連載]白央篤司の「食本書評」

アク抜きしない、ぎゅうぎゅう絞らない、レンチンでOK! “昔の常識”を打ち破る、瀬尾幸子『素材がわかる料理帖』レシピ

2020/07/11 17:00
白央篤司(はくおう・あつし)

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『素材がわかる料理帖 瀬尾幸子の簡単レシピ全114品』瀬尾幸子 著、暮しの手帖社

『素材がわかる料理帖 瀬尾幸子の簡単レシピ全114品』瀬尾幸子 著、暮しの手帖社(税別1,227円、2019年10月11日発行)

 なんて役に立つ本だろう。

 仕事柄料理本はたくさん読むけれど、ここ1年で買った料理本の中で、最も手に取る回数の多い本なんである。ひとことで言えば、調理に関して自分を思いっきりアップデートしてくれる本。料理慣れしている人、そしてこれから料理を始めようというビギナーの方々、どちらにも強くおすすめしたい。

 著者の瀬尾幸子さんは、テレビや雑誌で名前を見ない日はないほどの人気料理研究家だ。わかりやすく、誰からも愛される家庭的な味わいに定評がある。本書は前半が「野菜を生かすコツとレシピ」、後半が「肉・玉子・魚・大豆製品を生かすコツとレシピ」という2部構成になっている。

 “この本は、「この素材はこう調理するとおいしい」というコツをまず頭に入れてもらったうえで、料理に取りかかれるような作りにしました”(はじめに)

 まず各素材に関する基本的な説明が語りかけるようになされるが、この口調が実に親しみやすい。トップバッターはほうれんそう草と小松菜。あえて青菜2種を一緒に紹介することで、似たようなものでも、同じように扱っていいところ、違うところ、その差がよくわかる。

「(ほうれん草は)品種改良によって、めっきりアクが少なくなりました。だから昔は常識だったアク抜きが、今はいらなくなっているの。野菜の変化に合わせて、常識も見直さなくちゃいけないんです」

 多くの「見直し提案」が本書ではなされる。料理しながら「昔はこう習ったけど、本当に必要かな?」と思ってしまうこと、ありませんか。青菜のページは印象的な提案が特に多く、ゆで塩は不要であること、ゆでた後はギュウギュウしぼらないことなど、驚かれる人も多いはず。その理由も明確で、読んでいてストンと腑に落ちる。その感覚がとても、気持ちいい。古い垢がどんどん落とされていくようで。

小松菜と豚肉の梅酢みそ和え。小松菜はギュッと絞らないでOK

 青菜のページから1品作ってみた。

 「小松菜と豚肉の梅酢みそ和え」、さっぱりした梅みそダレがなんともさわやかで、豚しゃぶと小松菜がいくらでも食べられる感じ。夏にぴったりだ。ギュウッとしぼらない小松菜、水っぽくなるのではと正直心配だったが、ふくよかな食感に驚く。今まで、無駄に菜っ葉の味を損ねていたのだな。また、ゆで青菜の冷凍保存のコツもぜひ知ってほしいポイント。

 最後に鍋レシピが紹介されるのは、なかなか食材を使い切れない人にとってありがたい構成だと思う。そう、所々でよく練られた構成の妙を感じる。そして先も書いたが、瀬尾さんの口調が終始とっつきやすい。教えられているんだけど、口うるさくない(笑)。そこが、ありがたい。