関修×田幸和歌子対談

ジャニーズに「物語」は必要か? 「嵐の授業」の関修氏とコラムニスト田幸和歌子氏対談

2016/01/31 19:00

■PVこそが「嵐的」である理由

田幸 先生はその点、嵐の物語ではなく、PVに特化して分析されていますね。

関 基本的に嵐は、自分たちからは物語をあまりしゃべりたがらない。だからこそ、そこをつついても何も出てこないというのが、僕の見解です。評価するなら、我々が見ることができるもの、手に入れることができるもので評価するしかない。そう考えたとき、PVなんですよ。後世に残り、その時期その時期の「嵐」という作品を表現しているものがPV。「いや、コンサートこそ嵐だ」という意見もあるかもしれませんが、コンサートは嵐が自ら表現するというよりも、お客さんと一緒に楽しむためのもののように思うんですよね。もちろんそれも嵐の一部に違いないのですが。楽曲もまた「嵐」ではあるのですが、ファンは、楽曲そのものよりも視覚化された嵐に惹かれるので、やはりPVこそが「嵐」だと思う。

田幸 これだけ売れているのに、「嵐の代表曲は?」というと思い浮かばない人が結構多い。いまだにカラオケで嵐の曲を歌おうとすると「A・RA・SHI」を歌っちゃったり。それは楽曲=嵐ではないということですね。

関 そう、嵐の曲はファンの自分たちが歌ったり聞いたりするためのものではなく、嵐が歌って踊っているところを見るものなんです。だから、僕は「愛を叫べ」が好きじゃないんです。「みんなで踊りましょう」というところがポピュリズム的というか、PVに嵐以外の人が出演している点も違和感がある。嵐のPVは、余分なものを全部削ぎ取っているところが美学だったのに。

田幸 先生が著書の中で「嵐」と同じように「踊る嵐」という語を多用されている点も興味深かったです。一般的なジャニーズファンからみると、嵐はどちらかというとTOKIOや関ジャニ∞のように“ガンガン踊らない方のグループ”のイメージがあると思うんです。「踊るジャニーズ」というと少年隊、V6、Hey!Say!JUMP……。その上で、ジャニーズファンがダンスを語り出すと、スキルの議論になってしまうんですよね。どのグループがうまいのか、と。「踊る嵐」における「踊る」は、その議論とは別のところにあるように感じました。

関 嵐にとって踊ることは「嵐」を表現するということだと、僕は理解しています。だから、踊りそのもののスキルは問題ではないんです。

田幸 そうなんですよね。先生は「スキル」という言葉はまったく使ってらっしゃらないので、他グループにおける「踊る」こととの違いを感じました。

関 「嵐」という5人のまとまりの良さを、ダンスを使ってどう表現するかが最も重要なんです。「truth」以降のPVは、嵐のまとまりの良さと同時に、5人のそれぞれの個性がよく表現されているように思います。

田幸 一般的なダンスの意味でいうと、むしろ「truth」以前のほうがガンガン踊っている。「truth」によって象徴としての「嵐」が完成して、踊らなくなっていったイメージがあります。象徴になったということは、ゴールを迎えたということだと。

関 いや、僕は「truth」がスタートだと思う。それ以前は普通のアイドル。以降は、ほかとは違う「嵐」として存在感を表すようになった。ジャニーズファンとしては田幸さんの見方が一般的かもしれませんが、僕としては「truth」以降の嵐のあり方のほうが魅力的なんです。

田幸 その観点が目からうろこでした。嵐は最近、滝沢秀明が守ってきたような和の演出を入れたりして、ジャニーズの表看板を引き継ぎ始めていますよね。ジャニーズ的なものの後継者を嵐に一本化するつもりなのかな。嵐にはそれを背負ってほしくない。

関 確かに、それはあまり魅力的ではないですね。客観的に見て、14年の15周年を頂点に、嵐も下り坂。世代交代は仕方ない。そうすると、後続のNEWSの方が面白い。ジャニーズ的なところを残しつつも、嵐のような普遍的なものに行くために、なんとかしようという感じが見えます。

■ジュリー氏が社長就任後はどうなる?

関 グループだけでなく、社長も世代交代を考えなければならないわけですが。

田幸 事務所は大きくなっても、基本的にジャニー(喜多川社長)さんひとりの強烈なセンスで作られた超個人事業。ジャニーさんはジャニーさんの世界だけを抱え込んでいるので、ノウハウとして受け継いでいくのは難しい。ジュリーさんの売り方も、結局は飯島さんと同様、“ジャニーズっぽい感じ”というパロディ的な視点ですから、世代交代したら普通の芸能事務所のようになりそう。

関 事務所自体なくなることもありえる。

田幸 あるかもしれないですね。

関 これからは、男性アイドル=ジャニーズではなく、多様化していくと思います。今回のSMAPの騒動は、その1つの流れでしょうね。

田幸 以前ほどジャニーズに圧倒的な力はないですし、時代の流れもあるので、SMAPみたいな存在はもう現れないでしょうね。

関 ジャニーズは伝統芸のようになり、全ての人に受け入れられるものを求めるよりも、テリトリーを狭めてファンをつかんでいくことになるでしょう。

田幸 確かに、広げるよりも狭める方がジャニーズ的だと思います。

関 そして、これだけアイドルが国民的に大きな影響を与えているのですから、映画評論のように、きちんと批評、評論として捉える視点を作らなければならないという気がしています。さもなければ、アイドルがただファンの間での情報交換で終わってしまう。正当に評価したり、ほかのアイドルと比較評論したりすることによって、カルチャーとして豊かなものになると思います。

田幸 最後にジャニーさんは、どんなグループをつくるんでしょうか。Sexy Zoneなのかと思いきや、『ジャニーズ・ワールド』を見た限り、中島健人と佐藤勝利の出番は少なく、ちょっと離れたのかなという気もします。ジャニーさんはSexy Zoneの枠を取り払って、ちびっこを集めて楽園を作りたいのかも。

関 なるほど、最後に行き着くのは、マイケル・ジャクソンのネバーランドみたいな世界なのかな(笑)。
(構成/安楽由紀子)

最終更新:2016/01/31 19:00
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