[官能小説レビュー]

女と不倫をする主婦の物語――『深爪』の描く女同士のセックスは純粋なのか

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『深爪』(集英社)

■今回の官能小説
『深爪』(中山可穂、集英社)

 最愛の妻を寝取られた時、夫はそのやるせない気持ちにどう折り合いをつけるのだろうか。腹いせに、妻がそうしたように自分もほかの女と寝るかもしれないし、逆に妻の浮気がカンフル剤となって夫婦の絆がより深まるかもしれない。

 もし修復不可能な夫婦間であれば、離婚という道もあるだろう。不貞を働いた妻に反撃をしないと気持ちが落ち着かないという場合、離婚のための裁判をしつこく長引かせるのも1つの手だ。そうすることで、妻からも徹底的に嫌われれば、あきらめもつくというものだ。

 このように、パートナーの不貞行為は、女だけでなく男にとっても苦しいことである。中には、相手にとって、自分より勝る異性が現れてしまった時は、あきらめる以外に方法はないと考える人もいるだろう。しかし、妻の浮気相手が女だった場合、夫はやるせない気持ちの着地点をどこに置くのか。今までごく普通に愛しあっていた妻が、性愛の対象として「女」を連れてきたとしたら?

 今回ご紹介する『深爪』(集英社)は、バイセクシャルで人妻、子持ちの吹雪の物語だ。吹雪には、なつめという女の恋人がいる。“主婦キラー”と呼ばれているなつめとの逢瀬は、吹雪の自宅。彼女の子どもが昼寝をしている時間帯に、旦那の清と寝ている部屋で体を重ねている。

 吹雪は、清と結婚する前からバイセクシャルだった。その事実を伝え、「男と浮気しなくても女遊びはする」と宣言し、清もそれを容認していた。

 吹雪は次第に、女同士のセックスの方が良くなり、清とのセックスを避けるようになる。清と体を重ねることは減り、それでも清に激しく求められると、彼女は手と口を使って清を慰めた。その行為は、ますます2人の間に溝を作る。

 その裏で吹雪となつめの関係は深まってゆくが、口論しては抱き合い、再び喧嘩をするといった激情に身を任せるような付き合いは限界を迎え破局。しかし、吹雪はまた別の女性に心惹かれるようになる。それは詩人でトラック運転手、どこかユニセックスな雰囲気を醸し出している笙子。結果、吹雪は家庭を捨てて笙子についていくことにするのだが……。

 筆者は女だが、なんとも不遇な状況にいる清に感情移入してしまった。目の前に、吹雪の浮気相手として笙子が現れた時の清の気持ちを想像すると、居た堪れない気持ちになる。これほどの修羅場など存在しないだろうとさえ思った。妻の吹雪の腹に、愛息を宿したという、清にとっての男としてのプライドは、妻と同性の浮気相手の出現で、いとも簡単に崩されたのだから。

 妻が女と浮気をするということは、男が持つ「女性を妊娠させられる」という能力を否定されることなのではないだろうか。そう考えると、男にとってこれほど屈辱的なことはない。

 しかし一方で、『深爪』で描かれた同性愛者同士の恋愛を、純粋で美しいものと感じてしまった。この本のタイトル『深爪』とは、まさに女同士のセックスと深い愛情を意味する言葉である。男女のセックスとは異なり、性器を「挿れる」ことができない彼女たちは、代用として指を使う。恋人を傷つけないよう、行為の前に短く爪を切るという意味での『深爪』なのだ。そこには、互いのことを深く思いやるという関係性が見えくる。

 自分の夫を傷つけてまで、吹雪が女同士の恋愛に走ったのは、そんな女同士の関係性がゆえなのかもしれない。生殖という本能が発揮されない分、より強く心が惹かれ合う性愛――吹雪が激情を抱いてしまった理由がなんとなくわかるような気がした。
(いしいのりえ)

夫の苦労ぶりは、レディコミでもないレベル!!

しぃちゃん

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