私たちは、食べるものをイメージで選んでいる。禁断のサル肉を食べながら「食の境界線」を考える

「食の良し悪し」とは何でしょう。基準は実に、人それぞれです。糖質やカロリーが少なければ少ないほどよしとする人もいるでしょうし、産地や作り手など〈納得のいく出所〉であることが重要とみなす人もいるでしょう。その他SNS映えやコスパ、栄養バランス、etc……。

 そんなことが頭に浮かぶのは、生まれて初めて〈猿〉を食べたからです。場所は、毎度おなじみ状態になってきた、東京・新宿三丁目の「新宿肉区 パンとサーカス」。前回の記事では同店のイベントで〈性器料理〉を食しましたが、今回は今月10日から始まっているフェア「完全予約制モンキーミート」の試食班として、メニューをいち早く口にさせていただくことに。

前回当サイトでご紹介した同店の性器料理は、「摩羅(豚・牛)の麻辣火鍋」とダジャレをかましてくれましたが、猿料理でも期待を裏切らず「猿のスパイシー串(1本1200円)」の付け合せは〈バナナ〉、「猿のグリル(2400円)」は〈サルサソース添え〉という飛ばしっぷり!

これを私と一緒に食してくれたのは、「カニバリズム」をテーマにしたアニメ作品を制作した映像作家・佐藤懐智氏(以下佐藤)と、messyで連載を持つ桃子さん(以下桃子)。そして親戚が猿肉を食していたというプロフィールを持つ、格闘家のT氏。

猿肉フェアで提供されるのは、害獣駆除で捕獲された島根県のニホンザル。猿料理と聞けば、きっと多くの人が頭に思い浮かべるのは、映画『インディ・ジョーンズ魔宮の伝説』に登場した、ショッキングな〈猿の脳みそ料理〉かもしれません。でも実際はそこまで奇妙な食べ物というわけでもなく、昭和初期、一部の地域では〈冬の味覚〉として比較的知られた食肉であり、魯山人は「当時は豚よりもむしろ猿を食っていた」(『魯山人珍味』(中央公論)より)と語っています。

猿肉が現在食べられなくなったのは、1974年に狩猟鳥獣から外され、有害駆除許可が下りないと捕獲できなくなったから。タイミングよく手に入れば……という限定品となったのです。そんな〈幻の肉〉を、いろいろな立場の人たちと猿を味わいながら雑〜に語り合ってみたいと思います。

◎いざ、禁断の〈猿肉〉を実食!!

藤&桃子「(ひと口食べてみて)思いっきり普通のお肉ですねー!」

桃子「寒いところに生息している猿だから脂たっぷりなのかと思ったら、全然そんなことないんですね。すごくさっぱりした味」

佐藤「でも脂肪の少ない肉を食ってるというストイックさもなくて、ちゃんとおいしい。うちの近所に鹿肉を出している店があるんですけど、それと比べてもこっちのほうがクセがないですよ」

ギリコ「ヒツジ、ウサギ、クマ、カラス、ハクビシン、コウモリなんかと比べても、圧倒的に上品。柔らかいんだけど繊維がギュッとつまっている感じで、肉を食べています! という歯ごたえがかなり好みです。味付けにスパイスが使われているけど、ソースなしでもどんどん食べられてしまう」

T「僕の大叔父が青森の南のほう、秋田との県境周辺で狩猟をやっていたんです。家にクマの毛皮があったり、母はよくキジ鍋を食べさせてもらったなんて話もしていましたね。で、そのおじさんに一番美味しいのは? って聞くと、猿なんですって」

ギリコ「数年前、趣味で狩猟をしている人たちに猿は食べないのか聞いてみたら、『気味が悪い』なんて言われたものですが、時代の差もあるのかな。ちなみに今回皆さんにお声をかけたときも、佐藤監督は〈食べたくない!〉と(笑)」

