは乾く』」)。今回の事件でも被害者非難、被害者のプライバシーを無視するようなマスコミやネット民のあまりの酷さにも注目が集まりつつあるようです。

セカンドレイプの問題については、既にネットに複数の記事が上がっているのでそちらを読んでいただくとして、今回は日本がいかに「声を上げづらい」状況にあるかについて考察していきたいと思います。これまでも少し触れたことがありますが、日本はレイプや性犯罪について声が上げづらい国です。またジェンダーの平等性に関しては、大きく他の先進国から引き離されており、女性をめぐる様々な問題が「そもそも問題だと認識されていない」状況ともいえます。

◎日本は強姦事件の認知件数が少ない

今回は、国連が出している犯罪統計(UNODC Statistics Online)とOECDのジェンダー平等指数に関するデータと経済指標を用いて、各国と比較して日本で「レイプが認知されているかどうか」について考えてみたいと思います。

使用したデータに含まれているのは国名(分析にはデータが揃っている33カ国を使用)、一人当たりGDP(2000年代の平均)、差別的家族法制度(男女の最低結婚年齢の違いなど)の有無、女性の身体に対する抑圧(場合によっては男性が女性に手を挙げるのも仕方ないと思っている女性の比率など)、息子を好む比率、男女不平等なリソース分配(男女で相続制度が違うなど)、男女不平等な政治・市民権状況(女性議員比率の問題など)、男女賃金格差、強姦件数(10万人あたり)、全性犯罪件数(10万人あたり)、強盗件数(10万人あたり)です。

これらの指標はOECDが男女不平等指数として提示しているもので、高いほど女性に対する差別度数が高いことになります。

日本の状況を見てみましょう。

かなり単純化している数値であり、先進国といっても本当に様々なので、細かく検討していく必要はあります。少なくともこの数値からいえることは、平均値と比べても日本の男女不平等の状況は決して楽観できるものではない、という点です。また「強姦罪件数」「性犯罪件数」「暴行罪件数」については、「認知件数」なので、被害者が報告をするか現行犯でなければ「認知」されないので、泣き寝入りしたケースは全くカウントされていません。したがって「件数」と書くと紛らわしいので、以後「認知件数」と呼ぶことにします。

強姦など性暴力被害者がほとんどの場合、声を上げることができていない状況については国内外で研究報告が多数あります。強姦を含め、性暴力のほとんどは知人によるものであることから、被害者は周囲との関係性などに考慮して声を上げることをためらいます。そして、性暴力は被害者が社会的スティグマ(被害者が差別や非難の対象になる)を負わされ、警察や弁護士に相談しても立件が難しいため、泣き寝入りが多いのです。日本ではまだ具体的な研究報告がなく実態がわかりませんが、アメリカThe National Crime Victimization Surveyに基づいた報告では、実際に起こったレイプを含む性犯罪事件のうち33.6%しか警察に報告されていないと推計しています。

このグラフで目を引くのが他の国と比較した場合の日本の強姦認知件数の比率を他の罪と比べた場合の低さです。各国の平均値をみると強姦認知件数:その他の性犯罪認知件数:暴行事件認知件数の比率は0.04:0.15:0.81ですが、日本ではこの比率が0.027:0.17:0.80となっています。一見すると小さな差ですが、そもそも他の犯罪に比べて認知件数が少ない強姦事件の比率が3割も低いというのは、注意する必要があります。強姦認知件数と性犯罪認知件数の総数は日本の値も平均値もほぼ同数なので、日本では強姦事件は強制わいせつなど、その他の性犯罪にカウントされている可能性もあります。

しかし、強姦や性犯罪(痴漢や強制わいせつなど)は本当にこんなに少ないのでしょうか? 私自身も含め、家族、友人、知人など周囲にはレイプや痴漢に遭ったという女性が本当にたくさんいますが、彼らのほとんどは警察には報告しませんでした。「こんなの大したことないし」「恥ずかしいし」「いっても無駄だし」「言うほどのことでもないし」と、何もせず忘れることを選んだからです。

レイプ・性犯罪被害の体感値と、公的発表の認知件数の「数値」がこんなにも乖離していることを考えると、やはり問題は日本のみならず世界中で、強姦の多くがそもそも全く報告されていないことだと考えざるをえません。

◎男女不平等な社会が、強姦の告発を妨げている

続いて、それぞれの指数を強姦認知件数とともに見ていきましょう。

まず一人当たりGDPと強姦認知件数を見てみます。一人当たりGDP が高い国の方が(グラフの右に行けば行くほど)、そうでない国よりも強姦認知件数が高そうです(グラフの上に位置する)。日本は平均より低いので、ごちゃごちゃと固まっている左側の中にいます。

強姦認知件数と家族制度の関連を見ていくと、女性に対して差別的な家族制度(夫婦同姓などもその一つ)がある国ほど強姦認知件数は少なくなっています。強姦に遭った娘に「犬に噛まれたと思って忘れなさい」と親が諭すのは日本のドラマなどでも出てくるシーンですが、ジェンダーについて保守的な社会では、娘の強姦は「娘の恥」「家族の恥」と捉えられる傾向があるので、この結果もそれと重なるものだと言えます。

