男子からの「好き」を集めて自己肯定の材料にしていた。元サークルクラッシャー・鶉まどかの考えていたこと

 サークルクラッシャーという存在がいます。何らかのコミュニティを、主に恋愛関係によってぶち壊す(=クラッシュする)人のことで、そのほとんどが女性を示しています。とはいえ、私自身が通った大学で所属したサークルにサークラらしき影はなく……その後に就職した先にも「クラッシュしてやるぞ」と意気込む女性の気配はまったくなく……半ば都市伝説的な存在なのかな、と勝手に思うようになっていました。それだけに、7月に上梓された『岡田斗司夫の愛人になった彼女とならなかった私』(コア新書)は衝撃でした。

 著者の鶉まどかさんは、サークルクラッシャーでした。どのようにしてサークルをクラッシュするのか、どうしてクラッシュするのか、サークラに惚れちゃう男性の特徴やサークラの方法論などなどが書かれた本書は大変興味深い。同時に、ここに描かれる社会現象は、サークラに留まりません。タイトルに「愛人」とあるように、権力者に口説かれて愛人化してしまう若い女性たちに対しての警鐘も鳴らしています。

◎サークルはどこにでもある

――4年生大学をスムーズに卒業し、現在は上場企業にお勤めだという鶉さんは、ブログにて「サークラの極意」をこつこつ書き溜め、今回この本にまとめたんですよね。勤務先ではこのことを公表しているんですか?

鶉 非公式ではありますが、してますね。昨日部長に本も渡してきました。「えー!? サークルクラッシャーだったの?」って言われて(笑)、「あーそうですね、すいません」みたいな、恥ずかしさはあったんですけど(笑)。

――今こうやって顔出しで活動してらして大丈夫?

鶉 多分、大丈夫です。一応、事前に上司とかに話をして、「こういうことなんですけど、大丈夫ですか?」って。部長も割と心の広い人なので、「いいんじゃない」と言ってくれて。

――それは良かったです。まず最初に、鶉さんが渡り歩いた「サークル」についてお伺いしたいのですが。鶉さんがサークラしていたのは主に大学生時代ですが、対象となったサークルは大学のそれだけじゃないんですよね。

鶉 基本的にオタサーですね。アニメとかゲームとか。大学とか会社とかの所属先は関係ナシに、オタク趣味の人が集うサークルってたくさんあるんですよ。もともと、私がアニメやゲームを好きで、少しは知識があったのでわりとすんなり入りやすかったです。多分これが鉄道オタクのサークルだったら、私は入れなかった。

――知識を一から頑張って覚えないといけないから?

鶉 そうです、覚えなきゃいけない。無理だなって。アニメとかゲームが好きな子って自分から能動的にその趣味を選択していない人が多いんですよ。何でかと言うと、アニメって、初期投資がいらないじゃないですか。まぁゲームは多少かかるんですけど。

――テレビでやってますもんね。

鶉 そう。アニメを放送時間に視聴して、Twitterで「〇〇たん萌えす~」って実況ツイートしていれば友達が出来るじゃないですか。

――じゃあサークル入りするきっかけは常にネットのTwitterとかですか?

鶉 Twitterとか、ちょっと昔ならmixiとか。あとは普通に、インカレみたいな複数大学のオタサーみたいなのがあったりして。

――インカレのオタサーっていうのもあるんですね。

鶉 そうなんです。インカレって言うとオシャレですけど、単純に学校の枠を超えたオタサーみたいなだけです(笑)。いろんな大学のオタクが集まってるっていう。それから私は一時期、同人活動というか、小説の二次創作をしてコミケに出展していたんです。だから同じように同人誌をつくっている人とか、私の小説を読んでくれた人とかと「じゃあコミケ終わったら打ち上げ行きましょう」ってなって飲み会になって、ユルく繋がったり。