T「どうしてもほかの獣と違って、ちょっとグロいというイメージはあるみたいですけどね。実際、大叔父の家族も村の人たちも気味悪がっていたという話です。だから猟師の人たちだけで消費されていたんだとか」

桃子「目の位置が人間に近いっていうだけで、なんとなく禁忌感ありません? 今回こうして美味しいということは分かったけど、じゃあ次も頼むかと聞かれたら……私はきっと食べない(笑)。ワニもカンガルーも抵抗ないんですけど、猿は自分の中にあるタブーのコードに引っかかる感じがするんですよ。食べる風習のある文化は決して否定しませんが、あくまで個人的な線引きとして。でも、〈昔の人は知っていた味!〉みたいな日本人のナショナリズムをくすぐられると、あっさりハードルを越える人も多そうな気はします」

ギリコ「タブーまで深い話じゃないんですが、私の場合は、昔バブルス君(故マイケル・ジャクソンのペット)カワイイーとか言っていたんで、〈お友だちを食べる〉的な罪悪感は否めませんねえ。でもそういった、カワイイと思ってはじめて、種は違えど自分たちと同じ生き物だということが実感できるんですかねえ。生きた肉を加工する体験が日常にない我々は。私なんかは虫を完全に食材扱いしていますけど、それに対してタレントのカブトムシゆかりさんは『ゴキブリは家族なのに、食べるなんて!』となる。虫のかわいさに目覚めたら、命の重みがもっと実感できて、さらにありがたみとおいしさがふくらむのか……」

佐藤「ヒトがヒトを食べると身体によくない、らしいじゃないですか。だからサルの場合は、人に近いイメージの猿を食べ続けると何かある……!なんて思うのもあるんじゃないですか。狂牛病も、要は牛が牛を食べたから発生した病気であって、ほかには近親相姦も遺伝上ダメ。どれをとってもあまり近しいのはよくないって感じですよね」

◎食べる・食べないの境目

ギリコ「なんでしょうね、食べる食べないの決定的な境目って。環境保護の視点はさておき、文化や倫理観における境目。いつもあちこちで話題に出すんですけど、戦中戦後の広島が舞台の『はだしのゲン』で、食糧不足が深刻になってからやっと、家族で山にイナゴを取りに行くエピソードがあるんですよ。山盛り取れて、しかも美味しいタンパク質。飢えるくらいなら、せっせと毎日食べようよ! と思うんですけど、あれって何故なのか」

桃子「連続テレビ小説の『ととねえちゃん』でも、戦後にハトを捕まえて売りにいったら『こんなもの食わねえ、キジバトだよ!』と言って買ってもらえない話が出てくるんですけど、食糧難でも食べるものを選ぶんだなって思わず感心しちゃいました」

佐藤「『はだしのゲン』の虫の話は、原爆後、街にあふれた遺体に虫がわきまくったから、そこからの禁忌があるのかもしれませんね。欧米で食べないのは、虫が病気を運ぶというイメージがあるから日本とはまた違うんだろうけど。映画『エクソシスト2』では、悪魔がイナゴを操り、〈凶作の神〉という恐怖として描かれますよね」

ギリコ「聖書では一応、地を這うタイプはダメだけど、ぴょんぴょん跳ねるイナゴは食べてOKという記述があるのになー。正直〈不浄〉の世界観が、私にはよくわからないんですけどね」

佐藤「倫理も恐怖も文化が違えば、基準が違うのが当たり前ですからね。たとえば、タイのホラー漫画を読んでも、日本人の僕からしたらギャグにしか見えない。ホラー映画の『リング』が秀逸だったのは、当時VHSが世界中に普及していて、それが恐怖をもたらす小道具として多くの世界でも理解され、怪談として広い範囲で成立したから」

桃子「最近は〈春画〉が芸術っていうノリがありますけど、あれも実際は時代によってエロの基準が違うからそう受け止められてるってだけなんですよね。当時はあれがエロくても、今の時代では全然エロじゃない」

