[官能小説レビュー]

好きな人がいるのに、なぜほかの男とセックスするのか? どうしようもない女心を描く『言い寄る』

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『言い寄る』(講談社)

■今回の官能小説
『言い寄る』(田辺聖子、講談社)

 恋愛は思い通りにならないことの方が多い。好意を抱いた男性には振り向いてもらえないのに、恋愛相談をしていた相手といつしか恋人同士になってしまうことはよくあることで、決して一筋縄ではいかないものだ。今回ご紹介する『言い寄る』(講談社)も、そんな恋愛小説である。

 主人公は、31歳のフリーデザイナーの乃里子。彼女の元同僚・美々の妊娠が発覚する場面から物語は始まる。美々の頼みで、彼女を振った男との話し合いに同席することになった。その席に美々の元恋人と共に現れれたのは、財閥の御曹司である剛。その後剛と会うことになった乃里子は、流されるままに体の関係を持ってしまう。

 高級車に乗り、質の良い服を身に着け、鍛え上げた肉体を持つ剛。外見は申し分ないが、決して乃里子の思い通りになる男ではない。ある日剛は、乃里子を淡路の別荘に誘うが、彼は乃里子に秘密で別の女を旅館に待たせていた。気の多い剛に呆れる一方、乃里子もまた、剛の別荘の隣に住む妻子持ちの水野にも惹かれ、たびたび体を重ねてしまう。
 
 乃里子は、あちこちから声を掛けられ、言い寄られ、ふらふらと男たちの間をたゆたう。しかし彼女が誰よりも求めているのは、兄の友人である五郎だ。ハワイアンバンドで演奏することが趣味の五郎は、誰にでも優しく、つかみどころのない男。あの手この手で乃里子はアプローチをするのだが、どうしても肩すかしを食らってしまう。

 そんなある日、シングルマザーになることを決意した美々だが、「形だけでも結婚したい」と懇願。相手探しをしている間に、乃里子の自宅で五郎と鉢合わせ、五郎は美々と籍を入れることを快諾する。形だけの結婚だったはずが、五郎は次第に美々に惹かれてゆく。五郎自身は気づいていないが、長い間ひたむきに彼を求めてきた乃里子の目からは一目瞭然だった――。
 
 五郎の前だと力んでしまい、うまく振る舞えない乃里子のキャラクターは魅力的だ。例えば、自宅を訪れた五郎が帰ろうとすると、乃里子が拗ねて怒りだすシーンがあるのだが、その不器用さに、可愛らしさを感じて笑ってしまう。しかしその半面、乃里子に共感して胸がちくりと痛むのだ。

 そんな乃里子も、自分に言い寄ってくる男たちの前では、気持ちに余裕がある分、のびのびと自然体で接することができる。乃里子が妻帯者で包容力のある水野に惹かれるのは、きっと報われない恋をしているときほど、誰かに強く「あなたは素敵だ」と肯定してもらいたいからであり、そこに共感する女性は少なくないはずだ。

 五郎との恋愛がうまくいかない運命を苦々しく感じながら、言い寄ってくる男たちの甘い汁を吸い歩く乃里子。どれだけ心は五郎に一途でも、“操を立てているわけではない”乃里子は、どうしようもなく複雑な女心を体現しているように思う。

 「どうせ恋愛なんてうまくいかない」とどこかしらけていて、ほかの男とのセックスを謳歌しながらも、ひたむきに五郎を愛している。男性から見たら訳のわからない行動かもしれないけれど、どれだけ横道に逸れようと一途に男を愛する女はやっぱり可愛い――そう女性読者に思わせてくれる1冊である。
(いしいのりえ)

「そうなのよおおおおおお」と腹の底から声を上げたくなる1冊

しぃちゃん

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