ディズニー『モアナと伝説の海』~ポスターは日米でなぜ異なる?

◎フェミニンな日本のポスター

日本で公開される洋画の邦題やポスターのデザインが「なんか、違うよね?」と話題になることは多々ある。今、絶賛公開中のディズニー『モアナと伝説の海』もご多分にもれず、ポスターの図柄が物議を醸している。

記事冒頭にあるのがアメリカ版ポスターと、日本版ポスターだ。

アメリカ版は主人公モアナと、相棒の半神半人マウイが描かれている。モアナは物語の重要な小道具であるカヌーを漕ぐためのパドルを持ち、両足を踏ん張っている。表情も自信に満ちている。

かたや日本版はモアナのみで、マウイは消されている。モアナは物語のキーである緑色の石を、ハートを象った手の中に収めている。表情も穏やかだ。しかし、映画本編にこのポーズのモアナは登場しない。

背景の海は日米よく似ているが、日本版はブルーのトーンが薄目に抑えられ、波頭の白が増えている。

つまり、日本版はオリジナルであるアメリカ版の「強さ」を何重にも抑え、控え目でフェミニン、ガーリーに改変しているのである。

理由は「“優しい”イメージのほうが日本では受け入れられる」→「観客動員数が増える」という思惑だろう。ただし、優しいイメージが実際に観客を増やしているのかは証明のしようがない。

◎ゆるふわの輪廻

子どもの観る映画はほとんどの場合、親、特に母親によって決定される。したがって“優しく”かつ“女の子らしい”ポスターは母親がターゲットだ。“ゆるふわ”文化で育った母親は日本版のポスターを見て好感を持ち、幼い娘に『モアナ』を観せる(と憶測されている)。

すると何が起こるか。

『モアナ』はアクション・ムービーである。モアナとマッチョなマウイが大暴れする。作中、あの超過激アクション映画『マッドマックス~怒りのデスロード』へのオマージュさえ含まれているのだ。同作の主人公は、シャーリーズ・セロン演じるフュリオサであった。

幼い少女たちは『モアナ』をみて、モアナの可愛らしさと優しさ、冒険&アクション、自分の道を自分で決める独立心、恐れをはね除ける勇気、そしてリーダーシップに憧れるだろう。最初は教えを乞わなければならなかったマウイにさえ、成長したモアナが一喝するシーンもある。この映画を観た少女たちは「女の子が持つ強さ」の存在を認識する。

実はそうした強さを学んだ世代がすでに成長し、観る映画を自分で決める年齢となっている。彼女たちは、強さを何重にも抑えた日本版のポスターよりアメリカ版のポスターに惹かれている。中にはすでに母親となっている女性もいる。

そう考えると、日本のゆるふわポスターは果たして目論見どおり機能しているのだろうか。

◎相棒マウイの入れ墨

先に書いたように、その存在無くしては物語が成立しないもう一人の主役、マウイが日本版ポスターからはスッパリ消されている。

ポスターのフェミニン化の一環だと思われるが、もしマウイが長身、スレンダー、イケメンで、かつ入れ墨が無ければ消されただろうかという疑問が湧く。

特に2020年の東京オリンピックを控え、日本を訪れる外国人のタトゥ対応が懸念されている今、そこが気になる。2013年に文化イベントのために北海道を訪れていたニュージーランドの先住民マオリの女性が顔の入れ墨を理由に温泉での入浴を断られた件は当時、広く報じられた。入れ墨はマオリの伝統であり、日本の暴力団と繋げることの是非が問われた。

マウイの全身を覆う入れ墨もポリネシアの文化に基づいており、映画の中で何度もフィーチャーされる重要な “キャラクター” なのである。日本版ポスターに於けるマウイ不在が映画鑑賞後はことさらに奇異に思える所以だ。

ちなみにマウイの声の吹き替えを担当した元レスラーで現俳優のザ・ロックことドウェイン・ジョンソンは、マウイの入れ墨とよく似たデザインのタトゥを彫っている。ジョンソンはサモアとアメリカ黒人のミックスであり、自身の背景の象徴としてポリネシアの伝統的なデザインを彫ったとのことだ。

