カルチャー
ライター・杉山春氏×精神科医・松本俊彦氏対談(前編)

身近な者の自死に「怒り」を抱くときーー遺族の心情をどう受け止めるか【杉山春×松本俊彦対談】

2017/10/13 15:00

 ――杉山さんの著書には、自殺する方は、ギリギリまで自殺をするかどうか迷っているとありました。それでも死を選んでしまうんですよね。

松本 死にたい気持ちは確実にあると思うんです。でも、一方で反対の気持ちもあるから苦しい。

杉山 人にとって、葛藤状態が一番苦しいのだと思います。どちらかに決めてしまえば、それはそれでやり方がわかりますが、自死はそういう苦しさの極端なものです。本にも書きましたけれど、ある人は朝に遺書を用意して、その後シャンプーが切れかかっているのに気づいて買いに行ったものの、結局は自殺を決行しています。

松本 別の患者さんだと、自殺する前に、かかりつけの病院に行って糖尿病の薬をもらってきた方もいました。今日死ぬ人に、糖尿病の薬なんていらないですよね。

杉山 やっぱり人間は「生きたい」という本能が強く、身を守る装置がたくさんあるのだと松本先生の著書から学びました。

松本 追い詰められた状態のとき、そこに道具や情報などが偶然あったりすることで、一押しが来るという気もするんですよね。

杉山 飛び降りるときも、体を前へ倒すか後ろへ倒すかだけの行動です。たまたま倒せば逝ってしまうし、後ろに倒せばそのまま生きるという、本当に物理的な状況の中で生きる場合もあるという。

松本 そうですね。以前、8階から飛び降りて奇跡的に一命を取り留めた患者さんがいました。8階から飛び降りると死亡率は96%ほどなので、「死ぬ気はなかった」と言わせない状況です。でも、その方は「飛び降りた瞬間に後悔した」と言っていました。

 それから、巨大橋梁から飛び降り自殺した人たちの、飛び降りる瞬間を録画した動画を見たことがあるのですが、みんな直前まで携帯電話を眺めているんです。もし、そこに着信やメールがあったりしたら、飛び降りるのをやめるかもしれません。

 これは自分の本でも引用したのですが、サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジから飛び降りようとした人を、警察が無理やり身柄を確保して強制的に帰宅させ、その人たちの5〜7年後を調査したという記録があります。それによると、その後その人たちは92%が生存しています。残り8%が亡くなっているというのは問題ではあるのですが、92%の人が生きているのは、逆になぜなんだ? と思うんです。

 もしかすると、ものすごく追い詰められていても、一晩寝たら、考えや風向きが変わることもあるかもしれない。だからといって、その人の苦しみを、我々が体験している苦しみの延長上で理解しようとすると、ドツボにハマってしまいます。我々が時折、自殺のリスクが高い人たちを怒らせてしまうのは、「いや、そうはいってもさ」とか「私もそんなことはあったけど……」と、自分のこととして語ってしまうからです。勝手に早わかりしてはいけないということです。
(姫野ケイ)

(後編へつづく)

最終更新:2017/10/14 16:30
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