ドラマレビュー第29回『30分だけの愛』

言葉の限界と肉体の表現力――『30分だけの愛』で見えた遊川和彦ドラマの誤算

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『遊川和彦への挑戦状 30分だけの愛』公式サイトより

 『家政婦のミタ』(日本テレビ系)や『純と愛』(NHK)で知られる遊川和彦は、不快な場面をあえて描くことで賛否を巻き起こし、登場人物が激しい感情をぶつけ合う姿を見せることで視聴者を引き込んでいく、挑発的な脚本家だ。近年では作品だけでなく、歯に衣着せぬ発言を繰り広げる本人の面白さにも注目が集まっている。

 そんな遊川の個性そのものを売りにしたのが、1月2日に放送されたスペシャルドラマ『遊川和彦への挑戦状 30分だけの愛』だ。本作は読売テレビ開局55周年を記念して制作された企画で、無茶なお題に対して遊川が挑戦するというバラエティ的な面白さもある作品だった。

 本作で遊川に課せられたお題は2つ。1つは遊川がダーツの矢を三本投げて決まった3つの設定を元に脚本を執筆すること。もう1つは遊川自身が演出を務めるというものだ。遊川は脚本家でありながら、撮影現場に積極的に関わることでも知られている。AD出身の遊川は現場に出向き、時に演出家と役者の間に割って入り、自分の意見を主張することを恐れない。現場に深く関わろうとする遊川のスタンスは「越権だ」という批判も多いが、本人の中では最終的な決定権はプロデューサーに預けるというルールがあり、とにかく自分の意見を主張し、お互いに意見をぶつけ合うことでしか面白い作品は生まれないというのが、遊川のドラマ制作における哲学だといえる。そんな遊川が、ついに自分で演出を務めるというのだから、注目せずにはいられない。

 ダーツを投げて、決定したテーマは「マッサージ師」「ラブストーリー」「泥沼に咲く花」。この3つのお題を元に生み出されたドラマが『30分だけの愛』だ。物語は、訪問マッサージ師の亀山愛(小池栄子)が、くも膜下出血で右半身不随となり、歩行と言語に障害を抱える元・証券会社部長のエリート・稲葉満(小澤征悦)のマンションへ訪問介護に訪れるところから始まる。

 稲葉は傲慢に振る舞うが、半身不随のため言語障害を抱えており、周囲の人々をいかに辛辣な言葉で罵倒しようとも圧倒的な弱者だ。一方、マッサージ師の亀山はいつも笑顔で明るく振る舞っているが、母親との関係に問題を抱えており、次第に人からの愛に飢えていたことが明らかになっていく。そんな亀山の「人とつながりたいという欲求」は、マッサージ師として稲葉の体に触れることを通して描かれる。

 おそらく演出家としての遊川がやりたかったことは、台詞では表現できない映像表現による身体の描写だったのだろう。だとすれば、半身不随の肉体のままならなさや、マッサージによる肌のふれあいを、いかに官能的に描くかが最大の課題だったといえる。小澤の半身不随の体による重たい動作や、言語障害を抱えたしゃべり方の指導はもちろんのこと、普段は堂々と胸を張った強気の女性を演じることが多い小池に猫背でおどおどとした話し方をさせるといった、役者に対する演技プランはしっかりと行き届いており、役者サイドも遊川の期待にしっかりと応えていたように見える。

 しかし、出来上がった映像は脚本が要求する水準には届いていなかったというのが正直な印象だ。特に残念だったのは、登場人物の妄想を表現する際に字幕に頼っていたことで、同じような妄想シーンは『純と愛』にもあったが、あちらの方が映像でうまく処理していた。やたらと揺れて主張が激しい割に、肝心のところでは踏み込みが浅いカメラワークは、見せ場となるはずの役者の肉体が醸し出す官能性を捉えきれていない。グラビアアイドルだった小池が主演を務めたのは、肉感的なものを求めてのことだと思うのだが、最終的に印象に残ったのは役者の肉体よりも台詞の力だった。

 身体よりも言葉の力が勝ってしまったのは、遊川の作家性を考える上でとても興味深いが、これは本人にとっては誤算だったのかもしれない。例えば、園子温や大根仁が同じ場面を演出したなら、もっと官能性が際立った肉感的でフェティッシュなものとなったのではないかと思う。

 とはいえ、単発企画ドラマでありながらも、男と女が感情をさらけだし、激しくぶつかり合う本作は、遊川が今まで描いてきた作品と遜色ない仕上がりで、見終わった後には、ぐったりと疲れ果ててしまった。また、介護を通して綺麗事ではない愛を描こうとするスタンスは、『純と愛』終盤で描ききれなかったことのリベンジにも見えた。欠点も含めて遊川の人間性が強く出た作品であることは確かだろう。本作を見れば遊川和彦がどんな人なのか、より興味が膨らむはずだ。近年、これだけ面白い人はなかなかいないので、今後も作品以外にも人間・遊川和彦の面白さに注目が集まってほしい。
(成馬零一)

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