――鶉さんは社交的なんですね。コミケに出展するのは、サークルに所属しないといけないのかと思っていましたが、たった一人で出来るものなんですか。

鶉 個人で出来ます。お金さえ払えば出来るので。コミケとか同人イベントって、狭いパイプ椅子と机を一個渡されて自分のブースをつくるだけなので、そこで一日、たとえば11時から3時までいると両隣の人と仲良くなったりしますね。あるいは自分の二次創作物の宣伝をTwitterに書くことで、同じカップリング好きな人や、小説書いてる人と交流が持てたり、「じゃあ一緒に何人かで同じテーマで本を出しませんか」って、ゆるっと繋がりが出来ていく感じですね。オタクっていうとコミュニケーションが下手そうなイメージがあるかもしれませんけど、そうやって普通に繋がって、コミュニティを広げていくんですよ。

――そうなんですね。鶉さんのやっていたジャンルは何だったんですか?

鶉 「東方Project」というゲームの二次創作で、イベントのお客さんは圧倒的に男性が多くて、男女比8対2くらい。

――それは女性が少ないから、繋がりを持つだけでモテそうですね。好きなジャンルがBLだったり、男性ファンの少ない分野だったりすると、男の子とは繋がりがなくなるのかなと思って。

鶉 なくなりますね。実は私、高校生の頃はBLの二次創作をしてたんですけど……気付いたんです。これではモテないっていうことに。

――趣味の活動の場で、モテたかったんですか?

鶉 なんでもいいからモテたかったですね。

そもそもサークラとは?

――高校生までは、全く恋愛関係のときめきと無縁だったと。女子校だったこともあるし、男性にウケる外見でもなく、社交的でもなかったんですね。でも高校卒業間際にダイエットをして綺麗になり、大学入学後にサークルクラッシャーとなって……それも今はご卒業されたと。鶉さん、今おいくつでしたっけ?

鶉 24歳です。東方の同人活動を始めたのは21歳になる直前くらいでしたね。

――この本を読むと、大学入学した18歳から今日まで、猛スピードで駆け抜けた印象を受けます。サークラを始めたのは何歳で?

鶉 19歳の終わり頃からでしたね。だから期間としては決して長くないというか、サークラ期間は2~3年くらい。

――ダイエット成功して、いきなり自信がついたんですか?

鶉 そんなすぐには自信つかないですよ。高校までは超太ってて、そのうえ母親からも「あんたは太ってて醜い」って呪詛を吐かれて育って、自己肯定感が一切なかったんです。自分が一般的な普通の男の子に愛されるワケないという大前提のもと、生きてました。イケメンでもない、普通にそのへんを歩いているごくごく普通の男の子であっても、私のことなんて好きになるハズないだろうと思ってました。でもその一方で、痩せて普通の洋服を着られるようになったし、家にいたくないし、何かバイトとかしたいと思って、キャバクラの面接に行ったんですよ。

――いや、何でキャバクラに……? キャバクラで働くのって、ある程度、自分にの容姿に自信を持っていないと、第一歩のところを踏み出せないと思うんですが。

鶉 太ってた高校時代、通りすがりに、男子校の生徒集団から「何あいつキモい」と聞こえるように言われたり、物を投げられたり、ワザとコーラをぶちまけられたりしたことがあるんです。超怖かった……。ところが高校卒業間際、痩せた私に、その男子校の別の生徒がラブレターを渡してきたんですよ。「嘘でしょ!?」ってすごい不思議に思ったけど、痩せたからなのかなって。でもそれで、いきなり男の子と普通に話せるわけじゃない。だから、「男の子といっぱい話す練習をできる場」「あるいは自分が女の子として認められる場」で、自尊心を育みたい! っていう流れでの、キャバクラですよ。

