カルチャー
[連載]マンガ・日本メイ作劇場第30回

学園ラブコメが南の島のお家騒動に発展、ジェットコースターマンガ『炎のロマンス』

2013/05/06 19:00
『炎のロマンス(1)』/講談社

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてけぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史にさんぜんと輝く「迷」作を、ひもといていきます。

 まだまだバブルの残り香がぷんぷんしていた頃、『もう誰も愛さない』(フジテレビ系)というドラマがあった。あらすじはまったく覚えてないんだけど、あれよあれよとめまぐるしく話が展開し、先週敵同士だったのに今日は味方になってたり、脚が動かなくなって車イスに乗ってたかと思えば次の週には立てるようになってたり。1週見逃すと、もう話がわからなくなる展開の早さ故、「ジェットコースタードラマ」などと呼ばれていた。まあ、だから詳細を失念しても仕方ないよね、うん。

 少女マンガにもある。ジェットコースターが。昔のマンガって、コマ割が今よりも小さくて4段組が当たり前、漫画的表現もまだまだ未発達で、細かい部分は読み手の想像力に負うところが大きかったから、1ページあたりの話のスピードが断然速かった。

 その中でも頭ひとつ飛び抜けてスピード感満載だったのが、70年代に、どっかんどっかん名作を打ち上げた、上原きみ子の作品だ。今回はその中から『炎のロマンス』(講談社)を取り上げてみたい。

 主人公は、なんの取り柄もなく、おっちょこちょいのダメ女子高生、亜樹。楽しい高校生活がスタートし、クラスメートの須田くんというイケメンに、ほんのり恋の味。「ああ、学園ラブストーリーなのかな」とか思ってると、突然彼女は南の島にさらわれてしまう。その後は高校生活シーンなんかまったく登場せず、舞台を島に移して、フィーバーに入ったかのように大花火がひっきりなしに打ち上がるのである。

 話の大筋を説明しよう。南の島国「コーラル王国」は、黒髪の人間が産まれると殺されるか島流しにあっててしまうという島で、だけども女王は日本人の黒髪女性というしきたりがある。もうこの時点で首をかしげる読者は多そうだけど、何しろ乗っているのがジェットコースターだから、そんなしきたりの詳細が入る暇はない。そんなわけで嫁探しのため、王子様のレドビィは、須田くんという名前になって花嫁を探しに日本に来ていた。そこで亜樹と相思相愛になったのだが、レドビィの従兄弟で同じく王子様のルイによって亜樹はさらわれ、コーラル王国に連行、ルイと結婚させられてしまう。日本に帰りたくて仕方のなかった亜樹だけど、運命を受け入れて女王になることを決め、コーラル王国の古いしきたりを改革しようと奮闘していく。

 コーラル王国は、人口3万2,000人の小さな島なんだけど、ジェットコースター少女マンガの舞台になってしまったおかげで、小さな島とは思えないほど、アスレチックなスポットが登場。島の全体地図は出てこないけど、「一度足を踏み入れたら二度と出られない樹海」「迫害された黒髪の人たちがひっそりと住むヒミツの場所にある黒髪村」「足を踏み入れただけでも神の怒りを買い地獄へ落ちるという神の山」「神がいるとか悪魔がいるとか伝説のある、秘宝の隠されている迷路になった洞窟」があり、島を囲む海は島影ひとつ見えず、サメがいっぱい。ものすごくデンジャラスな島なのだ。こうして書いてみると、神様にまつわる場所が多いな。途中でレドビィは神の山に神殿建てに行ったりしてるし。でも単行本9巻分で、一度も宗教については言及がないので、なんの、どんな神様なのかはわからないという、無駄なことは一切言わない潔さ。

 さて、コーラル王国には、王様が国民の結婚を決めるというしきたりがあった。王様が勝手に男女をカップリングして命令書を出すのである。そんな暴挙が行われている理由は、昔、人口の少なかった頃、近親婚を避けるために結婚の管理が必要だったそうで、その名残だという。そして、「黒髪の日本人が女王になると国が栄える」という伝説のために、王子は17歳になると日本へ嫁探しに行くのだそうだ。そして連れてこられた亜樹なんだが、なんと物語の後半になって、ルイやらレドビィやらと亜樹は異父兄妹かもしれない! という疑惑が持ち上がるのである。

 なんでそうなったかは本編をお読みいただくとして、そもそも、近親婚を避けるための制度があるような国で、わざわざ遠い海を隔てた日本から嫁を連れてきてみたらこの異父兄妹疑惑。そんな可能性のうっすい事件までが起こるわけだから、普段からどんなにハプニングが多いのか、おわかりいただけるかと思う。

 島に住んでいるのは金髪の人間で、名前もレドビィとかルイとかカタカナ横文字ふうなのに、彼らの話す言語は日本語という、当時の日本人の白人やら語学やらのコンプレックスを一挙に引き受けたような設定もまたステキ。

 「10巻読んでもまだ片思い」みたいなスローテンポの最近の少女マンガに飽き飽きしてる方は、このジェットコースター、おすすめです。

■メイ作判定
名作:メイ作=4:6

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。女性向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

最終更新:2014/04/01 11:20
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