[サイジョの本棚]

“吉原の女帝”の半生に見る、清濁どちらも受け入れてきた人間の強み

2015/06/14 19:00

■『東京パフェ学』(斧屋、文化出版局)

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 パフェ評論家・斧屋氏による、東京近郊で食べられる厳選パフェ店76軒を紹介する『東京パフェ学』。単純にパフェに特化したグルメガイド本として楽しめるが、ガイド本の皮をかぶった“変な情熱を持ってしまった人”を楽しむ1冊でもある。

 一口にパフェといっても、王道ともいえるフルーツパーラーのパフェ、有名スイーツ店のパフェ、和風パフェから、「ミニストップ」のパフェ、全国チェーンのファミレスのパフェなど、その守備範囲は幅広い。食べる時には特別感があるのに、誰でもどこでも食べられる間口の広いデザート・パフェ。斧屋氏は、各店のパフェを紹介する傍ら、「3層として捉えるとわかりやすい」というパフェの堪能の仕方、その場でしか味わえない「総合芸術」としての魅力をさりげなく詰め込み、パフェを深く味わうためのヒントに満ちている。

 しかし一方で、本書に収められた、コラムニストである実姉・能町みね子氏との対談では、パフェを目の前にその魅力をとうとうと語る斧屋氏に対し、能町氏が「アイス溶けるよ」「上のミント取るだけでどれだけ語れるの…」と、対談やイラストでその偏愛ぶりに突っ込んでいく。その客観的な視点が残されていることでパフェに情熱を注ぎ込む斧屋氏の面白さも一緒に味わえる、二重に美味しい1冊になっているのだ。

■『食の職 新宿ベルク』(迫川尚子、筑摩書房)

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 『東京パフェ学』を味わい深いものにしている理由の一つは、一人ひとりのパティシェや職人たちがパフェに込めた思いも取材し、できるだけくみ取っているところだ。パフェにこだわる人には職人タイプが多く、効率、細かく手間がかけられていることも多い。

 彼らと同じように、効率の良い飲食業モデルとはかけ離れたスタンスにある喫茶店が、新宿駅構内の15坪の小さな店「ベルク」だ。新宿を利用する人なら、無意識にでも一度は目にしたことがあるだろう。

 個人経営でありながら、ルミネから立ち退きを迫られた時には2万人以上の反対署名を集めた小さな人気店。その副店長・迫川尚子氏による、飲食店をインディーズで経営する苦楽について書かれたエッセイ『食の職 新宿ベルク』が、漫画『孤独のグルメ』(扶桑社)などの原作者として知られる久住昌之氏による解説などを加え、文庫版として出版された。

 本書には、迫川氏らが「小さな無名の天才」と呼ぶ、ベルクにパンやハム、コーヒーを卸す個性的な職人たちへのインタビューも収められている。いかにも職人気質な彼らを含め、同店に関わる多くの人が「大手で流通するには効率が悪いが、自分が好きで納得できる味」を追求した結果が、ベルクを作り上げていることが伝わってくる。

 迫川氏は、大手の利便性を十分踏まえた上で、“「食」がメジャーなものだけ、「人気のベストテン」だけになったら面白くないのでは? もっとバリエーションがあってもいいのでは?”という考えで、関わる職人たちの心を動かし、メニューを創り上げていく。それはそのまま「世の中全てに支持されないけれど、自分が心底納得できる生き方」を模索する彼女の魅力を伝えてくれる。
(保田夏子)

最終更新:2015/06/14 19:00
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