――なるほど。容姿に少しの自信がついたし、次のステップを踏みたいと。

鶉 キャバクラはお給料が普通のバイトよりは少し良い、という理由もあります。大学進学したら、もう母親から解放されたいって気持ちも芽生えて、女友達の家を泊まり歩くようになったんですね。でもそうすると生活費やおこづかいは自分で捻出する必要があると。そんな時に、オタク向けのキャバクラがあると知って、面接を受けに行きました。オタク向けのキャバクラっていうのは、きらびやかなキャバクラのイメージとはちょっと違います。キャストとして働く女の子は全員、アニメ・漫画の知識がないと面接に受からない。衣装ももちろんドレスではなく、かといってナースとかメイドとかのコスプレでもなくて、全部アニメやゲームに登場するキャラクターの衣装で、そのキャラについて語れる子じゃないとそれを着ちゃいけないっていうルール。

――非オタク女性には敷居が高いですね。鶉さんはアニメや漫画の知識があったから、受けてみようと思ったんですね。

鶉  はい。そして奇跡的に面接に受かることができて、半年間、キャバ嬢としてサークラの基礎を学びました!

――サークラの基礎とは?

鶉 女の子は、男の子のイメージ通りに振る舞う、ということです。

――アニメキャラになりきるように?

鶉 そうですね。そこのキャバクラに来るお客様は、ガチのオタクでお金もそこそこ稼いでいる業界人の人が非常に多かったです。たとえばフィギュアの原型師さんとか、結構有名な漫画家さんとか、そういう人が非常に多くてですね。しかも皆、語りに来てるので、ビックリする程セクハラとかがないクリーンなキャバクラ。

――働きやすそうな環境ですね。

鶉 でも入店する時に店長から言われてびっくりしたのが、「指の毛は絶対に剃れ」ということ。

――なんで特に「指毛」?

鶉 「オタクの男の人は、女の子に指の毛が生えてるっていうだけで悲しんで、自分の理想と違ったって言って帰っちゃう人がいるから」だと説明されたんです。何それって思うじゃないですか(笑)、三次元の女性なんだから指に毛も生えるし、汗もかくわーみたいな。でも実際そういうお客様たちを接客していくと、「あ、本当にこの人たちは二次元の理想の女の子たちに自分が受け入れられるっていう夢を捨てられないんだ」ってことがわかりました。

――現実に存在する人間女性の真の姿は拒絶したくなるんですかね。

鶉 そうですね。そこで働いているうちに、「じゃあキャバに来ないようなオタクの男の子たちってどうなんだろうな」って疑問を抱いて、好奇心からあるアニメ系のオフ会に行ってみました。そうしたら実際、キャバクラに来ている人たちはオタクだけれどもお金があって、「キャバクラに行こう」って思える人たちなので、まだ意識が高かったなっていうのを思い知りました。私がクラッシュしていった「普通のオタクの男の子たち」は、もっと「女の子への理想と憧れ」が強烈だったので。

――クラッシュと言いますけど、それは「自分に男を惚れさせて、サークルというコミュニティを破壊する」という意味で合ってますか?

鶉 壊したいわけじゃないけれど、「男の子から好きって言われたい」という欲望で突き進むと、結果的にサークルが壊れてしまうという。

――サークラの最初は、飲み会で全然仲良くしゃべってたわけじゃないのに、一言会話を交わしただけの男の子にいきなり告白された経験から始まってるんですよね。

鶉 はい。「好き」って言われるのって、めちゃくちゃ楽しいんだなと知ってしまって。正直、私は自己肯定感がすごく低かったけど、でもオタクの、カーストの低そうな男子のことをバカにしているというか下に見ている気持ちもありました。なので、「これくらい(レベルを)下げれば私のことを好きになってくれる男子がいるんだ」とわかって。あとは、女性比率の低いオタクサークルに遊びに行ってみて、「ああ、ここなら私は“女の子扱い”してもらえるんだ」って実感できたのもうれしかった。

――オタサーの姫、と呼ばれる存在とサークラ女性は違うんですよね?