佐藤「逆に今どきのエロ漫画も、数百年後には芸術になりうるわけで。60年代は革のジャンプスーツを着た女性なんて大変なポルノグラフィティだったけど、今じゃ普通ですからね。ところで、今の日本人は禁忌の視点から食べないものって、あまりないですよね。結局、いろいろな世界の倫理と比べると、日本人は欲望に忠実でスケベなんですよ。秋葉原なんて、外人にとっては驚嘆の街ですからね。毛さえ見せなければ何やってもいい、みたいな」

ギリコ「それに加えて日本の食は、舶来信仰もあるかも。エスカルゴも本来虫に近い生き物で明らかに嫌われてもおかしくないのに、フレンチで食べられているからOKという認識の人が多いし」

桃子「私以前、あるフレンチレストランへ行ったとき、入口近くにウシガエルが鎮座していたから普通に食材だと思って『逃げてましたよ』って店の人に言ったら、まさかの野ガエルだったことがあります(笑)」

ギリコ「お店もびっくり(笑)。あとは、育った家庭やどんな文化を好むかといった個人差もありますよね。何でも食べられる方が文化度が高くて偉い!というわけではありませんが」

桃子「変わった食材だと、ちょっとチキンレース的な要素もありますよね。逆に私が絶対食べられないのは、セミ! 昔、歯医者の待合室で偶然読んだホラーマンガのせいなんですけど。食の是非にそれぞれの文化的経験が関係するなら、日本のホラーマンガは絶対に食トラウマを生んでますよ! エロ方面も同じで、ひどい犯罪表現とかがあるとトラウマになったりもします」

ギリコ「じゃあ、〈これは猿肉だ〉というみえみえの嘘で納得したふりして、人肉を食べる小説『野火』を読んで、猿肉食べられない……! なんて人もいるかもしれませんね。巷のウワサでは、実際は豚が人肉の味に近いなんてウワサもありますけど、どうなんでしょ」

桃子「腸内細菌の割合も、人間と豚が近いって言いますよね」

桃子「薬効という視点からは、前に六本木の有名店で冬にクマとイノシシを食べたら体がポッカポカになって、改めてすごいんだなって思いました」

佐藤「ウシも、人間よりはるかにパワフルな生き物じゃないですか。それを消化するので、人間が元気を出しちゃうんですよね。出る、じゃなくて、出す。消化器官もがんばらないといけないし」

◎添加物も農薬も、イメージの問題

桃子「先日、椎名誠さんの『にっぽん全国 百年食堂』を読んでいたら、日本のほかにもフランスや韓国に馬肉をを食べる文化はあるけど、イギリス人はすごく嫌がるという話が出てきました。戦いに行って負けると馬を食べるしかないという〈負けの象徴〉なんですよ。味がどうこうじゃなく、文化的精神的に食べたくない、と」

ギリコ「虫も、戦時中を経験した世代は〈仕方なく食べていたもの〉という印象があって嫌だ、という話はすごく多いです。人は〈イメージ〉で食べているところが、圧倒的に大きいでしょう。添加物農薬を避ける人たちも、実際にどんな害がどれだけあるのかという事実はあまり関係なくて、何となく怖い、自然じゃないからダメというイメージだけで否定している人も少なくないはず」

佐藤「体にいいものを食べているという気持ちからプラセボ的に健康になることもあるので、悪いことではないんだけど、あのへんはちょっと選民思想も入ってきますよね」

ギリコ「家族のために環境のために、選び抜くことをしたという私たちだけが助かる、みたいな感じですかね」

桃子「アンチミルクで語られる、牛乳は仔牛が飲むべきもので人間が飲むものじゃないという主張も、完全に人間の勝手な〈かわいそう〉のイメージですよね。そもそも家畜を否定しているし、しかも本来牛乳は殺さずにたんぱく質をとれるというメリットもあるのに。一部のベジタリアンのあいだでは、エビやカニは痛覚がないから食べていいなんて話も聞くけど、あれなんて完全に〈差別〉ですよね」

