全くブレない自己信頼感こそが、渋谷ギャルのカリスマたるゆえん/藤井みほな『GALS!』

 連載の第1回目でも触れたように、少女漫画誌『りぼん』全盛期だった90年代は女子高生がもてはやされていた時代でもあり、特に90年代の後半は“コギャル”ブーム。当時私はまだ小学生だったけど、コギャルに限らず女子高生の存在や彼女たちが生み出すあらゆる流行に世間の注目が集まっているのは何となく感じていたし、憧れを抱いた。そしてこの国のあらゆる流行は“東京”から生み出されるらしいと知って、自分が暮らしている何にもない田舎がものすごくつまんない場所に思えた。今回取り上げるのは、東京・渋谷で自由に生きるコギャルたちの高校生活を描いた、藤井みほなの『GALS!』(1998~2002年)。

 安室奈美恵が大ブレイクし彼女のファッションやスタイルを真似する“アムラー”が社会現象になったのは1995年のこと。10代の女性が“コギャル”と呼ばれて、女子高校生の社会的価値は急激に上昇、彼女たちと繋がりたい成人男性たちは金銭を支払って“援助交際”し、それが社会問題化した。援助交際というワードは96年の流行語大賞に入賞したほどだった。渋谷はギャルの聖地になり、97年に渋谷109のカリスマ店員が崇拝され、98年には日焼けした肌に派手メイクのヤマンバギャルが登場。97年末に安室が結婚して産休・育休に入り(98年末に復帰)、99年にモーニング娘。と浜崎あゆみがブレイクすると今度は白ギャルが流行った。そんな時代の流れを受けて、『GALS!』は女子小学生をメインターゲットとする『りぼん』で連載開始したのである。

 前回取り上げた水沢めぐみは、1979年に高校一年生の若さでデビューしてから(漫画を描きながら早稲田大学教育学部に進学して卒業もしているからすごすぎる)、保護者も安心の“良い漫画”を常に発表していた。それに対して、90年に水沢と同じく16歳の若さでデビューしたという共通項はあるものの、藤井みほなの描く作品は、保護者をハラハラさせていただろう。

 たとえば高校生モデルの恋と成長を描いた『パッションガールズ』(1994~1995年)では、主人公の櫻井エリカとそのライバルの月岡八純が共にめちゃくちゃ高飛車な性格で、顔を合わせばどちらが“上”であるかを巡って激しい(でもけっこう幼稚な)バトルを繰り広げる。2人の口をついて出るのは、露骨な「私は美しい」発言で、日常会話レベルで多用されていた。ファッションは、ブランド志向強め、露出度高め。そういえば、エリカの部屋には「私は美しい」と書かれた紙が貼ってあった。性的描写はキスシーンに留まっていたものの『パッションガールズ』は、『りぼん』の中では相当“下品な作品”だったと思う。『GALS!』の前作『秘密の花園』(1998年)では、女子中学生同士のセックスを(する前とした後の様子)描いて読者に度肝を抜かせ、また主人公・御園の首を絞める継母も猛烈に怖かった。『りぼん』だけど『りぼん』の枠にとらわれない自由度の高さが藤井みほなの魅力でありウリだった。

勧善懲悪のコギャル

 1998年にスタートした『GALS!』は、そんな藤井みほなの作風と、当時のコギャル全盛・渋谷サイコーの風潮、流行の存在を意識して憧れはじめる年頃という女子小学生読者のニーズという3つがマッチングしたのだろう。かなり下品でギャグ要素の強い作品なのだが、大ヒットした。2001年には『超GALS!寿蘭』のタイトルでアニメ化している。

 物語の舞台をはっきり「渋谷」と定めていて、『109』『渋谷センター街』『マック』『マツキヨ』といった実在の名称も出てくるのは、具体的な地名を記さない作品の多い『りぼん』では画期的だった。主人公は、“渋谷で最強のコギャル”として知られている寿蘭(ことぶき・らん)。私立鳳南(ほうなん)高校1年生。放課後は渋谷に繰り出し、常に渋谷で遊んでいる。蘭に憧れて鳳南高校に入学する者も大勢いるなど、コギャルのカリスマ的存在だ。

