白央篤司の「食本書評」

50代、体の変化を自覚した上でどう食べていく? 魅力あふれる「加齢対応食の本」と日本全国の「お雑煮レシピ本」

2022/12/10 18:00
白央篤司(フードライター)

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介! 

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激推しの書(写真:サイゾーウーマン)

 食本書評、今回は2冊をご紹介する。料理だけでなく、様々な世代やライフスタイルに即した食生活を提案する上田淳子氏の新刊と、お雑煮の深く豊かな世界に迫るルポタージュ&レシピブック。どちらも白央の下半期激推しの書である。

『55歳からの新しい食卓』上田淳子

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『55歳からの新しい食卓』(学研プラス 1600円)2022年9月29日発行

 こういう本を待っていた。

 「55歳から」とあるが、40代の方にも強くおすすめしたい。人によって差はあろうが、中高年になってくると少なからず「若い頃は好きだったのに胃がもたれる」とか「硬いものが食べにくい」など、食と加齢に関して気になることがあると思う。老いを認めるのはシャクだけれど、無理すると体に悪いことこの上ない。胃腸や歯をムダに痛める原因にもなり、結局は体の劣化を早めることにも繋がる。

 脂っこいものが苦手になってきた、噛みにくいものが増えた、ヘルシーなものは味気なくてさびしい、あるいは気力が落ちて料理が面倒くさくなった……などなど、中高年が抱えがちな食の悩みにどう対応していくか、というのが本書のコンセプトである。軸となるのは「なおかつおいしく、楽しく食べる」という熱い思い。「加齢対応食の本」なんて書いてしまうといかにも味気ないが、本書に出てくる料理はどれもパッと見からおいしそうで、作ってみたくなる魅力にあふれている。まずそこがいい。

 著者の上田淳子さんはヨーロッパで3年ほど修行されてから料理研究家になられた人。自身も大の食いしん坊だが、50代に入って「気持ちは食べたいのに、体はそうはいかない」というジレンマを覚えた。おいしいものを諦めたくない、という信念のもと「変化を自覚した上でどう食べていく?」を研究する。

 フランス料理における「エチュベ(蒸し煮)」は素材を柔らかくさっぱりと仕上げ、量もとれるおすすめの技法で、本書で何度も出てくる。鶏むね肉などをパサつかせない「塩糖水」を使ったレシピなど、初耳の人も多いだろう。「加齢に応じた食べやすさ追求テク」を覚えるというより、純粋に調理の幅が広がっていくワクワク感を得られるのもいい。

 「以前よりも食べる量が減ったとはいえ、洋食などのこってり味のおかずもいまだに好き」、中華だって「まだまだおいしく食べたい!」といったことがテーマの章もある。このへんがいかにもアラフィフ向きで、現実的だ。あっさりも必要なんだけど、濃いものやガツンとくる味だってまだ恋しいんだよね。じゃあどう作るか、どう食べ切っていくかという視点に立った提案がリアルで、役立つアドバイスにあふれている。個人的には定番醤油味以外の煮魚レシピがありがたかった。「ぶりの梅煮」「さけの塩レモン煮」は我が家の定番になりつつある。