ギリコ「人間の勝手な価値観で、〈肉〉に優劣をつけないでほしい」

桃子「私がいつも意味が分からない!って思うのは、包丁のテレビショッピングで見る『このトマト、切られているのに気づいていないんです!』という表現。刃物がいかに切れるかということを伝えたいのは分かるんですけど、そのトマトが美味しいことになるの?」

ギリコ「『美味しんぼ』でも人気アイスクリームショップのアイスは空気をたくさん含んでいるから断面スカスカ! ってあったなあ。おいしいものにはちゃんと理由があるという文脈なんですが、私たちが美味しいと思うものって、裏付けよりもやっぱりビジュアルですよね」

桃子「いかにも美味しそうな料理写真でも、撮影されているそれはガチガチに冷凍されたアイスクリームだったり、ツヤ出しのために油をたっぷり塗られた料理だったりするから、完全にイメージですよ。私たちは、目で食べている。青色で食欲減退させるダイエットふりかけなんてありますし。今はお菓子の『ねるねるねるね』とかアメリカンなケーキとか、ケミカルな色が日常にあるから、少し感覚がマヒしている部分もありそうですが」

佐藤「食べ物は玩具化すると、ケミカルに対するハードルは一気に下がるんですよね」

ギリコ「スピリチュアルな視点の食はどうでしょう。波動を高めるたべもの!とか。聖なる場所である沖縄の御嶽(うたき)にいる猿はエネルギーが高いわ!とか。って、沖縄に猿いないけど」

桃子「猿を食べると猿の何かが取り込めるってなるわけですねえ。知性の象徴だから、知的になる(笑)?」

ギリコ「日本では尊敬されていた故人の仁徳にあやかろうと骨を食べる、〈骨かみ〉とかありますよね。胎盤食やヒトの肝臓から作る薬(江戸時代の人胆丸)と違って、あれもスピ食のひとつなんですかね」

佐藤「スピはさておき、要はだいたいの食材はイメージ戦略して宣伝すればなんとかなっちゃう世界なんですよね。よくある、ウシのキャラクターが『ウシって美味しいよ!』と宣伝している矛盾は、僕の作品『カニバル星人』の起点だったりするんですが。街で見かけるアメリカンポークの宣伝では、豚に『冷凍庫で僕は楽ちん!』とか言わせている(笑)。まあ食べる以上、リスペクトは必要ですし、きれいなうわっぱりだけ見て誰も傷つかず満腹になるのも必要でしょう。動物愛護団体が露悪的に屠畜現場とか隠し撮りして流すじゃないですか。あっちのほうが、ちょっと違うと思うんですよね」

ギリコ「萌えキャラパッケージ食品とかも、肝心の中身(食品)とビジュアルイメージがマッチしているのか、実際にその食品のイメージ向上になっているのか、そのうち観察してみたい。なんにしても〈命に感謝して、美味しくいただく〉という基本がすべてで、宗教や病気の問題がからまない限り、肉は極力平等に食したいところです。スーパーに並ばない〈マイナーミート〉は、その基本を再認識させてくれる食材だ……なんてまとめは無難すぎ?」

桃子「あ、せっかくですから最後にワニの手羽先も食べておきましょうよ」

ギリコ「サル、虫、ヘビには拒絶反応を見せる桃子さんの境界線も、結構ナゾ!」

(虫食いライター・ムシモアゼルギリコ)

◎Infomation:猿肉フェア「完全予約制モンキーミート」(完全予約制)
期間:2017年7月10日(月)~売り切れ次第終了
場所:新宿肉区 パンとサーカス ※新宿三丁目駅から徒歩1分
   03-6457-8532

通常メニューも「ウサギのサラダ」や「ミールワームタコス」「フライドカラス」etc.好奇心を刺激される、「肉」が勢ぞろい! とは言え鉄板の人気メニューは、ウシやブタらしい(笑)。

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