ドルショック竹下の「暴走リビドー綺譚」

メガネが究極の性感帯……「性の奈落」に陥った女の自己卑下という闇

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(C)ドルショック竹下

 いまや日本女性の間で市民権を得た感のある”メガネ男子萌え”。メガネ君の良さについては「知的でクールなところにゾクッとしちゃう☆」「ウブで経験少なそう。教えてあげたくなる^^」「ちょいオタクなところに萌え~o(≧▽≦)o」などと様々な意見が想定されるが、彼女ほどメガネに愛憎をぶつけ、メガネによって身を持ち崩した女が果たして他にいるだろうか。

 サービス業の佳苗は32歳。普段はホスピタリティ溢れる接客で評判の彼女だが、心には暗く澱んだ性の奈落を抱えている――メガネである。「真面目そう」「堅そう」という一般的にメガネをかけた男性が期待されるイメージを、彼女は期待していない。オタクっぽいのがいいというわけでもないし、かといってファッションでメガネをかける男性も違う。伊達メガネはもってのほか。そう、彼女は純粋に「弱視」の男に興奮するのだった。

 メガネをひとつの性感帯と捉えるようになったのは20歳の頃。初めてセルフレームのメガネを作り、その足で友人の家へ遊びに行った。部屋へ通され、雑談をしていると突然、友人の飼っているインコが佳苗の肩に飛び乗ってくる。「何だろう?」と思っているとインコはすかさず、彼女の新しいメガネのフレームをくちばしで噛み始めたのだ。カチ、カチという、フレームを通して伝わる振動。その硬いくちばしで、買ったばかりのメガネを傷つけられたら……彼女は不安と同時に、甘美な感情に襲われた。こんなにも危うげなものを身に着けて、人は働き、暮らしているのだ。どんなに格好良く、どんなに仕事が出来て、どんなに遊び慣れた男でも、メガネを奪われればひとたまりもない。メガネは、視認できる最大の弱点なのだ。

 それから彼女のメガネ男遍歴がスタートした。プレイボーイのDJ、オフ会で知り合った元読者モデル、イケメンの広告マン、挿入時だけメガネをかける大手マスコミ社員……どの男も普通以上に遊び人だったが、そんなことは意に介さなかった。メガネという弱点を持っている以上、恐れるに値しない男だ。ひとたびベッドに入り、メガネを口に含めば男たちは皆、すがるような目で彼女を見た。それが自分の弱点と知ってか知らずか、フレームを噛まれ恍惚とした。彼女にとって、彼らの茶色や黒のフレームは媚薬効果をもたらすチョコレートのようなものとなった。

 また、彼女は同時に既婚者の男に手を出すようになっていた。高校デビュー以前の地味だった自分……登校拒否にもなり、当時隆盛を極めていた伝言ダイヤルに電話をかけては、他人が吐き出した性癖や秘密を聞いて、ほくそ笑む毎日。そんな、サエないどころか軽くヤバい自分が、家庭のある”リア充”な男に求められている。その陰では、自分の幸せに疑いのない妻が貶められている――自分ごときの女に、価値を傷つけられている。嫌悪感と表裏一体の優越感。

「いい気味だ」

 巨乳でロリっぽい顔立ち、初対面の人とでもすぐに仲良くなれるコミュニケーション力と愛嬌を持っているにも関わらず、自己評価が著しく低かった彼女は、もはや”メガネで既婚”という、自分が完全に見下せる男に対してしか興奮できなくなっていた。

 20代も終わりを迎えようとしていたある時、佳苗は運命の男に出会う。CMプランナーの男。彼もまた、メガネの既婚者だった。他の男と違っていたことと言えば、愛情表現が大げさなことで、佳苗の気を惹くために「妻と別れるから一緒になってくれ」とさえ言った。常識的に考えれば、こんな言葉は誠意のない男の放つ常套句。だが、これまで相手の弱みにつけ込んだ恋愛しかせず、そんな言葉を言われたことがなかった彼女は、簡単にこれを信じてしまった。時折、正気が頭をもたげ男に別れを切り出すが、「君の奴隷になるから信じてくれ。君のおしっこを飲ませてください!」などと返答され、更にセックスを盛り上げるスパイスにしかならなかった。ずるずると逢瀬を重ねて数年、彼女に届いたのは幸せへの片道切符などではなく、男の妻からの訴状だった。

 妻が慰謝料を求めたのは佳苗ひとり。妻との別れをほのめかし、彼女を翻弄した男はお咎めなしだった。当初は納得が行かなかった彼女だが、全額払い終えるまで15年余、毎月一万円ずつ妻の口座に振り込むことにした。それは自分の過ちを忘れないためであると同時に、自分の夫が裏切ろうとしたことを妻に忘れさせないためでもある。

 裁判から1年ほど経った先日、彼女は久々に男性と一夜を共にした。友人の紹介で出会った、メガネはかけているものの、妻はいない男だ。ホテルの部屋で彼がシャワーを浴びている間、彼のかけていた黒縁のメガネをそっと手に取り、かけてみる。その先に見えた世界は、これまでとは違う温かい情愛のこもったものだろうか。それとも……。

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