[連載]ドルショック竹下の「ヤリきれない話」

我々は本当にSMを知っているのか? 日本で5本の指に入るM男との”一戦”

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(C) ドルショック竹下

 世の中にSを自称する男性は多い。合コンはおろかテレビのバラエティー番組でさえ「あいつドSだから」「アタシMなんですぅ~」という発言が飛び交う現状に、いつから日本はこんな乱れた国になってしまったのだと溜め息をつくこともしばしばだ。だが、それ以上に私が憂えているのは、世間で認識されるSとMという属性が、実際のそれとは大幅に違っていることである。

***

 その紳士とは、取材で行ったハプニングバーで出会った。クラブ風の店内。広いバーカウンターの一番奥で、彼はロックグラスを傾けていた。黒い本革のマスクに覆われた顔からは、一切の表情を窺うことはできない。鋲付きの革ベルトでできたボンデージ衣装からのぞく身体つき、肌の質感から、60歳前後の「ベテラン」であると分かる。7~8年前の当時、新宿でもカジュアルな部類であったそのハプニングバーで、どう見てもガチのSM愛好者である彼は浮きに浮きまくっていた。なんとしてでもネタを持って帰りたい私は、迷わず彼に話しかけた。すると、彼は驚愕の経歴を語り始めたのだ。

「私、日本で5本の指に入るM男なんですよ」

 彼、黒革の紳士は40年以上前にSMの道に入ったかなりの古参で、その世界ではちょっとした有名人。雑誌「SMスナイパー」の『M男列伝』なる連載でも紹介されたことがあり、日本で唯一、立って歩く「お馬さんごっこ」ができるのが自慢らしい。男の自慢話というと大抵どことなく腹立たしいものだが、柔らかく訥々とした語り口は不思議と微笑ましく、普段からの紳士ぶりが推し測れるものだった。

「よかったらいかがですか?」

 その頃、体重が70kgを超え、自他共に認める「ややポチャ」だった私。こんな私が乗ってしまったらこの爺さん、頚椎イッちゃうんじゃなかろうか……。不安を抱きながらも首にまたがり体重を預けると、紳士はいとも簡単に立ち上がり、いわゆる「肩ぐるま」の状態で店内を周遊し始めた。天井近くから見渡すハプバーは、人間の欲望までもがより小さく滑稽に見え、優越感そのもの。子どものように無邪気に楽しんだ私は、紳士ともすっかり打ち解けることができた。今度は、私が誘う番だ。

「一緒にプレイルーム行きません? SMって何なのか、教えて欲しいんです」

 その店では、意気投合した男女はコトを致すためにプレイルームが用意されていた。完全な個室ではなく、マジックミラーもついているが、それゆえ人目もあって安心というわけである。
 ややガランとした雰囲気の一室で、身体を横たえる私。紳士の「貴女はSですか、Mですか?」との問いに「どちらかというとMかと……」と答えると、紳士は即座に私の乳首を捻じり上げてきた。

「イッ、イデデ!」

 思わず間抜けな声が出るほどの痛み。刺激の後から甘美な快感が訪れることもない、ただただシャープな痛みである。ふと彼を見ると、マスク越しの目はひとつの躊躇をも含んでいない。背筋が冷たくなる。たたみかけるように、乳首を噛み始める紳士。「甘噛みがまた、イイんだよねぇ~」などと女友達相手にドヤ顔をしていた過去の自分を叱りつけたい衝動に駆られつつ、歯を食いしばって耐えていると紳士が一言。

「貴女も乳首をつまみなさい……!」

 もはや命令だか懇願だか分からないが、とにかく言うとおりにして、度重なるプレイで伸びてしまったと思われる紳士の乳首をつまむ。強く、もっと強く……言われるままに指先に力を込めるが、比例してこっちの乳首まで強く捻じり上げられる。限界だ。これ以上やったら、乳首が取れてしまう……! 私は振り絞るように、挿入してくれるよう頼んだ。そして私は見たのだ。紳士の股間にある、黒々としたアレを――。

 そう。紳士はM男だった。哀しいほどに、M男だったのだ。彼が穿いていた黒革製の穴あきパンツからは御神木が突き出てはいたが、その御神木、あろうことか黒のコンドームが2枚も重ねて装着されていたのだ。これでは元の色や海綿体の微妙な凹凸はおろか、体温すらも感じることができない。しかも紳士は還暦を迎えようという年頃で、イマイチ芯が入り切っていない。これでは絶頂に達することすら難しい……。

 不運とは重なるもので、振るわない御神木で必死にオーガズムを得ようとあがいていると、プレイルームに見知らぬ男が侵入してきた。そして私の了承を得ることなく勝手に乳を揉み始め、自らの粗末なイチモツを「舐めろ」とばかりに向けてきたのである。ギンギンに勃起しているならともかく、ぶらり、と途中下車ばりにリラックスした状態で。さすがの私もこれにはキレて、「出てってくれます!?」と男に言い放った。男はヘラヘラしながらプレイルームを出ていったが、残された我々ふたりも、なんとなく気がそがれ試合終了となった。

 シャワーを浴び、着替えてバーカウンターに戻ると、品のいい初老の男性が手招きをしていた。生地も仕立ても一目で上質と分かるグレンチェックのスーツ、ロマンスグレー、柔和な笑顔……黒革の紳士である。

「私が20歳代の頃はこんな店は当然、ありませんでね」

 ネットもない時代。やっと探し当てた秘密倶楽部で、数少ない同好の士と情報交換し合う日々。当然SMグッズの店もないので、海外の写真を元にボンデージを自作したり、アメリカでカウボーイのムチを買ってきてプレイ用にリメークしたという。その腕を買われて、今でも女王様からコスチュームの製作を頼まれるとか。

 グラスの氷を転がしながら語る彼に、私は改めて「こんな人とセックスをしていたのか」と思い知らされた。彼はSMに人生を賭けている。私はいちいち不満に思っていたが、おそらく真のMにとっては乳首が捻じり上げられ、千切れそうになる痛みと恐怖こそ快感であり、そう簡単に挿入による快楽が得られないもどかしさや、見知らぬ男に蹂躙される屈辱こそが甘美なのだ。それはまさしく「変態性癖」であって、合コンなんかで表明できるほど生半可なものではない。彼は家族にも知られないよう、会社内の自らの部屋に一切のSM道具を隠しているのだという。経済力も社会的地位もすべてはSMのため。

 甘かった……。私は大した覚悟もなく「どちらかというとM」などと発言した自分のヌルさを恥じた。以来、飲みの席で「わたしMなんですぅ~」などと吐く女を見るたびに思うようになった。「じゃあゴム2枚重ねでヤッてろよ」と。

ドルショック竹下(どるしょっく・たけした)
体験漫画家。『エロス番外地』(「漫画実話ナックルズ」/ミリオン出版)、『おとなり裁判ショー!!』(「ご近所スキャンダル」/竹書房)好評連載中。近著に「セックス・ダイエット」(ミリオン出版)。

『SかMか 体の闇がわかる本』

鬼六センセーがSM語っておられます。鬼六!

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