◎マイノリティのお姫様

米国ディズニーは過去75年間に制作した50本以上の長編アニメから11人の「プリンセス」を選び、「ディズニー・プリンセス Disney Princess」と称して仮装のためのドレス、アクセサリー、玩具、11人全員が揃って登場する絵本などを発売している。少女たちに美人で可憐で王子さまの出現を待つ受け身の “お姫様文化” を植え付けるという議論はあるが、本稿ではそこには触れない。以下が11人のリストだ。

1937「白雪姫」白雪姫
1950「シンデレラ」シンデレラ
1959「眠れる森の美女」オーロラ
1989「リトル・マーメイド」アリエル
1991「美女と野獣」ベル
1992「アラジン」ジャスミン(中東)
1995「ポカホンタス」ポカホンタス(ネイティブ・アメリカン)
1998「ムーラン」ムーラン(中国)
2009「プリンセスと魔法のキス」ティアナ(黒人)
2010「塔の上のラプンツェル」ラプンツェル
2012「メリダとおそろしの森」メリダ

実のところ、ディズニーはキャラクターの人種設定や人種差別的な描写について長らく批判されてきた。プリンセスも当初は白人ばかりで、非白人のプリンセスは1992年『アラジン』のジャスミンが初となる。次はネイティブ・アメリカンの『ポカホンタス』、その次は中国人の『ムーラン』とマイノリティ・プリンセスが続く。

しかし『アラジン』と『ムーラン』は外国が舞台。作品の質とは別次元の問題として、「アメリカのマイノリティの中の多数派であるアフリカン・アメリカンのプリンセスをなぜ作らない?」という声が上がった。「白人が “エキゾチック” な物語を観たくなっただけだろう」と揶揄する声もあった。

そうこうして2009年にようやくアメリカ黒人のプリンセス、ティアナが主人公の『プリンセスと魔法のキス』が公開されるや、全米のアフリカン・アメリカンの母娘が大喜びしたことは言うまでもない。子どもたちにとってプリンセスやヒーロー/ヒロインは自分自身の投影であり、人種と外観が多彩なアメリカではそれぞれの子どもにそれぞれのヒーロー/ヒロインが必要なのである。

◎ポリネシアのプリンセス

黒人のティアナに続いて登場したのが、ご存知、世界中で爆発的ヒットとなった2013年『アナと雪の女王』のエルサである。以後、全米のハロウィーンの仮装はエルサだらけとなった。白人も黒人もラティーノもアジア系も、女の子たちはとにもかくにもエルサに憧れた。

そして今回の『モアナ』はディズニー史上初のポリネシアのプリンセスである。ポリネシアとは太平洋上でハワイ、イースター島、ニュージーランドを3つの頂点とする三角形の海域だ。

(注:2002年の『リロ・アンド・スティッチ』はハワイを舞台としているが、リロは「ディズニー・プリンセス」に含まれていない)

制作者は太平洋の島々に長期滞在し、ポリネシアの歴史と文化をリサーチしたと言う。主役モナアの吹き替えにはハワイ出身のアウリィ・クラヴァーリョを抜擢。マイノリティの役を白人に演じさせる“ホワイト・ウォッシュ”を避けた結果、クラヴァーリョと、やはりポリネシアの血を引くドウェインの吹き替えによる魅力溢れる仕上がりとなっている。

また、モアナは “ぽっちゃり” でもある。特に手足がアップになると明確に分かる。これまでのディズニー・プリンセスとの大きな違いだ。近年の「女性が皆、モデル体型なわけではない」という方向性に則しているのだろうか。

このように『モアナと伝説の海』は少女の強さを軸に、非常に優れた映像によってポリネシアの大自然と文化歴史を紹介し、アクションとコメディも存分に堪能できる作品だ。百聞は一見にしかず。日米ポスターの描写にかかわらず、ぜひとも劇場に足を運ぶことをお勧めしたい一作だ。

(堂本かおる)

 

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