カルチャー
大手出版と内閣の意外な接点

安倍内閣が検閲に乗り出した、「VERY」の “賢妻”路線への内閣の関心と動向

2014/04/18 15:30
「VERY」3月号(光文社)

 「VERY」(光文社)は、30代から40歳前後の母親をターゲットにした人気ファッション雑誌だ。井川遥を表紙にしたセレブママ路線が受け、部数も35万部を誇っている。ところが、その「VERY」編集部に意外なところから一本の電話がかかってきた。電話の主は内閣広報室。安倍内閣のメディア対策を一手に担っている部署だ。電話をとると、相手はこう切り出したという。

「秘密保護法を特集するのですか。それならうちも取材してくれませんか」

 確かに、「VERY」3月号には「お母さんこそ、改憲の前に知憲! 今、改憲が実現したら、将来、戦地に行くのは誰?」と題された記事が掲載される予定で、そこでは特定秘密保護法についても詳しく触れられていた。つまり、安倍内閣は批判記事が掲載されるのを知り、「こちらの言い分も載せろ」とやんわり圧力をかけてきたといえる。

 しかも、電話がかかってきたのは同号の発売数日前。記事を予告するような広告も打っておらず、掲載関係者しか知りえない企画を知っていたことに、編集部は騒然となったという。

「内閣広報室は『書店の情報で知った』といっているが、ちょっと信じがたい。安倍内閣は自分たちに批判的な報道を事前把握するために、かなりいろいろやっていますから。たとえば、同じ内閣官房の組織である内閣情報調査室は定期的に大手出版社の編集幹部を接待して、内部情報を聞き出している。おそらくその辺から情報が入ったんじゃないでしょうか。安倍首相は以前から女性誌を使ったPRに熱心なので、その意を汲んで動いた可能性もある」(官邸担当記者)

 こうした行為に、弁護士などからは、事前検閲や言論への恫喝という危険性さえあると、批判の声が上がっている。それにしても、なぜ「VERY」のようなセレブママ雑誌が憲法や秘密保護法のような問題を取り扱ったのだろうか。

 「VERY」は今、女性誌の中では異色ともいえる社会派路線を強く打ち出しており、読者から好評を博しているというのだ。その目玉の1つが、「VERY白熱教室」という連載で、子育てや暮らしと密接に関係するような社会問題を、同誌のモデルが知識人や専門家から学ぶという形式で取り上げている。「これからの『いのち』の話をしよう」「あなたならどう考える? 出生前診断」「養子を迎えるという選択肢」「『3歳児神話』のリアル非リアル」……。安倍内閣が問題視した記事はこのシリーズ第10弾で、憲法改正や秘密保護法の成立、集団的自衛権の解釈など、憲法に絡むさまざまな問題をテーマに、やはり同誌のモデルが弁護士、若手学者らを集めて座談会を開いたものだ。 

 また、この「白熱教室」という連載以外でも、放射能問題や母性神話批判などを特集したり、上野千鶴子、古市憲寿などの学者を起用したり、さらには、ファッションページでも「社会性のあるオシャレ」など、「意識の高い母親」向けのページが増えているのだ。こうした傾向を、メディアと女性問題に詳しいライターはこう分析する。

「母親が社会問題に無関心というのは昔の話。今は働きながら育児をすることでいろんな社会問題に直面している女性が増えていますし、『ハウスワイフ2.0』(文藝春秋)のように専業主婦でも公共への関心を持つ女性が多くなっている。それに、今の日本は、放射線、内部被ばく、待機児童、将来の戦争の危険性など、子どもを育てる母にとって、心配の種がどんどん増えていますからね。そういう問題をきちんと知っておきたいと考える女性が増えるのは当然でしょう」

 実際、「VERY」に限らず、原発や放射能の問題を積極的に取り上げている女性向け雑誌は最近増え、社会性と教養を備えた“賢妻”ブームも起きている。そう考えると、安倍内閣が今回、“セレブママ”を視野に入れたのは、あながち的外れではなかったということかもしれない。

最終更新:2014/04/18 15:46
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