 何がどう“最強”なのか。まず、すれ違う男女が100%「すごいカワイイ!」と振り返る美貌。そして、特に格闘技をたしなんでいるワケでもなさそうなのに、めちゃくちゃ腕っ節が強い。勉強は出来ないが、運動神経も抜群に良い。喧嘩最強で、渋谷イチの美女。それが寿蘭なのである。

 両親と兄は揃って警察官で、さらには祖父母も曾祖父母も警察官だったという警察一家に育ち、父親から「警察官になれ」と口うるさく言われているが本人には全く持ってその気なし。蘭はとにかく「今」を楽しみたいのだ。赤メッシュやギャル系ファッションの蘭はチャラそうに見られがちだが、軽薄扱いされると「あたしをナメんじゃねえ!」と拳を振り回す。正義感が強く、曲がったことが大嫌い、男前な性格で、恋愛には相当鈍感、下ネタは人並みに喋るけれどキスもエッチもまだしていない(たぶん大事にとってある。なぜなら、自分のそれにものすごく高い価値があると認識しているから)。

 当時、さまざまなブームを生み出すコギャルたちを有力な消費ターゲットと見なす一方で、「品がない」「だらしない」「学生にふさわしくない」と眉をひそめたり、あるいは“援助交際”とセットで括ったり、コギャルに対する世間の視線や認識は必ずしも“良い”ものではなかった(私の中学にはルーズソックスを“ズルズルソックス”と呼んで嫌悪感を露わにする女性教師がいたなあ。職業柄仕方ないのか)。物語の世界にもそういう“良識”は取り入れられていて、蘭はそんな大人や世間の偏見に反発する。蘭自身はあくどいことや卑怯な真似を許さず、時に熱血発言だってする健全な精神のコギャルである。勧善懲悪のスーパーヒーローみたいな存在だ。作中には大人でも子どもでもなかなかクセの強い人物(闇を抱えた問題のある人物)が多数登場するのだが、卑怯なやつは許せないし、何だかんだ困っている人を放っておけない蘭があれこれ問題を解決する“正義の味方”的要素もあった。読んでいてスカッとする、女子高生版『半沢直樹』というか(でも復讐ものではない)。

 そんな蘭と行動をともにする親友が2人いる。

 蘭とは中学の頃からの親友の山咲美由(やまざき・みゆ)。彼女も私立鳳南高校1年生だが、裕福そうな蘭の家庭とは違い、育児放棄のシングルマザー家庭に育ち現在進行形で孤独を抱えている。中学時代は極悪不良で、チーマーのリーダーを務めていた美由、おそらくキレると蘭よりもっと喧嘩が強い。ただ、相手を殺しかねないため、蘭は美由を止めるストッパー的な役割でいなければならないと自覚し、いつもそばにいる。美由を支えるもう一人の存在は、蘭の実兄で新人警察官の大和だ。渋谷の交番に勤務し、たびたび補導される美由を親身になって救った大和は、美由に惚れられ今は相思相愛の恋人関係にある。美由が高校を卒業したら結婚する予定だ。

 もう1人は、初登場時は清楚なお嬢様系の優等生だった星野綾(ほしの・あや)、私立鳳南高校1年生。綾の両親は厳格で過干渉。そんな両親への反発で(肉体関係を伴わない)援助交際をしていたのだが、蘭にこっぴどく叱られ、そのことがきっかけで蘭、美由と打ち解けて仲間になった。自分に自信がなく、無意識に他人の評価を気にして動いてしまう性格だが、蘭や友人たちとの関係、恋愛を通して少しずつ成長していくキャラクター。

 『GALS!』は、この3人の友情を軸に、コギャル(女子高生)の恋愛、家族、高校生活、進路などを描いた青春ストーリーで、“コギャル”というカルチャーを活かした青春漫画といったところだ。3年半におよぶ長期連載で、登場人物も毎年進級し、やがて卒業する。