次に、強姦認知件数と女性の身体に対する抑圧の度合いの関連を見ていきます。興味深いことに、女性の身体に対する抑圧の度合いが高い国ほど、強姦認知件数が少ないように見えます。この「女性の身体に対する抑圧の度合い」というのは、「男性に暴力を振るわれても仕方ない状況がある」と考えている女性の比率、ドメスティックバイオレンスや性暴力・性犯罪に対する法整備の状況などから算出されている数値で、日本は各国平均値より2倍近く高い状況になっています。

たとえば日本では夫・恋人によるレイプを警察が「強姦事件」として扱うことはまずないでしょう。しかし、アメリカやカナダなど、より女性の身体への抑圧度の低い国では、たとえ夫・恋人であっても本人の同意無く行われたセックスはレイプとされます。また、セックスを合法的に行える「性的同意年齢」も16歳から20歳程度と日本より高く、この年齢に達していない子どもと成人がセックスをした場合、たとえ同意のもとであっても、成人側はレイプの罪に問われます。日本ではこの「同意の上でセックスをしてレイプに問われる年齢」は13歳と非常に低く設定されており、国際的にも問題視されています。

男女不平等な政治・市民状況は女性議員比率、女性の政治参加のためのクオータ制の有無などから算出されています。強姦認知件数との関連性を見てみると、やはり右下の方にはこの数値が高く、女性に対してより抑圧的な国が固まっています。女性の政治参加が低い国ほど強姦事件の認知率が低いようです。

男女賃金格差との関係は、他のものと比べてずっと分散が大きく、強姦認知件数との関連性は見えません。

性犯罪認知件数との関係性では、性犯罪認知件数が多い国ほど強姦認知件数も多いことがはっきりと伺えます。統計的にも非常に高いレベルで有意でした。ただし、何度も言うように、これが実際の性犯罪・強姦罪の発生値というわけではなく、認知件数であるため「いかに声を出しやすいか」ということでもあります。たとえば、日本では電車で痴漢に会うことなど日常茶飯事ですが、わざわざ警察に報告することは稀です。それを報告する(報告することを許す)社会なのかそうでないのかということは、このデータを読む上で重要な問題です。

一方、暴行事件との関連性を見てみると、性犯罪認知件数ほどではありませんが、暴行事件認知件数が多い国ほど強姦罪認知件数も多いということが伺えます。日本は一番左下のグループの中にいます。国の治安状況によって、暴行事件、強姦事件、性犯罪の認知件数が左右されるのは当たり前のことでもあります。暴行事件の認知件数が少ない日本で、性犯罪や強姦事件の認知件数が少なくなるのもうなずけます。

ただし、ここには出していませんが、暴行事件と男女不平等な政治・市民状況の関連性を見てみたところ、統計的にも有意なレベルで、男女不平等な政治・市民権状況のポイントが高いほど、また一人当たりGDPが高いほど暴行事件の認知件数が増えることが確認できました。男女不平等な政治・市民状況のポイントが高い国は、トルコやロシアなど男女かかわらず政治・市民状況(民主主義・人権問題)について抑圧的である国が多い点にも注意が必要です。男女不平等な政治・市民権状況のポイントが高いこと、政府がより強権的であること、一人当たりGDPが低いことは、暴行事件の認知件数を押し上げる一方、強姦事件の認知件数を押し下げているかもしれない点についてはさらなる考察が必要でしょう。いま現在の日本が当てはまらなくとも、今後この傾向に追随していく可能性も否定はできません。

◎被害者が声を上げられる社会を

今回の分析は細かいことを考慮せず、全てを単純化して分析したものなので、これだけでは何も断定することはできません。しかし、単純化してデータを比較するだけでも「強姦事件認知件数を押し下げている原因=強姦事件の被害者が声を上げにくい状況」について、ある程度の仮説を立てることができました。

強姦・レイプの主なターゲットは女性です。彼女たちの肉体のみならず、「レイプされる側が悪い」「レイプを訴えることは恥」「訴えても警察が何もしない」などといった社会的抑圧や被害者自身が「大したことない。忘れたい」と考えなければならない状況は、彼女たちの人格・人生までも破壊するものです。レイプ・強姦を撲滅するには、まずは被害者が声を上げられる環境を、政府や社会が中心になって作っていくしかないのではないでしょうか?

参考文献
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小西吉呂,名嘉幸一,和氣則江,石津宏和(2000).大学生の性被害に関する調査報告―警察への通報および求められる援助の分析を中心に―,こころの健康,15(2);62-71.
笹川真紀子,小西聖子,安藤久美子ほか(1998).日本の成人女性における性的被害調査,犯罪学雑誌,64:202-212.
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Baumer, Eric.(2004). Temporal variation in the likelihood of police notification by victims of rapes, 1973–2000, Washington, DC: National Institute of Justice.
Truman, JenniferL, Langton, Lynn, BJS Statisticians (2015). Criminal Victimization, 2014, U.S. Department of Justice, Office of Justice Programs, Bureau of Justice Statistics. http://www.bjs.gov/content/pub/pdf/cv14.pdf

分析に用いたすべてのデータはOECD.StatおよびUnited Nations Office On Drugs and Crime (UNODC) Statistics Onlineより取得しました。

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