「売春婦という職業は望ましいのか」という問い自体が偏見にまみれている 『職業は売春婦』

 ここ数年、性風俗に関する本が数多く出版されている。『援デリの少女たち』(宝島社)などで、援助交際をする少女たちの背景にある貧困問題を描き出すライターの鈴木大介、ワリキリをして生活する女性100名以上へのインタビューを積み重ね、彼女らがワリキリに至るのには、社会に引力と斥力があることを鋭く指摘した荻上チキ著『彼女たちの売春(ワリキリ)』(扶桑社)、また荻上とともに、性にまつわる様々なデータを収集・分析した飯田泰之・荻上チキ著『夜の経済学』(扶桑社)、現役風俗嬢として風俗を肯定的に捉えた水嶋かおりん著『風俗で働いたら人生変わったwww』(コアマガジン)など、読んだことがある人もいるだろう。

 こうした本の中には、読み手を「これが現実なのだろうか?」と懐疑的にさせるものがある。それは「ここまで過酷な世界が、現代日本にあるのか」と驚愕させるという意味でもあり、「ただ過激なものだけをとりあげているだけではないか」と疑念を抱かせるという意味でもあるのだが、いずれにせよ、こうした印象を私たちが抱くのは、「性風俗」を特殊な世界として捉えてきたことの証拠なのだろう。それほどまでに「性風俗」の実態を私たちは知らない。

 さらにこの性風俗関連書籍の出版バブルは、今まで私たちが「性風俗」とひと言で片付けてきた夜の世界が、非常に多様であり、十把一絡げに語れるものでもないということも、次第に露わにしてきた。貧困が故に性風俗で働かざるをえない人もいれば、自ら望んで性風俗という職業に就く人もいる。当然ながら、彼ら彼女らの人間性もそれぞれ違う。これらを一様に「性風俗」と片付けてしまうのは単純で暴力的である。

 あた「性風俗」で括ってしまうと、そこで支援を必要としている人に対して、ニーズにそぐわない支援を行いかねない。例えば、貧困に陥ったために仕方なく身体を売る人と、誇りをもって働いているが労働環境が劣悪なために生きにくいと考える人では、届けるべき支援はまったく異なる。そして当然のことだが、これはどちらか一方のみを行えばいい、というものではない。

 しかし、私たちはなぜ「性風俗は、不幸なものである」と考えがちなのだろうか。いま私は「望む/望まないセックスワーク」という2項対立で、必要な支援について書いたが、この構図を安易に使ってしまうことも、実は「性風俗」を特別視している証左になるのかもしれない。

 このような社会が「性風俗」にどのような欲望を抱いてきたのかを描いたのが、今年8月に訳された、元セックスワーカー(本書の中でこのことを能弁には語らない)であり、ライター・ジャーナリストのメリッサ・ジラ・グラントが書いた『職業は売春婦』(青土社、桃井緑美子訳)だ。

 本著を読み進めていくうちに、自身が「性風俗」に抱く価値観が露わになっていく。書籍タイトルにあるように、「売春婦」が「職業」であるならば、「望む/望まないセックスワーク」という単純な二項対立は、乱暴なものだ。なぜなら、セックスワークとは異なる他の職業について、私たちはこのような二項対立を用いることはあまりない。仕事が辛いとき、「こんな仕事、早く辞めたい」と考えることはあるが、同時に仕事が順風満帆に捗っているときは充実感を覚える。おそらく多くの人が、この両極のどこかを行ったりきたりしながら働いているのであり、「○○という職業は望ましいのか」という問いを立てることはあまりないだろう。

 本書は、このような私たちが持つ「風俗観」を露わにしていく。同時に、「性風俗」という世界の一筋縄でいかなさに気がつく。だがそれは、私たちがこの世界のことをまだよくわかっていないし、どこから手をつければいいのかも暗中模索の段階にあるということなのだろう。200ページ弱の本書の中で、あなたはおそらく何度も、執拗に、否応なく、自問自答を繰り返すことになるだろう。自身と社会の偏見に気がつくはずだ。
(門田ゲッツ)

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