鶉 誤解されがちですけど、違うんですよ。私はシンプルな服装をしていたけれど、いわゆるオタサーの姫って呼ばれるような子たちとかは、超フリフリの服にスニーカーを合わせて、ポニーテールですっぴんみたいな、個性的な格好をしている子が多いです。普通の、ファッション誌に興味のある男女だったら「えっ?」って思うような格好だけど、そういう子が超チヤホヤされる。ただ、オタサーの姫は男集団の紅一点なので、彼らにとっては誰でもいいんです、女の子であれば。それくらい彼らの中での女の子に対する求めるものってすごく「女の子である」ってことが大切なので。

――彼ら、というのは、鶉さんに「クラッしゃられた(=クラッシュされた)」サークルの男性たちということですよね。

鶉 はい。そして「女の子である」ことと、もう一つ大事なのが、「自分たちをキモいって言わないこと」。本にも書いたんですけど、共学校で学生時代を過ごした場合、彼らの多くは女子生徒から「あいつキモいよね」って言われた経験を結構引きずってる。私もそうだったので、気持ちはわかります。

――なるほど。

鶉 「あいつキモいなー」とか「あいつオタクなの?」とか「アニメとか見てるらしいよ」みたいな陰口を、あるいは面と向かって言われた経験を、ものすごく根に持ってるんですよね。非常に傷つき、被害者意識をこじらせてるんです。「俺と喋ってくれる女なんてどうせいねーよ」って思ってる。なので、オタサーの姫でも私でも誰でもいいんですけど、女の子が趣味の場に来て同じ趣味の話をしてくれるっていうだけでも株がガーンって上がるんですね。

――それこそめちゃくちゃ嬉しいんですね。

鶉 めちゃめちゃ嬉しい。異性が自分に関心を示してくれたっていうことがとても嬉しいんですよ。で、オタサーの姫がいる光景を身近で見られるところはゲーセンですね。たとえば音ゲーのコーナーに、紅一点でチヤホヤされてる女の子がいます。見た目的には、多分ほんとに渋谷を普通に歩いてる女子高生とか女子大生の子たちの方が何倍も可愛くても、もうそれは関係ないんですね。彼らにとっては見た目よりも、まず自分を受け入れてくれる女の子が大事なので。

――鶉さんはオタサーの姫にはならず、サークラの道を選択してますよね。それはやっぱり「好き」を欲していたけど、「付き合う」は欲してなかったから? つまり、「好き」をもらうための行動をいろいろ画策するものの、実際に「好き」と言われても鶉さんはその男子と交際しない。するとだんだん気まずくなったりしてそのサークルを離れたり、サークル自体が崩壊したりする。どうして鶉さんはサークラにハマッたんでしょうか?

鶉 「あ、好きって言ってもらうのって、こんな簡単なんだ」って思って、ちょっと面白くなって。で、サークルの男子を攻略する(=「好き」と言わせる)3つのやり方パターンがわかったんです。【1】自分から二人っきりで会うきっかけを作る、【2】相手の理想通りの振る舞いをする、【3】恋愛感情がないとは伝えない。これを編み出し、次々にクラッシュさせて。

――それをすることに抵抗はなかったんですか? 男性の気持ちを弄んでいる罪悪感とか、あるいは変質的に好かれてしまう気持ち悪さとか。「好き」って言われることは鶉さんにとって、純粋に嬉しいだけだったんですか?

鶉 純粋にめちゃめちゃ嬉しかったですね。私ほんとに、花の女子高生時代に近くの男子高校生に石を投げられたりしていたので。

――まあ、その近隣男子高校生の件は本当にひどすぎますよね……。

鶉 そういうことがあったから、同世代の“フツーっぽい見た目の男性”は怖すぎるわって思ってました。大学入って、友達も出来たけど、家族とは上手くいってないし、私このまま孤独に死んでいくんだろうかっていう気持ちが強かったので、私のことを「好き」と言ってくれる男子が現れただけでめちゃくちゃ嬉しい、「あーやったぁ!」っていう感じでしたね。

――でもそこで、「好き」を繋ぎとめたいと思えば男女交際に発展させてたかもしれないですよね。「ありがとう、私もあなたのことが好き、付き合おう」ってならなかったのはどうして?

