『HiGH&LOW』は祭である ケンカに次ぐケンカに魅了され、ジェンダー的にももやもやしなかった理由

EXILEや三代目J Soul Brothersファンだけでなく、今まで彼らに興味のなかった層にまで届いているように見える映画『HiGH&LOW THE MOVIE』。2クールにわたってテレビで放送されていたドラマ『HiGH&LOW』(日本テレビ系)の続編です。

ホモソーシャルや男らしさについて考えてきた本連載にはうってつけの題材では! と思い、公開後かなり早くに見てきました。

本作は「山王連合会」「White Rascals」「鬼邪高校」「RUDE BOYS」「達磨一家」という5つのチームが緊張関係にあった「SWORD地区」が舞台になっています。物語は、RUDE BOYSの拠点である無名街で、突然大爆発が起こったことから始まります。爆発後、いまはなき最強のチーム「MUGEN」のリーダーであり、親友の龍也の死により、自暴自棄になって街から姿を消していた琥珀(AKIRA)が現れます。かつては「MUGEN」のメンバーとして共に過ごしてきたコブラ(岩田剛典)やヤマト(鈴木伸之)への琥珀の態度も豹変していまいました。そして、SWORD地区の支配を目論む海外組織「張城」や「MIGHTY WARRIORS」との関係を深めていたのです。実は、琥珀にはある思惑があり……というのが『HiGH&LOW THE MOVIE』のストーリーです。

◎『HiGH&LOW』は祭である

無名街で大爆発が起こり、RUDE BOYSのメンバーの“家族”たちが何人も亡くなったというセリフがあります。しかしこの映画では、ケンカや抗争ばかりが描かれているというのに、人の死を感じることがありません。もちろん、ドラマシリーズには亡くなった人もいるし、この作品でも琥珀の親友の龍也が亡くなったという回想エピソードは随所に出てくるのですが、この映画では、ケンカで人と殴り合った結果の死というものは描かれていないのです。

しかも、ケンカに次ぐケンカのシーンを見ても、あまり痛そうに見えない。ハマった人がリピーターになっていくのも、目を背けるような痛々しさがないというのが大きいのではないかと思います。

しかし、なぜ痛そうでないのか。それは、アクションが実に巧いということが関係あるでしょう。特に個人的には、リーダーのスモーキー(窪田正孝)率いるRUDE BOYSの乱闘シーンが顕著です。RUDE BOYSには、ピーという赤い髪の登場人物がいるのですが、ピーを演じるZENはアクロバティックな動きをするパルクールパフォーマーでもあります。彼が繰り広げるアクションの流れが非常にスムーズで、圧巻で、初めてみたときは「あの動きのすごい人は誰?」と衝撃を受けました。よく考えると、ZENに象徴される、ダンスのように美しいアクションが繰り広げられることで、ケンカのシーンを見ても、「痛い」というよりも「すごい」「きれい」「もう一回見たい……」となるのかもしれません。

その他のアクションシーンも、大人数が参加しているワンカットでの撮影は目を見張るものがあるのですが、「撮影現場での安全が確保された上でやっているんだろうな」という想像がなぜかできました。「暴力性を描くためには、生々しいアクションがいい」というときもありますが、魅せるアクションには準備や段取りが必要です。

これらの要素や、達磨一家の日向(林遣都)による「SWORDの祭は達磨通せやー」というセリフを考えていくうちに、この映画は「祭」なんだ、と思うようになりました。

◎男と女は、アイドルとファンの関係

以前、『ディストラクション・ベイビーズ』について書いたとき、松山市の三津浜で行われている祭のシーンについて言及しました。このシーンについてライターのヒナタカ氏は、シネマズ by 松竹の『柳楽優弥と菅田将暉が世界を挑発「ディストラクション・ベイビーズ」、地元出身者が豆知識を紹介!』という記事の中で、「けんか神輿が始まった理由には、農民と漁師の揉めごとが絶えなかったため、一年に一度だけ神輿をぶつけ合って豊穣を願う儀式をつくった、という説があります。いわばけんか神輿は、暴力を“社会的に許されているもの”に変換したものなのです」と指摘しています。

この指摘、まるで「SWORD地区」の面々と、「MIGHTY WARRIORS」「DOUBT」の抗争のようではありませんか!!! この抗争は、琥珀の目論見と関係していて、物語的には意味のあるものです。ただ、映画という社会的な枠組みの中で、LDHの面々や若手俳優たちが、安全性が確保され、ルールのある中で、体と体でぶつかり合う。これが、儀式でなくてなんなのでしょうか。

しかし、儀式となると、女性の立ち位置がどのように描かれるのかが気になるところです。高校野球は、本来は、他の協議と同じくスポーツの大会であるのに、こと甲子園とあると急に儀式的な要素が強まってしまい、女性マネージャーがグラウンドに入ったことや二万個のおにぎりを握ったことがニュースとなって物議をかもしました。

『HiGH&LOW THE MOVIE』では、喧嘩に女性が混じっていけないということはありません。「MIGHTY WARRIORS」のセイラ(大屋夏南)のように、身体能力に優れ、戦闘意欲のある女性は、戦いに加わることがなんの障壁もなくできます。かといって、セイラのように戦闘能力のある好戦的な女性ばかりとは限りません。そんな体力にも自信がないし、戦闘する意思のない女性たちには、おにぎりを作って帰りを待っているという選択肢も与えられていました。このケンカ祭りでは、女性たちが参加方法を自由に選択できるのです。私は、ピンクの特攻服を着た女性集団の「苺美瑠狂」(いちごみるくと読みます)のメンバーが、なんの心構えもトレーニングもなしに、抗争に無理やり飛び込む展開でなくて、心底安心しました。だって、彼女たちも「ケンカに加わるの、いやだなー」という空気を醸し出していたじゃないですか。

このおにぎりは、高校野球のマネージャーのおにぎりとどこか違うように思えます。なぜなら、「苺美瑠狂」の中の二人のメンバーは、橋の上から、アイドルのライブ会場に来たファンのように戦う男性たちを見ていました。つまり、「苺美瑠狂」は喧嘩三昧の集団を支える女性組織ではあるけれど、実は、戦う男たちのファンであり親衛隊、つまり私たち『HiGH&LOW』ファンと同じ部分もあると考えれば、あのおにぎりは、ファンからアイドルへの差し入れ、プレゼントともとれます。戦いにいく男たちを陰で支える女性といった、ジェンダー的なモヤモヤはその点においては個人的には薄まりました。

◎次の祭は10月8日から!

琥珀は、兄弟を傷つけてしまった責任は自分にあると感じて、自暴自棄になって暴れて殻に閉じこもってしまい、のちにまた兄弟(のような存在)の愛によって、目が覚めるという意味で、『アナと雪の女王』のエルサのように見えました。

この映画の最後には、「SWORD地区」の面々と、「MIGHTY WARRIORS」「DOUBT」の抗争は、琥珀が解き放たれ(まるでエルサのように)、正気に戻ったことによりあっけなく終結します。そして、朝もやの中、各々はすっきりしたいい顔で、家路に帰っていく。その姿を見ていると、社会的に許された中でルールに従って暴力性をぶつけあう「祭」の終わった後のように感じました。10月8日から始まる秋祭り(『HiGH&LOW THE RED RAIN』)がいまから楽しみです。
(西森路代)

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