主人公がイケメンとくっつかない超展開

 女子の関心はいつでも恋とオシャレ、とばかりに、作中の女子高生たちは惚れた腫れたで忙しい。3人が在籍する鳳南高校は共学だが蘭たちはいつもコギャル同士で大騒ぎして盛り上がっているのが常で、男子生徒との絡みは少ない。その代わり、高校の枠を超えて“渋谷”つながりの他校男子生徒とはいつもつるんでいる。つまり、イケてるギャルは、イケてるメンズとセットで遊ぶのである。蘭たちが行動を共にするのは、「スーパー高校生グランプリ」で1位の乙幡麗(おとはた・れい)と2位の麻生裕也(あそう・ゆうや)。二人とも明匠第一高校の男子生徒で、いうまでもなく2人ともイケメン、渋谷を歩けばファンの女子に囲まれる人気者だ。実際、当時「スーパー高校生」の人気は凄まじかった。麗は見た目さわやか系で性格はクールでマイペース、裕也は見た目チャラそうだが相当なヘタレ。ちなみに2人とも学力は高い。明匠第一は男子校なのだが、麻布高校あたりがモデルなのだろうか。

 さて、その麗も裕也も、好きになった相手は蘭だった(ただし麗に関しては、伏線は多々あっても明確に示されるのは26話)。ここまではわりとよくある話である。読者の感触だと、最終的には麗とくっつくんじゃないかと想像する。が、鈍感すぎる蘭は、どちらの好意にも全く気づかず、第12話で突如登場したタツキチこと黒井達樹(くろい・たつき)と「お前面白いじゃん」という理由で、会った当日に付き合いはじめる。タツキチは蘭とノリが合うし面白い奴だが、麗、裕也ほどビジュアルが良いわけではなく(色黒のギャル男で町田在住)、いわゆる少女漫画の王道イケメンとは言い難いキャラで、こういう展開!? と衝撃的だった。しかも、かませ犬かと思いきや、その後ずーっとタツキチは「蘭の彼氏」として出続けるのである。

 麗は密かに蘭に思いを寄せながらも、自分に好意を抱く綾と付き合いはじめるし、裕也は蘭に告白できないまま、こちらも自分に好意を抱く池袋のコギャル・本多マミと(半ば強引に)付き合いように。裕也はいつの間にか「蘭が好き」ではなく「蘭が好きだった」に変化していったが、麗は「蘭が好き」でありながらも告白する気はなさそうだし、綾をきっぱり拒否するわけじゃないし、女子読者にはその真意が掴みかねるような人物だった。しかも要所要所で、蘭と麗の信頼関係が強調される場面もあり(タツキチ曰く、目に見えない深ーいトコでつながってる)、後半タツキチはかなり嫉妬していた。

 第28話ではいたずらメール事件の影響で「麗が蘭を好き」という話が蘭の耳にも入ったが、第29話ではこんなやりとりをする。

蘭「おめーがあたしにホレたとかゆー話 『つまんねージョークだ』って笑いとばしといていーよな?」
麗「…かまわねーけど? どう取るかなんて おまえの自由だし」

 結局、蘭と麗が結ばれることは最後までなかったし、蘭自身が麗に対してどのような感情を抱いているのかも、作中では明確にされないまま。恋愛に鈍感で無頓着な蘭(でも他人の恋愛には助言している)は、終盤こそ多少繊細な面を見せる描写があったものの、作中“恋する女の子”らしいふるまいをするシーンはなかった。恋愛に悩み右往左往するのは親友の美由、綾で、蘭は終始、振り回されない。蘭は「振り回す側」で、誰に何をされてもブレないのだ。それは恋愛以外のことでも同様で、家庭事情や進路のことで動揺したり、自分の心に抱え込んだりする描写は、美由、綾の見せ場となっていた。

 話を恋愛に戻すが、「ヒロインとイケメン男子が両想いになる」のが定番の少女漫画において、『GALS!』のような設定と展開は、よくいえば斬新、悪くいえばすっきりしない、疑問が残るといったところ。ただ、蘭&タツキチ、綾&麗、マミ&裕也、美由&大和、といった4組のカップルの成り立ちや変化を長いスパンで描いており、しかも「超幸せ」「超どん底」の描写よりも、「問題残しつつ、まあまあ幸せ」「嫌な予感」といった緩い浮き沈みの繰り返しで、だから読んでいる側としてはなかなかすっきりしないわけだが、それはリアルな描き方だったのだと、今にして思う。ちなみに作中を通して、蘭・美由・綾は3人とも(おそらく)処女だし、キスシーンもキスしそうなところに邪魔が入ったりと性的描写はかなり初々しいものになっている。「エッチは~」云々の台詞こそあるが、『りぼん』ゆえの自主規制なのだろうか。