鶉 もっとたくさんの人からの「好き」が欲しくなったからです。それに、私のことを「好き」と言ってくれた男子のことを、私自身が好きかどうかと言ったら全然そうじゃないし。やっぱり自分も好きな相手とじゃないとお付き合いはできないですよね。私は「好き」っていう言葉が好きで、その言葉をたくさん集めたかっただけなんだと思います。サークラをしていく過程で、私に恋してくれた男の子のことを私も好きになったことはなかったです。すごく付き合いたいって思う男の子は出てきませんでした。で、サークルとは別のところで「すごい付き合いたい!」と思う男の子に出会って、初めて彼氏彼女になりました。そうしたらサークラをする必要がなくなったので、いったんサークラ活動を止めたんですよ。自分の中では、その彼との一対一の関係が大切になったし、彼からの「好き」が嬉しくて他の人の「好き」は必要なくなったんです。彼が私を好きで私もこの人が好き、これで十分満たされたので。

――好きでもない男性からの「好き」の言葉は、たくさん集めて自尊心を高めるために利用することは出来たけど、一対一の「好き同士」の関係の方がよほど心地よいものだったと。まあ一方的に相手から好かれてもね、私だったらすごくイヤだなと思う。サークラ時代、ストーカー被害に遭ったりはしなかったんですか? 気がある素振りを見せておいて振るんだから、恨みを買うこともあったのでは、と思うのですが。

鶉 ストーカーっぽいことは、なくはなかったですけど、そんなに危険な目には遭わなかったですね。

――それは幸いでした。

◎就活にサークラ経験が活きた

――大学へはちゃんと行っていたんですか?

鶉 初めの一年間は、あまり行かずで全然単位が取れなくて。二年生からはこれじゃいかんと一念発起して、めちゃめちゃ大学に行くようにしました。無事に単位を全部取得して卒業して、就職活動もちゃんとやれましたね。

――学外のサークラ活動やバイトに明け暮れていたような感じですけど、大学の友達は、いたんですか?

鶉 いました。普通に男女混合のゼミも入ってましたし、オタクじゃなく、普通の友達が出来ましたね。

――そっち側で「じゃあゼミクラッシュしようかなぁ」とは思わなかったですか?

鶉 クラッシュするための学外のサークルなら、クラッシュ後に人間関係が継続することはないから別にいいんですけど、恋愛関係のいざこざを経ても卒業までずっと一緒にいなきゃいけないゼミの仲間の関係性は、崩したくなかったですね。立場を悪くしたくないから。

――言ってみれば、クラッシュさせるために入るサークルっていうのは、鶉さんにとってすごいどうでもいい集まりなんですね。

鶉 そうです。ワンナイトラブみたいな。

――サークラは男性から「好き」と告白されることがゴール。告白されても、鶉さんは「ありがとう」と受け流すだけで、付き合わないんですよね? セックスなんかもしない?

鶉 しないです。何でセックスをしないかっていうと、セックスをすると相手からの私に対する純粋な「好き」が歪むじゃないですか(笑)。

――歪むかな? 執着が強まる場合もあるように思いますけど。

鶉 「セックス出来ないけどめっちゃ好き」っていうのと「セックス出来るから好き」っていうのは多分、男性の中ではズレてると思うんですよ。一回してしまうと、「次に会ったときにもまたエッチ出来る女の子」って思われる。「ヤレるかヤレないか分からないけど超好き」っていう子でいたかったんです。私がサークラとして自覚していたこと、あるいは他のサークラの子たちと話してあらためて認識したのは、サークラ女子はみんな「純粋に私のことを好きって言って欲しい」という気持ちが異様に強いんです。

