暮らし
白央篤司の「食本書評」

50代、体の変化を自覚した上でどう食べていく? 魅力あふれる「加齢対応食の本」と日本全国の「お雑煮レシピ本」

2022/12/10 18:00
白央篤司(フードライター)

『日本全国お雑煮レシピ』(池田書店 1300円)2022年11月14日発行

 お雑煮本の決定版である。

 とにかく熱量がすごいのだ。著者の粕谷浩子さんがひたすらに現地を歩いて証言を集め、できるかぎり作り方や食材をその目で見て、触って、味わって得られた知見がぎゅうぎゅうに詰まっている。なんせ粕谷さん、気になると止まらない。お雑煮のみならず、その出汁となるエビやトビウオなどの漁場や加工場にまで足をのばして取材される。雑煮の主役ともいえる餅に関して「できるまでの過程について全然知らない」と思えば、農家さんに連絡してお願いし、もち米づくり体験までしてしまうのだ。全国70種類の雑煮がレシピと共に紹介されるが、そういったサブストーリーを描いたコラムが充実、読んでいて引き込まれる。

 「こんなお雑煮があるんだ!」というシンプルな発見の楽しさは言うに及ばず。私も知らないものがたくさんあった。茨城の旧・里美村の豆腐雑煮や埼玉・戸田のきんぴらごぼう雑煮、福岡・鐘崎漁港あたりに伝わるというぶり串刺し雑煮などは特に驚かされた。直接現地に赴いて話を聞いてみたくてたまらなくなる。

 粕谷さんは雑煮取材の折、早い時間を狙って各地の銭湯や温泉に行くという。「ご高齢の女子たちがたくさん集って」いて、「おひとりに声をかけるだけで、周囲で浸かっていらっしゃる方々も、『ウチもそうだわ』『ウチはこんな雑煮だったね』『嫁いだときに驚いたんだけどね…』なんて口々に語ってくださる」そう。この取材方法は私には出来ない。くやしい。また雑煮話から家族の思い出話に広がることも多いようで、料理を入り口に人生まで伺えてしまう面白さが「何年もお雑煮取材を続けている理由」かもしれない、とも書かれる。粕谷さんはこういう展開がとても「心地よい」と表現されていた。

 お雑煮はざっくりと地域のスタイルが決まっている中で、家族の好き嫌いにも左右され、結婚によるハイブリッドもあり、完全に分類はできない「いいかげん」なところがあって面白い、というのにも納得する。そう、「うちのお雑煮なんてごく普通のもので」と多くの人が思いがちだが、我が家の味はすべてがオンリーワンなのである。作る人がいなくなったら、もう二度と作れない味。愛着を感じている人は、今年のお正月にでもぜひ作り方を習ってみてほしい。

白央篤司(フードライター)

フードライター。「暮らしと食」をテーマに執筆する。ライフワークのひとつが日本各地の郷土食やローカルフードの研究。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『自炊力』(光文社新書)など。

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Instagram:@hakuo416

最終更新:2022/12/10 18:00
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