なぜ寿蘭はブレないのか

 蘭は強い。腕っぷしもメンタルも強い。自分がかわいいこともオシャレでイケててモテるのも当たり前だと思っている。虚勢でも自己顕示欲の表出でもマウンティングでもなく、蘭にとって、自分が周囲に愛されることは疑う余地のないことだ。よい意味でプライドが高く、コギャルとしてだけでなく、人間としての誇りを持っている。誰のことよりも自分を信じきっていて、自己肯定感・自己信頼感が突出している少女だ。

 本作に登場するほとんどの10代女子は、ありとあらゆる“人目”を気にして「こんな風に見られたい」願望を抱いている。それ以上に強いのが“「こんな風に見られたくない」願望で、ダサいにしろチャラいにしろ自分の望まない姿で見られていると知ったら、猛烈にプライドが傷ついたり、凹んだりする。他人からの評価を気にするあまり、過ちを犯してしまう登場人物も多い。けれど蘭はたとえ「チャラい」「援交やってそう」などの誤解を受けても、傷ついたりしない。キレるけどキレて終わり。自分のことは誰よりも自分がよく知っているから、気にしない。

 蘭の強さの源は、強烈なまでの自己肯定感。自分を大事にしているから、他者の視線など気にしないし、他人と自分を比べない。誰かを恨んだり、傷つけたりいじめたりしない。いじめや仲間はずれを楽しみたがったり、スクールカーストに捉われたり、空気を読んだりいじったりするのはみんな、自分に自信がないからなのだ。

 そういえば、「自分より強い、太刀打ちできない相手」だと認識している人物が自分より進んだオシャレをしていたり目立つ行動をしたからって文句は言わないのに、「自分より弱いはず、劣っているはずの相手」がオシャレをしたり目だったりすると、モヤモヤして「何あれ許せない」の心理に陥る女子、学生時代、ものすごく多かった……。自分ももっとオシャレしよう、ではなく、相手を攻撃する方向にエネルギーを転じてしまう。自分より弱いと思っていたはずの子に劣等感を抱いている、という自分の状況が許せないのだろう。

 蘭はそもそも劣等感を抱くことがないから、誰のこともいじめない。卑劣なやつには容赦しないけど、自分に逆恨みして攻撃してきた後輩でも謝れば全部チャラ、あっさり許す(第18話)。『GALS!』連載開始の数年前に見たテレビドラマで「一番強い人間っていうのは、一番難しいことができる人間。人のこと許すって難しいよな」という台詞があったのだが(小学校を舞台にした学園ドラマ『みにくいアヒルの子』)、なるほど、人を許せる蘭は、やっぱり一番強い人間だ。そんな蘭が、劣等感に苛まれる他者にかける言葉は「自分サイコー」「とにかく自分を愛せ」と力強い。

「いいか どーせなら男が勝手に貢いでくるくらいのいい女になりな このあたしみたいにな!」
「親の期待にこたえんのに命かけるなんてさ つまんねー人生だな!」
「おめーはそーやって自分の悪口ばっか言ってるん自分が好きなのか!? 自分嫌いなやつが人に好きになってもらおーなんてさー そりゃ虫がよすぎるぜー」
「バカにされんのこわくてギャルやってられっかよ」
「どんな瞬間でもさ あたしは生きてるのが大好きだからに決まってんじゃん」
「まるで操り人形みてーだな お前自身がどこにもいねー そんなんで生きてる手ごたえあったのかよ?」
「心は目に見えねえ だから信じるっきゃないんじゃねーのか? 信じあえなくなったら…もうお手上げじゃん」

 『GALS!』のメイン読者は女子小学生。持ち物も洋服も好きな芸能人も、みんなとうまく合わせる“協調性”が重視される思春期、思い悩む子は多い。保護者からは疎まれそうな藤井みほな作品だけれど、読者に本当に必要な言葉を届けていたんじゃないだろうか。これらの言葉はさらに上の年代、女子中学生にも女子高生はもちろん、大人の女性にも必要だし、男女の別なく、自分の大切さを信じられない人々に届くべきだ。昨今はコギャルブームの頃よりずっと“空気読む”ことが求められる時代だが、だからこそ空気など無視してとことん自分を愛する蘭の生き様は魅力的に映る。あのころ『GALS!』読者だった女子たちも、今は20代。蘭みたいな、いい女になっているだろうか。

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