――セックスという付加価値なしに、自分を受け入れて欲しいんですね。

鶉 それともうひとつ、「縛りゲーム」みたいな要素もありましたね。若い女の子が持っているセックスの価値が非常に高いとされているこの世の中で、セックスをチラつかせれば、いやセックスまでいかなくともキスとかをすれば、すぐクラッシュ対象の男の子がコロッていっちゃうのはもう目に見えてるんですよ。だから、それをしないで私の持っている他の資質、たとえば会話のやり方とかで相手の好きゲージをどれだけ上げられるかみたいな、一種のゲーム的な感じを楽しんでいるところもあったんです。「セックスはしない縛り」というルールありきで、他の技術、会話、デートに誘う、夜電話を掛ける、メールをする、そういったことを駆使して、どこまで相手の「好き」のボルテージを上げられるかっていうゲームでしたね。

――そうなんですね。鶉さんは、自分の狙った通りに「好き」と告白してくる“クラッシャられ体質”の男性たちのことを、本心ではどう思ってたんですか?

鶉 最初は「え、バカじゃん」って思ってたんです。だって、本にも書きましたけど、初対面で「焼酎お好きなんですね」って一言声を掛けただけで後は何も喋らなかった男性が、帰りの電車でいきなり告白してきたんですよ。意味が分からないじゃないですか。でも同時に、それが先ほども言ったように嬉しくもありましたし、面白くもありました。「焼酎お好きなんですね」で、好きって言われちゃった、って。じゃあ、サークルの集まりで女性経験のまったくなさそうな男の子たちに「休みの日何してるんですか?」とか、「今度一緒に遊びに行きませんか?」って話しかけたらどうなるのかな? もっともっと「好き」を集められちゃうのかな? と。そして実際、そうなった。

――他にどんなことをすると「好きになられちゃう」んですか?

鶉 相手の肩に、手をポンッと置くとか。そのくらいの軽いボディタッチは、すごく意識されます。飲み会でお酒飲んでて「一口貰っていい?」って言ったらもう好きになられちゃう。でもすぐに告白してくるような勇気のある人は絶対数が多くないので、何度もデートに誘ってあげて、彼らに「イケるかも」と思わせてあげる。

――いくら鶉さん自身の自己肯定感が低かったといっても、そういう人たちとそういうやり方で積極的に関わり続けることは面倒くさくならなかったんでしたか? よくそんなこと続けられるな、と思って。

鶉 クラッシュを、ですか? クラッシュというか、そういう人たちを相手にし続けることですか?

――し続けることです。本を読んでいてすごいなって思ったのが、クラッシャられ体質の男性たちを“離乳食系男子”と命名したくだりです。サークラとしての鶉さんは、まさに赤ちゃんの相手をする保護者ぐらい、手取り足取り彼らを嬉しがらせるようなことをやってあげて、「好き」を引き出す。それに対して、鶉さんの女友達が「そんなに努力して何になるの?」みたいなことを言ったと。私も、そんなに頑張って好きじゃない男から「好き」って言われて、別に付き合わないしサークル壊れるだけで何にも残らないのに、よく出来るなあと思っていて。自己肯定感を高めたかったというけれど、好きでもない人からどんなに「好き」を集めて貯めても、そのうち虚しくなるんじゃないかな、充足感に繋がらないんじゃないかなと思って。それを今日は特に聞きたかったんです。

鶉 私も結局、さっきも少し触れた初彼が出来たことで、サークラはすっごい虚しいっていうことに気付いたんですよね。その人と会った時に、「こうやって誰かと一対一で深い関係を築くのってすごい楽しいんだ」とわかって、これまでしてたことってそんなに楽しくなかったなってすごい思ったんです。その彼は同世代だったけどもう私はサークラ経験によって「男の子怖い!」って恐怖心を少しずつ拭えていたし、彼はサブカル系男子で物知りで、一緒に喋るのが楽しくて、食事に行ったりしても普通に楽しいんです。私がリードして手取り足取り離乳食を与えてあげなくても、すごく楽しい。「あ、普通に対等に人間と話せるってこんなにいいことなんだ」って。ただ、その彼に振られてから、また自暴自棄みたいになってサークラを始めたりもしちゃうんですけど(苦笑)。

――それで東方の方に行ったんですか?

