姫野カオルコ×中瀬ゆかり「親は永遠のミステリー」『謎の毒親』(姫野カオルコ著)刊行記念トークショーレポ

「娘なのに可愛いと思えない」毒親に悩み続けた姫野カオルコが、亡き母の日記に見た一筋の光

2016/01/16 17:00
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『謎の毒親』(新潮社)

 しかし姫野氏は「彼女は無理に美人に見せようとしていないのに、大いなる自己肯定感が出ている。父親から愛されて育った娘の、とてつもない強さ」と独自の感覚を静かに語った。そういう人を見ると、逃げ出したくなる感覚に襲われるのだそうだ。そして、母親は苦手だが父親のことは好きだという中瀬氏を羨ましいと言い、「父親が好きな娘というのは、私には絶対に手に入らない前向きな力を持っているので、かなわないと感じるし、憎らしさも覚える」と吐露。すると中瀬氏は「私も母親とは3時間ほどしか同じ空間にいられないので、友達のように仲が良い母娘は憎らしい」と、姫野氏の気持ちを理解している様子だった。

 姫野氏について特筆すべきなのは、母親だけでなく、父親もまた毒親であったという点だろう。本書には、父親がヒカルちゃんから言葉の間違いを指摘されても絶対に謝らず、娘に決して口答えをさせない描写が出てくる。父親は突然大声をあげて娘に怒鳴ってくることが常だったが、母親は父親を恐れ、その様子を見ても娘を守ってくれなかった。本書には「厳しいというのとは違うと私は言いたい」と書かれている。もっともな理由で怒られているのであれば「厳しさ=愛」として大人になって納得できたりするものだが、姫野氏の場合はそうではない。愛された感覚がないまま「うちの親は訳がわからない」という思いを幼い頃から抱き続け、大人になった今でも親の言動は「謎」として、その呪いがかかったままなのだ。

■毒親の娘が抱く“親になること”への恐怖心
 イベント終盤では、会場から姫野氏への質問タイムに。「好きな男性に父親と似ている部分を感じたことはあるか?」という質問には、「まったくない。そもそも年が少しでも上の男性にはまったく甘えられないので、付き合う/付き合わないという考えにさえならない」のだという。ちょっと父親に似た部分を発見すると、途端に恋愛対象としては嫌になるそうで、「父親にこだわり続けているという意味では、ものすごくファザコンだと思う」と、父親への執着の強さからくる恋愛への影響を語った。

 また、「『親になったことがないから親の気持ちがわからない』という考え方について、どう思うか?」という質問には、「その通りだと思う。でも、ミステリー小説を書く小説家が『人を殺したのか?』と言われることはない。あらゆることで経験と共感は語られていいのに、こと『親の気持ち』問題だけが大きく言われていることに質問者さんは疑問を感じているんですよね」とその意図を分析。

 そして子どもがいない姫野氏は、自身が親になることについて「産んでも愛せないんじゃないかではなく、産んだらその子は罪を犯すんじゃないか、何か良くないことが起きるのではないか、と漠然と悪いことを考えてしまう」のだという。これは、常に悪いことを見つけ、理由をつけては自身を怒ってばかりいた両親によって培われてしまった思考過程であり、何でも物事の悪いことを想像する習性がついてしまったからだそうだ。

 褒めてもらった記憶が皆無とはいえ、「食べさせてもらい、私立大学にまで入れてもらったので、とても感謝している」と語る姫野氏は、二十余年もの間、両親の介護を続け、先に父親が、昨年母親が他界した。

 そして母親が亡くなった後、実家を整理していたら母親の日記が見つかり、そこには「どうして自分の娘なのに全然可愛いと思えないんだろう」と書いてあったのだそうだ。それを目にした姫野氏は悲しむどころか、とてもホッとしたという。「幼い時から親に対して馴染めないことの原因は、自分の嫌な性格だと思い悩んでいた。でもそうではなく、相性だったのだと理解できた」(姫野氏)ことがうれしかったのだそうだ。なぜあんなに理不尽に怒られてきたのか、なぜ母親を好きになれなかったのか。姫野氏が抱き続けていた謎に、一筋の答えが見え、心が解放された瞬間だったのかもしれない。

 姫野氏のように、親の言動を完全に理解はできなくても自分なりに解釈し、自ら毒を抜いていくことは不可能ではない。イベントの最後に姫野氏が、「親の毒とは、脱却はできないけど、減少はできるもの」と総括していたことが、毒親を持つ人にとっての救いとなるのだろう。
(石狩ジュンコ)

最終更新:2016/01/16 17:00
『謎の毒親』
「母と娘は相性が合って当然」の思い込みが苦しいのかも
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