[官能小説レビュー]

女の『楽園』とは? 40歳前後の女が、あらためてセックスに翻弄される理由

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『楽園』(中央公論新社)

■今回の官能小説
『楽園』(花房観音、中央公論新社)

 初めてセックスをした頃は、セックスというものは若い女だけが行う行為だと思いがちである。男に“悦んでもらう行為”こそがセックスだと思い込み、であれば、若く弾ける肉体をさらけ出した方がいいだろうと考えるからだ。しかし歳を重ねるたびに、セックスはもっと奥深いものだと気づく。男が女を楽しむという男性主導の行為ではなく、お互いが快楽を追い求め、女の方が男を支配するセックスの形もあると知るのだ。

 しかし、やはり“加齢”には強いしがらみを感じてしまうのではないだろうか。男に悦んでもらうだけがセックスではないことを知ったのに、「女として見られなくなる」「私は一体いつまで女でいられるのだろう」という不安が、再び「男に悦んでもらいたい」という心を揺さぶるのである。

 誰しも、歳を重ねれば、衰える。以前のような肌のハリはなくなり、体のラインは緩くなり、顔にはシワが刻まれる。そんな自分と対峙し、自らの性に混乱した時、あらためて「男から女として見られたい」「まだ女をあきらめられない」という願望が生まれるのではないだろうか。

 今回ご紹介する『楽園』(中央公論新社)も、年を重ねた女たちが、あらためて自分の中の女と向かい合うという作品だ。京都の花街の跡地に建てられたアパート「楽園ハイツ」には、6人の女たちが住んでいる。そのうち5人は30代後半から40代だ。

 物語は、「楽園ハイツ」の住人である1人の女の変貌から始まる。45歳の子持ちの専業主婦・みつ子は、事故で夫を亡くした後、地味だったにもかかわらず、女子高生と見紛うほどの派手な服を身につけるようになる。そんなみつ子を嘲笑したり、訝しがるアパートの住人たち。彼女たちもまた、みつ子と同じように、己の性に翻弄されていた。

 パート勤めの主婦・朝乃は47歳。2人の子どもは独立し、夫と2人暮らし。生活を切り詰めていても、パワーストーンで身を飾り、自分は幸福だと言い聞かせている。夫が単身赴任中のマキは38歳。100円均一ショップでパートをし、パチンコ店でアルバイトとして働いている若い男と不倫関係にある。薬剤師の蘭子は42歳。バツイチの独身で、容姿には恵まれているけれど、特定の男はいない。結婚当時、夫に「お前はセックスが下手だ」と言われたことがトラウマになり、セックスに対して臆病になっている。伊佐子、44 歳。リストラされた夫とは略奪愛の末に結婚した。かつて花街で働いていた経験があり、セックスを渇望する自分と向き合い、思い悩んでいる。そしてみつ子と、その娘の芽衣奈17 歳がこの「楽園ハイツ」の住人だ。そんな彼女たちの物語は、「楽園ハイツ」の管理人である顔に大きな傷を持つ老婆と、1階の小さなカフェの男性店長・鏡林吾を軸に進行する。

 「楽園ハイツ」の女たちを見ていると、女にとっての幸せのあるべき姿とはなんだろうと思う。若い頃は、男と結婚をし、子を産み、1人の男だけを愛して、ともに生涯を終えることが幸せで、それが当然の姿だと疑わなかった。しかし年を重ねるたびに、当然のごとくほころびがでてきて、その幸せの姿に、ふつふつと疑問が沸いてくるものだ。

 そして同時に、なぜセックスに向き合うようになるのかといえば、冒頭で挙げた体の衰えとともに、セックスの本来の目的である「子どもを産む」ことに限界を迎えることが関係しているのではないだろうか。特に「楽園ハイツ」の女たちのような40前後の女は、セックスが子どもを産むための行為ではなくなっていく年頃であり、とすると、自然とセックスや男と関わる理由をあらためて問いたくなるのだろう。

 『楽園』の冒頭に記されている旧約聖書の一文「女は子を産む苦しみが与えられ、苦労して地を耕さなければ食料を得ることができなくなった」は、楽園を追放されたアダムとイヴの話である。この作品を読むと、男と結婚し、子を産み、1人の男だけを愛そうなどという、無垢な思いのままでい続けなければいけない楽園は、本当に楽園なのだろうかという気になってくる。筆者自身、どんな形であれ、自分は女だという実感を得て、体も心も悦びでむせび泣くことができるセックスこそが幸せなのだ、と感じ入ってしまった。

 汚れ、傷つき、這いずり回って勝ち取る楽園こそが、真の楽園と、本書は訴えていると思う。ぬるま湯に浸かり、「自分は楽園にいる」と言い聞かせている女へのアンチテーゼとなる1冊なのかもしれない。
(いしいのりえ)

そして閉経を迎えた後、女はどうなっていくのかしら?

しぃちゃん

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