鶉 そうなんです。ちょうどその頃、mixiが衰退してきていて、前みたいにオフ会がポンポン開かれることが無くなっていて。mixiってほんと趣味の合う人たちで出会うという点ではすごいいいコミニケーションツールだったんですけど。Twitterにもツイプラとかがあるんですけど、なかなか全盛期のmixiのようには機能しなくて。で、私も大学に真面目に行き始めたのと、就活を控えていた時期ということもあって、「同人だったらゆるっと仲間が作れるな」と思い立ち、そっちに流れました。

――大学に真面目に通いながら就職活動もして同人活動も頑張る、って、精力的ですよね。就活では病まなかったですか?

鶉 就活はそんなに病まなかったですね。わりとトントンと決まったんですよ。というのも、いざ就活をしてみたら、「私これ、得意かも。出来る!」って思ったんですね。

――就活得意とか聞いたことないですよ(笑)。どういうことですか?

鶉 就活って、自分の人生の一部を切り取って自分の良さをPRするものじゃないですか。その点で、サークラ活動と通じるものがあったんですよ。サークラって自分の良さを相手に合わせてうまいことPRしまくるようなものなので、私は知らず知らずのうちに自己PR手腕がすごく鍛え上げられていたという(笑)。就活で病むって自分を取り繕うっていうところに病む人が非常に多いんですよね。

――私もそれでした、PRできるところなんか無いよーって。

鶉 大した経歴もないのに、立派な経歴があるように見せなきゃいけないとか。大学生活で得た成果なんてなくても、「何をどう頑張ってこんな成果が~」とPRしなきゃいけないし、「御社の魅力」も語らなきゃだし。でも、私は初対面の人たちのいいところを見つけて話すっていうことを2年間続けてたおかげで、志望動機もスラスラ書けましたね。

――すごい特訓をしましたね。

鶉  そうなんですよ。サークラが、就活に活かせたっていう。いい悪いはともかく。うん、サークラ活動では、どんな人でもいいところを見つけて褒めてあげる・どんな相手でも、相手の好きな女の子のタイプっていうのを察知して理想通りに動くのが基本だったので。これを応用して「面接企業の欲しい人材になる」就活をしました。もとの自己肯定感がすごい低かったぶん、自分が全然大した人間じゃないことなんてわかりきっていて、「ありのままの私で勝負して認めてもらわなきゃ」って幻想が無かったので、「ありのままの自分を取り繕って話すのが辛い」という気持ちにもならなかったのが、就活においては良かったかもしれないですね。

――今、そうして希望していた会社に入社して広報の仕事をしていて、それは満足してますか?

鶉 楽しんでますね。やりたい仕事にやっぱり就けたっていうのはすごい良くて。広報をずっとやりたかったので。PRが好きなので(笑)。

――天職かもしれませんね。

◎毒状態だった母親の変化

――高校まではすごくお母さんとの関係が悪かったんですよね。で、大学に入る時に痩せられて、すごい綺麗になって、お友達もいっぱい出来て、社交的になって、鶉さんは変わったわけじゃないですか。それでお母さんとの関係も変わりました?

鶉 大学一年生の、ほとんど実家に帰らず女友達の家を転々としていた時に、このまま家を出るか、家に戻るか二択だなってずっと考えていたんですけど。ただやっぱり実家は実家で、母と折り合いが合わなかったとはいえ、めっちゃ暴力を振るわれたとか金銭的にタカられるとかそういうのではないので、戻ろうと決めて、二年生から実家に戻ったんです。母は子供時代の私に過度な期待を押し付けていて、私がその期待に応えられなかったことで関係が非常に悪くなっていたわけなんですが、私も冷静に考えて、それこそ「子供としてありのままの自分を全部受け入れてもらう」じゃなくて、母となんとか折り合いがつけられないかなと思って。結論を言うと、今は関係が良好です。

――お互いに折り合いをつけられたということですか?

鶉 はい。家族関係が好転したのには、私が考え方を変えたこと以外にも、2つの理由があるんです。まず、母が承認欲求を子供以外で得たこと。

――というと?

