カルチャー
[連載]マンガ・日本メイ作劇場第43回

屈指の名作少女漫画『秘密-トップ・シークレット-』、作者が天才すぎたがゆえのある誤算

2016/09/04 19:00
『秘密―トップ・シークレット(1)』(白泉社)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女漫画史にさんぜんと輝く「迷」作を、少女マンガ攻略・解析室室長の和久井香菜子がひもといていきます。

 最近はいろんな場所に防犯カメラが設置されるようになった。そのため、昔よりもだいぶ犯罪が早期解決するようになったのではないだろうか。遺体が発見されたときも、その人が亡くなったときの映像がどこかに残っていたら、捜査はぐっと楽になるだろう。

 いっそのこと、死んだ人の脳みそが何を見ていたのかわかる装置ができたら……? というのが『秘密-トップ・シークレット-』(白泉社)の出発地点である。

 「第九」と呼ばれる捜査本部「科学警察研究所 法医第九研究室」には、遺体の“脳みそ”が送られてくる。その脳みそから、被害者や加害者が亡くなるまでの5年間に見たものをMRIで解析し、誰が犯人なのか、また犯行の動機はなにかを探るのだ。誰にでも、人には知られたくない「秘密」がたくさんある――そういうものを暴いていく後ろめたさが、この部署にはある。

 本作は、大判で全12巻の長編だけれど、事件ごとの連作短編としても読める。そして個々の事件に登場する人たちは、それぞれ事情を抱えているのだ。

 例えば第6巻のストーリーには胸が痛む。40代の女性が、ある日仕事先のコンビニで殺人を犯し、自殺してしまう。彼女は、職場では有名な“姫系”で、40代にはとても似合わないフリフリの服を着ている。どうして彼女は突然、4人もの人に切りかかり、殺してしまったのか。その理由が、記憶が再現されたMRI映像により解明されていくのである。そこには、親の介護と仕事の両立、老いることへの恐怖などが狂気の理由として描かれており、筆者は「どれも実際に自分の身にも起こるであろう事柄だ」と、読んでいて本当に胸が痛かった。

 このように作者の清水玲子先生は、ストーリーをものすごーくドラマチックに練り上げるのが上手な作家さんである。小さな伏線でも力業でねじ伏せて、大ストーリーに仕立て上げる。そこが大作家先生の力量の見せ所なのだが……被害者だけでなく、それを捜査する「第九」の警察官までもがトラウマを抱えていたり、人格に難アリだったりと、さまざまな見どころを作りまくってしまい、結果的に読者のおなかをいっぱいにさせるのだ。

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