鶉 私と弟が大学進学して、手がかからなくなったということで、母はもともと好きだったフランス語の習得に励むようになったんですよ。母はフランスがすごく好きだったけど、子供が生まれたことで、やりたいと思っていたことをセーブしていたんですね。そのぶんの抑圧が、子供に向かっていたんだと思います。うちの母は「子供がいるから自分はこういうことしちゃいけない」とルールを決めて律儀に守っている人でした。私と弟が大学生になるまで、夜に自分の友達と出掛けるようなことが20年間ほとんど無かったんですね。同窓会とかも全部断って、「家にいなきゃ、お母さんだから」っていう。母の考える“いいお母さん像”にハマるように頑張っていたんだと思います。

――そんなお母さんが、変わった?

鶉 私と弟がもう子供じゃないよっていう年齢になって、母は時間を持て余すようになって。父が「母はフランス語が好きだから、フランス語をやらせてみてはどうか」と考えて、カルチャーセンターのフランス語に行くことを勧めたんですよ。そしたら母はフランス語にのめり込んで、ぐんぐん上達していって。さらに父が、母に一週間のフランス一人旅をプレゼントしたんですよ。

――お父さん、優しいですね。

鶉 それまで感情の乱高下が激しかった母がめきめき回復していって、フランス語教室のお友達と一緒に夜、フレンチを食べに行くとか、そういうことも出来るようになり。おまけに、ちょうど父がフランス出張の機会があって、母に「通訳として来てくれ」って。

――お母さんにとって、すごい自信になりますね。

鶉 そうなんですよ。出張先で、父は「あなたの奥さんのフランス語はすごい!」と褒められたそうです。母は承認欲求が満たされて、今はすごい元気です(笑)。だからやっぱり、「お母さんだからこれをしちゃいけません、あれもしちゃいけません、昼も夜も子供のために生きなさい」って自らに課すのは不健康だったんだと思います。たとえば、夕ご飯のおかずにハンバーグを作ったけど、ひとつが焼き上がりに崩れてしまった。それを食べるのはうちではいつも母でした。父や子供たちには綺麗に焼けたハンバーグを並べて。

――些細なことだけど、献身というか。

鶉 そうです。そういうことが積み重なって、「自分のしたいことが出来ない、子供のために私は自分を犠牲にしてるのに子供は思うように育たない」ってなると、母親は子供と自分の関係の中で、自分を責めるし子供も責める。子供を責めたことで、また自分を責めるっていう負のループ。だけど、家庭外に自分を認めてもらえる場所を見つけられたことで、母はループを抜け出して元気になれたんじゃないかと思います。私が大学に入ってすぐの頃は、私の帰りが夜11時くらいになると、母は心配と怒りと入り混じった形相で、家の前で立って待ってたんですよ! でも今、私は24歳の実家暮らしですけど、仕事とか飲み会とかで終電帰りになっても、母は普通にぐうぐう寝ている。

――もう子供を管理しなくても安心出来るようになったんですね。

鶉 それはすごく良いことだなって思って。家族内のみで関係を限定しちゃうと、「私を認めて!」って承認欲求が他の家族に過剰に向きすぎて、家族みんながツラくなってしまう。たとえば母みたいに専業主婦で自分のための息抜きもしないタイプだと、夫と子供にすごい期待を向けてしまって、危険なのかなって。

――本人がツラいだけでなく、夫と子供にかかる期待=負担も大きすぎますよね。

鶉 いくら自分が完璧な妻・完璧な母であろうとしたって、夫と子供が完璧とは限らないじゃないですか。そこから逃れられて、母はもう今とても生き生きしていて、すごい良かったなって。これ、いい話(笑)。

――後編では、『岡田斗司夫の愛人になった彼女とならなかった私』という本のタイトル通り、愛人体質の女性と、愛人を求める男性たちについてのお話を伺っていきます。

(撮影・取材・構成=下戸山うさこ)

■鶉まどか/ 1990年、東京都生まれの元サークルクラッシャー。現在は都内で働くOL。

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